第2章 第7話 立つ位置
本当に見世物パンダ状態。
どこにもめざとい輩はいるもので、あれが、とかあの、とか、こちらの事情をひそひそと得意げに話す人たち。
面倒くさいにも程がある、私はあなた方など全然知らない。
けれどそんなもの柳に風どころか、さすがうちのメンバーは全然気にも留めない。
委員長も、他のメンバーもワラワラと集まってくる野次馬を、まるで存在自体ないかのようにしている。
噂を聞いて、後からかけつけてきた人間にも同じこと。
現在何とかめげずに「あの・・・・」とか言って話しかける、うちの学園の従姉妹を通して苦情という招待状を出してきた1人の女生徒と、この高校の生徒会という人間達もまた同じだ。
いかにもな揃いのシンボル、笑っちゃいけないけど桜をモチーフにしたカードを胸につけ、ポケットには桜色のハンカチを差し込んで腕章もという、意気揚々とこちらに近づく団体に、はじめ何このコスプレ集団、って感じで見ていたんだけど、驚くことなかれ、この方達が、この高校の生徒会の皆さまらしい。
私達の傍にきて初めのころは威勢よく、
「聖桜学園のカメリア会の皆さま、ようこそお越し下さいました!」からはじまり、「受付を通していただければよろしかったのに。」だとか、かしましくいろいろ話しかけてきた。
こちらが公私どちらかできたのかも聞く事もせず、言いたいことをおのおの言っている。
生徒会長をしている女子生徒をさくら様と呼び、副会長らしい男子生徒は桔梗様なんて呼び合っている。
笑えってか?
いやいや自分たちで何をどうしようとちっともかまわないのだけれど、めいめい勝手に話しかけては、うちからここに転校してきた子の苦情と言う悪口を勝手バラバラにいってくる。
うん、でもね、2年たつんですけどぉ、そう言ってみたくなったのは内緒だ。
そのうち、こちらが一つも反応を、いや視線すら合わせることもせず、完全無視している事にやっと気づき、一人、また一人とやっと口をつぐんでいく。
やれやれだ。
それでもうちの学園にいる従姉妹が自慢だという生徒が、何とか「あの・・・」とかあきらめずに話しかけてくる。
私は初めて顔をあげた。
それを見て委員長が私に声をかけてきた。
綺麗にすっと、抜群のタイミングで。
「透子様、申し訳ありませんでした。とるにたりぬ高校の事とはいえ、このひどいありように関わらせてしまいました。」
それに別の子がすかさず返す。
「いいえ、これは私のミスでございます。この度の陳情書を預かった1年の生徒は、印刷業を大きく伸ばされたお家の子で、その躾がとても厳しかったとみえ、家柄がないにも関わらず、臆することなく黒ユリ会に尽くしてくれておりました。その子からのものでしたので、つい。私がもう少ししっかりと見極めるべきでした。」
そううつむく子に手で気にするなと答え、
「別にたかだか遊びにきただけの事、挨拶一つ、言葉一つまともに話せない人間も、それが学校の代表として、こうしてままいる事を知ればよい、それだけのことだわ。」
その私の言葉に答えを返したのは、元カメリアメンバーズの補佐をしていた、くだんの転校生だった。
「お久しぶりでございます。黒ユリ様、ならびに皆様方。」
そう言って優雅に腰をおり、どうやら後ろに取り巻きだろう5~6人を引き連れて堂々とこの空気の中挨拶をしてくる。
それを見て、ここにきて初めて委員長達がマジモードに突入した。
あの生徒会を揶揄するのとは違ういつもの空気をまとって。
私が椅子に鷹揚に座り直すと、そのすぐ脇に委員長が立ち、少し背後に他の子たちが控える。
そうして私が挨拶を返す前に、息もぴったりに、本当の挨拶とはこうだとばかりに、一糸乱れず、なおかつ優雅に、その中に、きちっと自分たちの優位をみせつけるような、この私もほぅっとするような、淑女たる本物の礼を返す。
挨拶された彼女よりも若干高い位置で綺麗な所作で。
「ごきげんよう、一色様。お久しぶりでございます。」
