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とある長官の耳飾り

幼い長官さんとお兄さんの話しです。

長官さん視点でお楽しみください、まる。

「ファイさん、それなんですか?」

「ん?何とは?」

「今ファイさんの髪の中で何か光ったやつです……」

「光?……あぁ、これの事か」


私はそう言うと右耳から耳飾りを外しリリアに見せた。その耳飾りは透明感のある青色をしたクリスタル型のイヤリングだった。


「おそらくこれが日の光に反射して光ったのだろう」

「そうだったんですか。わぁー綺麗ですね」


リリアは物珍しいのか関心したようすでまじまじと私の手の上にあるイヤリングを見つめていた。


「ずいぶん年代物ですね、ずっと使ってるんですか?」

「そうだな、もう10年以上使っているな」

「10年!?」


それを聞くとリリアはびっくりした様子で私とそのイヤリングを交互に見る。

そうか、私がこの耳飾りを使ってからもう10年以上経つのか。いや、この耳飾り自体私が使う前に5年近く兄様が使っていたのでこの耳飾りはもう15年以上使われている事になるな。


「じゅ、10年以上も……よく壊れませんでしたね」

「ふむ、そう言えばそうだな。よく壊れなかったものだ」


まぁ、もし壊したら私はあいつに…ネリに顔向け出来なくなるのだがな。なんたってこの耳飾りは兄様の大事な耳飾りなのだから。




     ※




「ネリにめられたよファイ!」

「あっ、兄様」

「ひゃぁああ!?」


私とレイが2人一緒に庭で本を読んでいたその時、突然向こうの方で猫さんと一緒にいたはずの兄様が現れて私達に飛びついた。けれど私の隣りにいたレイはその衝撃で悲鳴を上げながらガンッ!と地面に頭をぶつけてしまっている。まったく、情けない。


「兄様褒められたの?」

「うん、ネリが褒めてくれたよ~」

「ソラ、別に儂はお主を褒めた訳じゃないんじゃが……」


とっても嬉しそうにしていた兄様のさらに後ろからゆっくりと歩いてきた猫さんは困ったようにため息をつきながら兄様にそう言った。

猫さんは地面に付きそうな程長い長い銀髪を揺らしながら紫色の目でこっちを真っ直ぐ見た。

そしてその頭にはふわふわの毛並みの可愛い耳が生えてる……久しぶりに触りたいなあぁ……うずうず。


するとそれを聞いた兄様は全く何も変わらない笑顔で猫さんの方を見たかと思うと、突然笑顔のままダバァアーと凄い勢いで大量の涙を流して泣き出した。

さすがにこれにはびっくりしたのか、たじろいだした猫さんは慌てた様子で兄様を見る。


「だ、だってネリが凄いって…綺麗だって言ったじゃん……」

「いや、じゃからなソラ。儂が綺麗と言ったのはお主ではくお主の付けとる耳飾りなんじゃて」

「うぅ……」


それを聞いた私は、くっついてる兄様の耳元に視線を向けた。そこには青色のクリスタル型をしたイヤリングが付いている。確かそのイヤリングは父様と母様が兄様の成人祝いの1つとして贈った物だ。

とてもすてきな透明感のある青色で猫さんが綺麗と言ったのも納得できる。できるけど……


「あぁもう、分かった分かった。儂はお主もちゃんと凄いと分かっとるよ、綺麗と言うか……か、格好いいとは思っとる」


……猫さんが子供をあやすお母さんに見えてきた。

猫さんが顔を赤らめながら兄様の頭を撫でて慰めてるのはきっと兄様の姿に母性本能をくすぐるものがあったに違いないです。

……兄様…本当に大人ですか?


「ネリ大好き!」

「にゅわぁあああ!?」


猫さんの言葉となでなでに嬉しくなった兄様はパァアアとやわらかい笑顔になって、その笑顔のまま勢いよくに猫さんに抱きつく。


「…――っ!?」


抱きついた勢いが良すぎて猫さんを押し倒す形になっちゃいましたが……


「お、お主の目的はこれかぁああーー!」

「えっ、不可抗力だよ♪」

「笑顔で言っても意味無いわぁああああ!!」


猫さんがそう叫んでからはいつも通りの兄様で、2人仲良く……仲良く?はしゃぎ始めた。

それを見た私は、とりあえず兄様のせいでおもいっきり地面におでこをぶつけたレイの頭を慰めるようにぽんぽんと撫でてあげた。




     ※




それから何日かたった後……


「……兄様またそれ付けてる」

「うん、付けてるよー」


前はたまにしか付けていなかったはずなのに、それどころか息子の成人祝いに女物の耳飾りはどうなんだろうかと困ったようだったのに、猫さんが兄様の耳飾りを綺麗だと言ったあの日から兄様はほとんど毎日その耳飾りを付けていた。


