第2章 第5話 狐とうさぎ
「聞いていらっしゃいます?」
あきれたように私に問いかける委員長に、鼻で笑ってやった。
「うちから逃げ出したおバカが、他の巣をあらしてる、って事でしょ。」
私が言うと、委員長は、それはもういい笑顔で、うん、他の人間、特にこの委員長を白様と呼んで慕っている学園の子たちに見せたら、その黒さに衝撃を受けるんじゃないかというくらいの、腹黒さ満開の笑顔を私によこしてきた。
今季のカメリアメンバーズは、トップの私が黒ユリ様と呼ばれているせいか、いつのまにか皆、色をつけて呼ばれるようになった。
その色名は、これから代々、その役職と共に受け継がれる事になった。
ばからしい事に、これ生徒総会で決まったんだよ。
うん、うちらその初代ってわけ。
後々の人間に恨まれそうだねぇ、と私がその議案が決まった瞬間言ったら、とんでもない、と目をキラキラさせて、他のメンバーやその補佐達がむきになって否定してきけど、どこらへんがとんでもないって、この議案が全クラス共通で出された段階で、ありえないって思うんだけど。
この子らも、うちの保護者ズも大喜びだから、何も言うまい、って私は思った。
どうよ、私も大人になったよね。
いろいろあきらめる事を知ったもの。
・・・・・あきらめる内容がって気がしないでもないけど。一応私は常識人、私は常識人って頭の中で繰り返すのも覚えたよ。
で、話は戻すけど、自分としては記憶の彼方にある、あのおどおど娘、改め現在2年をまとめる山田さんの一連の騒動の時、この学園を去った人間が転校した先でもめごとをおこし続けているらしい。
うちに通う1年の子を通して、その学校生徒会からの陳情書がきていた。
もちろん、それは陳情書としての形態はとっていないが、その学校の創立記念祭への招待状と共に、その転校生の現状報告が何気についていたわけだ。
学園祭やらこの手の誘いは数えきれないくらいあるが、姉妹校及び交流会高以外、実質無視してきた。
送ってくる側も、だめもとで送ってくるのが丸わかりで、めんどくさいにもほどがある。
それでなくても、うちのメンバーズは、個人的にはお家の事情でのパーティーが多く、それでなくとも公私ともども忙しい日々を送っている。
それに加えて、我が黒ユリ会とそれぞれの保護者達を交えての会合も定期的に行われている。
ゆえに、いつも無視している、もろもろの招待の一つについて、いかに在校生を通してとはいえ、委員長がその話しを私に振ってくる事じたい珍しいことだ。
委員長の顔を見る。
相変わらずうさんくさい笑み。
何でこの委員長が白様なんだ?ここの生徒は、盲目的なバカじゃないはずなのに。
白?どちらかといえば、ねずみ色じゃ・・、私が脳内でそう思ったと同時に、
「何かおかしな事をお考え中に失礼とは思いますが・・・」
そう言いながら委員長は腕時計を指し示す。
エスパーか、こわっ!確かにもう昼休みはギリギリの時間だ。
私はその創立祭に参加をすると委員長に答えた。
ちょうどよい、気晴らしにでも出かけよう。
私は庶務から渡された、その学校の資料を腕に抱え黒ユリ館を出た。
庶務からは、もう数時間もすれば、どこぞの情報部も真っ青な、どこもかしこもマル秘の資料がどっさり届くだろう。
この子の実家のリサーチ会社は、我が黒ユリ会の親たちの援護もあって、このアジアでは一番の会社へと変貌を遂げていた。
情報は何であれ命だものね。
私は逃げていった巣までかきまわす、まだ見ぬその子を思い浮かべ微笑んだ。
脇に並ぶ委員長から、「尻尾が隠せてないですよ。」と、しれっと言われ、どこの化け物だ!自分もそうだろう!としっかり言ってやった。
ところが委員長いわく自分はまだまだ猫又の領域にも達しておらず、透子様ほどの、九尾の狐レベルまでは、とてもとても、と思いっきり謙遜された。
ねえ、これって褒められてる?褒められてる気がしないんだけど。
まあ何はともあれ、学園代表として久々のお出かけ。
心が広~い私としては、そのまま幾つかのカメリア会のどうでもよさげな仕事を本日までにあげるように、委員長にお願いした。
うん、黒ユリ館に引き返す委員長以下の面々に、私が声を上げて笑ったのは言うまでもない。