家系図には有名人がいるという一色さんは、見事に家業が傾いている。
それは2年前のカメリア戦争の後遺症。
旧カメリア組は結構そんなのが多い。
うん、うちの保護者ズ、私には過保護だかんね。
それでも一色家は頑張ってる方だ。
私はあの先輩と、あの先輩についていたこの人は嫌いじゃない。
私はチラッと一色さんをおもしろそうに見る、そして、おもむろに
「ごきげんよう。」
ただ一言だけを告げる。
この言葉の恐ろしさは他愛もない一言にいろいろな感情をこめて使える、まじ、上流階級半端ないって代物の代表だと思う。
一色さんは、この高校の道化たちを、鼻で笑うのを隠そうともせずに、
「この高校で今年愚かな子が入学しましたの。聖桜にいる従姉妹から聞く諸々、特に黒ユリ会にあこがれるあまりに、友人たちまで感化して。」
「それでこれですの。あまりのひどさに、私たちが戦ったあれまで、侮辱されたと思いまして。」
「それでリコールを進めていましたの。」
チラと周りを見渡して、
「でも、わざわざ動かなくてももはや大丈夫みたいですわ。」
「不本意ですけれどね。」
そう言ってこちらをみながら上品に笑っているけれど、その目は笑っていない。
委員長が、綺麗に微笑みながら
「相変わらず、ですわね。」と言うと、
「どういう意味かしら?」と首を優雅にかしげてこちらを見る。
それに委員長も更に優雅に微笑み返す。
「わたくし負けた事がないものですから、そのまま変わらずにおられる一色様に、感心してしまいました。そういう意味でおかわりがないようですねと申し上げました。」
「まあ、ふふふっ。」と驚いたように茶目っ気たっぷりに笑う一色さん。
取り巻きたちが見惚れるそれは、さすが、としか言えない。
「わたくしも、自分の力ではなくとも上をめざす気概があればよいのですけれど、どうにもそのような気になれませんの。」
「母に言わせれば、遠く平安から続く血が、それを認めないのでしょう、と。そうおっしゃるのよ。」
「わたくしも、そうなのかしら、って最近思いますの。」
「たかだか明治以降の方たちとは、考えがねぇ、どこか違うようですわ。」
そう言ってまた上品に笑う。
あくまでもたおやかで上品で、その綺麗な顔を使う術をちゃんと知ってる、さすがだ、先輩、補佐もやっぱり一筋縄じゃいかない。
うちの委員長とやりあう姿を見て、思わず笑いそうになったけど、後が怖いからやめた。
周りの生徒会の人間や野次馬さえ、このこわ~い、あなたの知らない世界に顔色を悪くしている。
ね、だから普通が一番でしょう、そう言ったら今なら皆素直に同意して、うんうんうなずくに違いない。
けれどそろそろ帰りたい私は、その会話に割って入った。
「一色さん、でしたわね。」
私が話しかけると少し顔をこわばらせ、それを許せないとばかりに瞬時にそれを消し去った彼女。
「あなた、何か勘違いなさってなくて?」
「一度退場した、ましてこの私と袂をわかった人間に、先があるとお思いなのかしら?あなたに何が夢をみさせているのかは知らないけれど。」
「そうねぇ、ある程度までは登れるかしらね・・・・。けれどその先には進めなくてよ。わたくしはワガママだから。自分の目につくところには、自分の好きな者だけでいいの。おわかりかしら?」
暗に潰すと脅してやった。
けれど彼女はそれでも笑った、華やかに。
そうして別れの挨拶をする。
そうしてきびすを返す時、背を向けながら言った。
「これでも古典が得意ですの。特に平家物語が好きですのよ、わたくし。」
そう言って綺麗に、その場を去っていった。
その握りしめた指が悔しさで震えているのを本人はわかっているのだろうか。
「ごきげんよう」「ごきげんよう。」と一色さんと挨拶をかわし、私達もそのままそこを去った。
本当におもしろい、私はその日機嫌が良かった。
祇園精舎の鐘の・・・あの一説は有名だ。
けれど私はこのまま突っ走る、平家は一族を増やしすぎた。
私には保護者ズだけでいい。