初めて?
太陽が沈み始める夕方。
柊は用事があると言って昼過ぎには帰ってしまい、他の常連客の方々も1、2時間ゆっくりした後帰ってしまい今この店には客がほとんどいない。
まぁこんな日もあると、あまり深く考えないことにし、手元の本に目を落とす。
物音一つない部屋の中でジャズを聞きながら小説を読みふけていると、今日何度目かの扉が開く音がした。
「いらっしゃいませ」
「えっと……あの……はい」
始めてこの店に来たのであろう女の人はあまり活発な雰囲気は無く、眼鏡をかけていて前髪を眉の下辺りまで下ろしているせいか、余計に雰囲気が暗く見えた。
だが、どんな客でも客なので、いつも通り接することにした。
「ご注文は?」
「はいっ!? コ、コーヒーを……」
「わかりました」
何処かで見たことがあるような気がしながらも、他のお客と同じように接する事を心がけながら、コーヒーを淹れるため立ち上がった。
「あ、あの……」
「何ですか?」
「野畑 葵くん、ですか……?」
葵は一瞬固まり、少しかんがえた。
……さて、どう答えようか。
よく見ると、どうやら同い年のようでそう考えると同じ学校の人と考えるのが妥当だろう。
正直言ってこのみせのことをあまり学校の奴らに言いたくない。理由をあげるならば、知り合いがこの店に来るのはあまり気持ちの良いものではないからだ。
「す、すいません! 人違いでした……」
「……いえ、あってますよ」
だが、彼女は大丈夫そうだ。あまり自分から人に話しかけるような人には見えないし、ちゃんと言えば聞いてくれそうだから。
合っていると分かったからであろうか、彼女はホッとする反面嬉しそうでもあった。
「そうでしたか。私、一応野畑くんと同じクラスなんですよ?」
「すいません……全然気づきませんでした……」
「い、いえ、私学校じゃほとんどいないも同然ですから」
なぜだろう。この人とは始めて話す気がしない。
そんな勘違い野郎みたいなことを今ちょっと本気で思ってしまったので、急いで頭の中から消した。
だってそうじゃないか。同じクラスとはいえ挨拶すら交わしたことのない相手にそんな事を考えるなんて……
「どうしました……?」
「あ、いえ……コーヒーお待たせしました」
柊の時と嬉しそうに微笑んでくれたはいいが、どうも違和感を感じた。
こんなに綺麗に笑える人だったっけ?
その後、少し言葉を交えた後、また来ます。と言って帰ってしまった。