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とあるメイドの恋心

「フ~レ~ア~♪」

「はい?なぁに、ミキ君?」


いつものようにニコニコしながら一体どこからやって来たのか分からないくらいに自然な感じで私の後ろにミキ君がテトテトと付いて来ている。


「フレア♪」

「……なにか御用?ミキ君?」


私が何度も名前を呼ぶミキ君に不思議がっているとミキ君は凄く嬉しそうに「えへへ」と笑って見せた。


「ううん、用は無いけどさ。フレアが名前呼んだら返事してくれるのが嬉しいんだよ」

「な、何言ってるのミキ君――!?」

「可愛いフレアが返事してくれるのが嬉しいんだよ」

「そうは言ってなかったよね!?」


ミキ君にそんな事を突然言われ、私は赤くなる顔を隠しながらその場から走って逃げ出した。けど後から猛スピードで追ってきたミキ君から逃げ切れる気がしない。

ミキ君すっごく脚早いんでした!それに体力も底無しでした!


「ふーれーあー……のわっ!?」

「ミキ君!?」


突然ミキ君の呼ぶ声が止まったかと思ったら後ろではミキ君がお義母かあさんに首根っこを掴まれてました。お義母さん…ミキ君の首が完全に締まってます……


「あなたはまた仕事もしないでフレアの邪魔をして」

「いやいやメイド長様、けして邪魔はしてないですって。ちょっと追いかけ回してただけでして――」

「……フレア、色んな意味で今すぐ逃げなさい」

「……」


お義母さんにそう言われ私は無言で2人に背を向けて逃げ出しました。


「ちょっ!フレア!無言は止めよう!せめて何か言って!」

「あなたにはサボった分の倍の仕事がありますからね。さっさと行きますよ」


そしてズルズルと引きずられていったミキ君から逃げ出した私は廊下を曲がって直ぐ近くにあった部屋に入りました。

扉を閉めると自然と地面に座り込んでしまいました。


「あぁ…またミキ君から逃げちゃったぁ……」


逃げないって決めたのに。


「うぅ…でもあの状況から逃げないのは私には無理だし……」


次に似たような事が起きた時、私はどうしたらいいのでしょう。またお義母さんに助けてもらう訳にはいきませんし、逃げても駄目ですし……


「ど、どうしたら……」

「あのぉ…フレアさん。その葛藤を私の前でやられても反応に困るんですが……」

「ひゃぁあ!リリア様!?」


い、いぃ…いつからそちらに!?

しかし振り返ってよくよく部屋を見渡すとここはリリア様のお部屋でした。つまり、いつからなど聞くまでもなく最初からなのです。

リリア様は椅子に座り机に向かってずっと何かを書いたらしく手にはペンのような物が握られてました。今は書くのを止めてじっと私をみてます……その視線が若干痛いです。


「まぁたミキが何かしでかしましかた?」

「違います!違います!」


すみませんリリア様。大当たりの超ストライクもいいとこです。


(いや、フレアさんの顔完全に真っ赤だし。しかもミキの名前に超反応してるんですが……)

「とにかく勝手に部屋に入ってしまって申し訳ありません。直ぐに出て行きますので」


私がそう言って立ち去ろうとするとリリア様は何か考えるような仕草をした後不意に私に話しかけました。


「なるほど、じゃあフレアさんはミキが原因じゃないのに突然顔を真っ赤にしながら現れたんですね」

「……えっ?」


えっと、リリア様は一体何を言って……


「ミキが自分以外の事でフレアさんが赤面したなんて聞いたらどう思うんでしょうね」

「どう…思うのでしょうか……」


タラタラといやな汗が出てきました、ついでに顔も引きつっています。

一体…ミキ君がそんな事を知ってしまったら……ど、どうなるのでしょう……


「発狂するんじゃないですか?」

「く、狂い出すのですか!?」

「ミキなら十分有り得ますよ」

「……」


確かに有り得なくない。だってそれがミキ君です、ミキ君なのです。

リリア様の言葉とさっきの失敗にしどろもどろしている私にリリア様は少しだけため息をついて私の前までやって来ます。


「そんなに後悔するなら逃げなきゃいいじゃないですか」

「それは……リ、リリア様だってよく逃げてるじゃないですか」

「いや、私のは男性恐怖症なので男性の殆どが苦手な訳で……」


すると、リリア様が急に話すのを止めたかと思うとじーっと私を見てひらめいたように言いました。


「フレアさんの場合……ミキ恐怖症?」

「違います!ミキ君を恐怖なんてしていません!ただ……」

「ただ?」


その先を言ようとすると私の心臓がいつもより速く音を刻みだして、身体中が真っ赤になりそうな程熱くなる。私は赤い顔を俯かせながら小さい声でその先を言う。


「ミキ君って凄く…凄く格好いいんですもん……」

「あぁ……」


そうです、ミキ君は私なんかとは全然釣り合わない位格好いいのです、心臓が飛び出そうな程美形なのです。


「まぁ、仮にもあのエルさんの従兄弟ですからねぇ。身長はエルさんよりかなり低いけど」

「ですからそんなミキ君が近づいてきたらもうどうしていいのか分からずに気がついたら逃げてしまっていて……」

(……あれ?のろけになってない?)


あぁあああ……!私はなんて事をリリア様に口走ってしまっているのでしょうか。恥ずかしい上にずうずうしいです!

けれどリリア様は座り込んでいる私に手を差し出しました。


「とにかく、今回が駄目でもまた次に頑張ればいいじゃないですか。フレアさんとミキにはまだ沢山チャンスがあるんですから」


あぁ、リリア様は本当にとても優しいくて真っ直ぐな方です。こんな私の話しを聞いて優しく言葉をかけてくれるのですから。


「あとフレアさん、その『リリア様』ってのはどうにかなりませんか?」

「えっ?」

「私よりフレアさんの方が年上ですし」


……それはつまり、リリア様を“様”無しで呼ぶと言う事で――


「そ、それは私にはまだ無理です!」

「……」


ひやぁああああ!?間違えて“まだ”って言ってしまいました!それじゃあまるでこれから先にリリア様を“様”無しで呼ぶ日が来るかもしれないみたいじゃないですか!リリア様もびっくりしてます!

すると突然リリア様がにっこりと笑いだしたかと思うと差し出していた手で私の手を掴み立ち上がらせるととても嬉しそうな声で言いました。


「はい、楽しみにしておきます」


……リリア様は時々反則です。




     ※




「ミ、ミキ君!ちょっとこっちに来てくれる?」

「なに!なになにフレア!」


ミキ君はテトテトと素直に私が手招きした所に笑顔で歩いてきた。

私は一度深く息を吸いながらリリア様の言葉を思い出す。


『後悔するなら逃げなきゃいいじゃないですか』

『フレアさんとミキにはまだ沢山チャンスがあるんですから』


逃げない、逃げない、逃げない。もう絶対に逃げない、頑張るって決めたんです。

私の目の前まで来たミキ君を真っ直ぐ見ながら私は言う。小さい声だけれど一生懸命に、つたない言葉だけれど大切に。


「私は…ミキ君が……すっごく大好きです!」


しばらくの静寂があったかと思うと、次の瞬間ミキ君は真っ直ぐに私に飛びついて力強く私を抱きしめた。


「嬉しい!嬉しい!すっごく嬉しい!僕ももちろん大好き!」


こんな風にミキ君に言葉を伝えられたのは、多分もう少し先の話し……




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