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喫茶店「楽堂」


日が完全に昇り切った午前7時。


とある街角に店を構える小さな喫茶店からは、高校生くらいの青年が大きな欠伸を漏らしながらゆっくりと出てきた。


青年は、玄関の横に立てかけてある看板をひっくり返し「営業中」にすると再び店の中へと入って行った。


この店の名前は「楽堂」という。数年前まで青年の父親が経営していたが、急な病に倒れ、青年が母親に頼み経営を続けさせてもらっている。


そして、青年こと野畑(のばた) (まもる)は、高校2年生という青春真っ盛りのお年頃ながらも、恋愛などにあまり興味が無く、ずっと父に憧れていた彼は、この喫茶店を受け継いで営業することにした。


店が開店してから数十分。葵はコーヒーをすすりながら、新聞を読んでくつろいでいると、店の扉がカランコロンとこぎみのいい音をたてて開かれた。


「おはよう葵君。」


「おはようございます、柊さん。」


「おや? 今日は私が一番乗りのようだね」


「えぇ、みなさんもうすぐしたら来ると思いますよ」


それは楽しみだと、ニコニコしながら答える(ひいらぎ)と呼ばれた男は、常連客の一人で、父が経営していた時からのお客なので、葵にとってはお客様というよりはおじさんに近い存在だったりする。


「葵君、いつもの頼むよ」


「わかりました」


いつものというのは、コーヒーと母さんの焼いたクッキーのことだ。


柊は母の焼くクッキーをえらく気に入ったらしく、店にくるたび必ず頼んでくる。


柊はカウンターに腰掛け、準備中の葵に話しかけてきた。


「そういえばさ、葵君は休日は一日中お店やってるけど、友達と遊びに行ったらしないの? それとも、友達がいないのかな?」


「とんでもないことをすんなり言いますね。それで僕に友達いなかったら相当傷ついてますよ?」


柊はそんな葵の返事を聞いて楽しそうに笑った。


「冗談だよ。葵君が友達よりこの店のことを優先してることを私はだれより知ってるつもりだからね。だけど、だからこそ葵君はもう少し友達と遊んできても良いんじゃないかな?」


「そうですね……ですけど、僕は休みを増やすつもりはありませんから」


丁度コーヒーとクッキーの準備ができたので、柊の前に出すと、嬉しそうに微笑み、クッキーをかじってこう言った。


「ま、君の人生だ、君の好きなように生きるといい」


「はい、そうさせてもらいます」


葵の返事に満足したのか、その後は互いに喋らず、レコーダーで流しているジャズのメロディーだけが静かに流れたいた。


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