「どうして猫さんが綺麗と言うと兄様はそんなに嬉しいのですか?」

「んー、そりゃあやっぱりネリが好きだからなんだろうけど……」

「?」


よく分からず首を傾げた私を見て兄様は、悩んだように曖昧に笑うとゆっくりと私の目線に合うように膝をつき私の肩にポンと手を置いた。


「……要はねファイ、俺はネリの気を引きたいんだよ!」

「そんな下心バリバリだったの!?」


兄様なりにもっと凄い意味があるのだと思っていたのに!そんな下心でずっと付けてたなんて…情けないを通り越して恥ずかしいです。

けれど兄様はびっくりした私に優しく微笑むとにこにこした表情のまま私に言った。


「下心でもなんでもネリが綺麗だって、似合ってるって言ってくれたからね。それって、これを通してだけどネリが俺を見てくれたって事だと思ってるんだ。だからずっとこれを付けてるとネリがずっと俺を見てくれてるみたいな気持ちになるんだよ」

「?…?…――??」

「ファイにはまだちょっと分かんないか」

「わっかんない」


私にはまだまだ早い気がする。兄様の言っている事が少ししか分からない。でも、ただ…兄様が嬉しそうな事だけは分かる。そして兄様は笑顔で私の頭を撫でてくれた。


「これじゃあまだファイは恋愛出来ないね~」

「恋愛が出来ないと結婚出来ないの?」

「そりゃあ恋愛をしなきゃ結婚は出来ないけど……」

「じゃあ兄様と結婚します」

「だめだよー、兄様にはネリがいるからファイとは結婚出来ない」


それだと猫さんがいるいない以前の問題がありますよ兄様。猫さんがもしいなくてもおっけいじゃなく……猫さんがいなかったら……?


「…………で、では兄様は…もし猫さんがいなくなってしまったらどうなっちゃうの?」


不意に、私が少し前から感じていた疑問を兄様に告げた。

兄様はびっくりしたような表情で真っ直ぐ私を見る。兄様は不意に少し悲しそうな表情になったかと思うとポンッと私の肩に兄様のおでこが触れた。そしてぎゅうぅーと抱きしめられる。


「そう…だね。そうなったらきっと……目の前が真っ暗になって悲しくって…もしかしたら死んじゃうかもしれないなぁ……」


猫さんがいなくなったら兄様が死んじゃう……?


「そ、それは嫌!!兄様が死んじゃうのは嫌!」

「うん、ファイがそう言うかもしれないから多分死なないよ。でも…もう結婚どころか誰も好きになれないだろうけど……」


あっ、まただ。

また、あのどこか遠くを見ているような…兄様が私なんかより遥か遠い場所にいるようなそんな目だ。

兄様…とても悲しそう……


「大丈夫ですよ兄様。猫さんとっても強くて可愛いもん。きっといなくならないよ」


だって猫さんは兄様の事が好きで、兄様も猫さんの事が大好きで。

きっと兄様と猫さんはずーっと一緒のはずだもん。


「それに、もし何かあってもクライアント家の志が兄様達を守ってくれます」


これは父様の口癖だ。兄様が剣の練習をするときや、大変なお仕事に行くときなんかにいつもそう言い聞かせてる。

私をぎゅっとしたままだった兄様は私の言葉を聞くとそっと私の身体から離れた。


「ありがとう、ファイ。ちょっと弱気になってた」

「どういたしまして」

「……それじゃあ、ファイ。今日1日だけこれを貸してあげる」


そう言って握られていた兄様の手から受け取ったのは、さっきまで兄様が付けていたあの耳飾りだった。


「いいの?兄様の大事なのだよ?」

「うん、1日それを付けてみたらファイもきっと何か分かるだろうから」


じゃあこれを付けたら私にも出来るのかな?兄様と猫さんのような素敵な恋愛が……


そしてそのイヤリングを兄様の手で私の耳に付けてもらうともう私の中は嬉しさでいっぱいになった。


「ファイ大人っぽい?」

「うん、お姉さんみたいだよ」

「結婚出来るぐらい?」

「うーん…それはちょっと無理かな……」


無理か。まぁ、分かってましたが、結婚は15歳にならないと出来ないし。

でもやっぱりそのイヤリングを付けるとちょっと背伸びだけど兄様に近づけた気分になった。


「ありがとう、兄様!」

「うん、でも明日の夜には返してね。大事な物だから」

「了解です!」




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