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とある長官の耳飾り3

いちまんせんにひゃくアス……

そう書かれた値札をショーウィンドー越しにじっと見つめる私。値札の先には見事に鍛え上げられた小刀がある。


「わぁああー……」

「あのさ…ファイ……」


ぐいぐいとレイが私の袖を引っ張った。

それでもやっぱりその小刀から目が離せなくてじっと小刀を見つめたまま返事をした。


「なに?どうしたのレイ?」

「ものすっごく目立ってるから?」

「へっ?」


そして私はようやくショーウィンドーから離れて辺りを見渡してみた。すると、明らかに通り過ぎていく人達が私をおかしな物を見よるような目で見ている。


「何でだろう?」

「何でじゃないよ、明らかに僕たちがこの場所で浮いてるんだよ」

「浮いてたの!?」

「子供2人がこんな物騒な刀屋の前で目を輝かせてたら浮くのも当たり前だから!」


むぅ…そんなに浮いてるのかなぁ?

そもそもこのお店のどこが物騒何だろう?

確かに店の外見はお店の人の趣味なのか、やたらと紫や黒系の色をした絵が描かれていたり、骸骨や鎌を持った人(?)の等身大の置物が置いてあったりはするけど……

でも品物の精度はみんな一流品だよ!デザインは悪いけど!

この小刀なんて私が今すぐ買いたいぐらいだよ!目が飛び出る程高いけど!


「とにかく場所を変えよう?流石にこれ以上ここにいたらマズいから」

「えー……あっ、じゃあ次はレイの行きたい所に行こ!それなら直ぐ行くよ!」

「分かった、分かった。分かったから早くここから離れよう」


そして私はレイに背中を押されるようにその場を後にした。

いちまんせんにひゃくアス……私のお小遣い何ヶ月分だろう?誕生日の分も貯めれば届くかな?いつか買いたいなぁ……


「ほら、ファイ!行くよ!」

「はい、はーい!」


でも今は、レイとのちょっと特別なお出かけを楽しまなきゃ!




     ※




「むー……」


少し頬を膨らましながら怒って見せる。

数時間前にも似たような事をした気がする……


「図書館って…図書館って……」

「ファイ?静かにね」

「なんでまた本なの?レイはいつからそんな本好きになったんだー!私は寂しいぞー!」

「うん、そうだね」

「……流された」


図書館は嫌いじゃないけどレイが本にばっかり集中して全然構ってくれなくなる。

これじゃあお出かけした意味が無いじゃん。


「でもファイが言ったんだよ?僕の行きたい所って」

「それとこれとは話しが別なの」

「わがままだなぁ……」

「……」


まだまだ言いたい事は沢山あったけど、レイにこれ以上わがままだなんて思われるのは嫌だから黙る事にした。

私なんて全然わがままじゃないもん。寧ろ兄様に比べたら聞き分けがいい方ですよ。


「ファイ、僕あっちの方に行くけどファイはどうするの?」


そう言ってレイが指さしたのは『社会・経済コーナー』と書かれた案内板がある棚だった。

……人が1人もいない。あんな所、子供が入っていったらさっき以上に浮くと思う。


「レイ、本当にあれの何処が面白いの?」

「だから面白いとかじゃないんだけど……ファイだって昔はああいう本読んでたじゃん」

「先生が読めって言ったから読んだだけだもん。今更読み返しても全部覚えちゃったし」


確か、それを先生に言ったら『気持ち悪い』って言われたんだっけ。

別に…私からしたらなんて事のない、普通の事なのに。

それを聞いてたレイはいつもと変わらない様子で小さくため息だけ付くと笑いながら言った。


「まぁ、知識に長けておいて損はないよ」

「……」


多分、レイは変だ。

私に、そんな顔を見せながらずっと一緒にいるんだもの。




     ※





結局、レイと私は図書館の中で別行動をする事になった。

レイは難しい本が沢山ある所に、私は普通に子供らしい本が沢山並んでる棚の所に行った。


「ど・れ・が、面白そうかな?」


本の背表紙をなぞりながら沢山の本に目を通して行く。

すると、ふと、とある本が目についた。


『黒猫、空へ散る!』


……何か凄いタイトルの本あった!?

何なんでしょうかこのよく分からない異様なテンションは。ちょっと興奮状態になってきました。


「内容が全く想像出来ない……」


黒猫さんの身に一体何が起きたんだろう?親友にでも裏切られたのかな?

しかもこの本タイトルの割に異様に分厚い。普通なら読むのにかなり時間が掛かると思う。

でも、その本をよく見たら下に上巻って書いてあった。

まさかと思ってそのすぐ隣りの本を確認する。


『黒猫、星になる!』


星になっちゃったー!?

まさか黒猫さんが散った続きがあったとは……ますます内容が想像出来ない……


「……」


私は一旦考えた後、その本の上巻を手にとるとそのまま静かに貸し出しカウンターに向かったのだった。




     ※




「……それ?」

「これ」

「……黒猫さんの身に何が起きたの?」

「さぁあ?」


図書館を出た後、沢山の本を抱えて来たレイに私が借りた本を見せてみた。反応は私と全く同じだったけど。


「まぁ、ファイがいいなら別にいいんだけど……」

「うん」


本当にね、なんかね、よく分かんないんだけどすっごく気になったの。唐突に。

それに……


「なんか、タイトルが兄様と猫さんみたいだったから……」


私の好きな人達。兄様と猫さんとレイ。

ふわふわで兄様といる時が一番可愛い猫さん。

私のたった1人の大好きな兄様。

優しい幼なじみのレイ。

私は、4人一緒にいる時が一番幸せなんだ。


「あのさ、ファイ。だとしたら猫さん、お兄さんに散ってるんだけど……」

「細かい事は気にしない」

「そう……で、ファイどうする?もう夕方だけどそろそろ帰る?」


レイの言うとおり辺りはもう薄暗くて、空は真っ赤に染まってた。

そんな空を眺めていた私は思い出した。


(兄様のイヤリング…夜には返さなきゃいけないんだった……)


別に、家に帰って夜に猫さんを送ってから帰ってくる兄様に返せばいいだけなんだけど、私はどうしても夜になって直ぐに兄様に「ありがとう」って言いながら渡したかった。


(多分、今頃は猫さんの所かな?)


空は赤くて、太陽は眠ろうとしてる。ここからは大人達の時間、子供達の時間はおしまい。

でも、今日の私は兄様のイヤリングを付けてちょっと大人に背伸びをしてる。

だから、少しくらい大丈夫だよね……


「ちょっと、行きたい所があるの」




     ※




猫さんは街からちょっとの所にある森の中。ボロボロの廃墟に住んでる。

私も数回位猫さんの所に行った事がある。


「猫さん、猫さん。兄様、兄様」

「……でもファイ、あの猫さん何でそんな所に住んでるの?」

「なんか…お外が嫌いなんだって」


と言ううか、私もよく分からないけど。

それから、しばらく歩いてると周りには何故か人、人、人。何十人もの人だかりが出来てた。

いつもは人通りなんて殆ど無いのに。


「……何だろう?」


空は赤くて夕日はまだ沈んでない。

今何時頃だろう?


「ねぇ、レイ何があるの?私じゃ見えな――!?」


バサバサッとレイ抱えていた本が後ろで落ちていく音が聞こえて来るのと同時に私の視界は真っ暗になる。

目の周りは少し暖かくて直ぐに、それがレイの手だって気が付いた。


「レイ……?」


レイに何故か両方の手で目隠しをされてる。

理由は全く分からない。


「何?どうしたの?」

「……ファイ、帰ろ」

「え?」


レイの声は震えているみたいで目隠しされている手に力が籠もった。


「いいから、早く!」


そう言って片手で目隠ししたままレイはもう片方の手で私の手を掴んで来た道へ歩き出そうとした。でも、子供の私達の小さな手じゃ全てを隠しきってはくれなかった。


真っ赤に燃えるあの森を。


「…あ……」


私はガクンと膝を付いてその場に座り込んだ。

片手をレイと繋いだまま。追いつかない頭で必死に今を考える。


「え……?…あれ?……」


今真っ赤に燃え上がってた森は猫さんと兄様のいるはずの森で――


「兄様…兄様!!」

「ファイ!」


火に包まれた森に向かって走りだそうとする私をレイが必死に止める。

私の手を掴むレイの手が凄く強い力で私を抑える。

ボロボロ涙が流れ出して止まない。痛い、どこから来るかも分からない痛みに襲われる。


「あ…あぁあああああああ!!!!」


待って!待ってよ!私の好きな人達を奪わないで!燃やしてしまわないで!!


「私…私……」


まだ、伝えてない。

兄様にありがとうって。私には恋は分からなかったけど、私が好きなのは何か、守りたいのは何か分かったって。


「伝えてないよ……」

「ファイ、ファイ。まだ、分からないよ。もしかしたら逃げてるかも知れない」

「うん…うん……分かってる……」


レイが背中を撫でながら慰めてくれる。それだけが今一番安心する。


「レイ…ごめん。ありがとう」


そう言いながら私はギュッとレイに抱きついた。

分かってるとか言ってもやっぱり怖い、怖くて、不安でたまらなく寂しいよ。


「大丈夫、大丈夫だよ。だってあの人は誰よりも強くて格好良くて……」

「ぅう…うぁああああああ……」


私もレイも2人して泣き出した。

焼け焦げた嫌な臭い。

涙で歪んだ真っ赤な視界には兄様と一緒に読みたかった黒猫さんの本が転がっていた。




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