第2章 第3話 相変わらずの人達
私が家に帰ろうとしたら、ちょうどレイちゃんも帰ってくるというので、駐車場で少しレイちゃんの車を待っていた。
スーッと高級外車が音もなく傍に寄り、助手席から私のお気に入り「やっほの榊さん」ができる秘書然として、レイちゃんのいる方のドアを開けるため降りてきた。
私がかわいく手を振るのに、全然リアクションをおこさず綺麗に無視。
どうよ!これぞやっほだわ。
一度私の怒りに触れ左遷されたと言うのに、ぜ~んぜん変わらない!
おもしろいっしょ。
同じように1時期左遷された榊の代わりをした小出さんが頭を下げ、レイちゃんが降りるのを待っているんだけど、こっちは私のニコヤカに手を振る姿を見て、もう真っ青、それはそれで失礼よね。
このデコボコ秘書室長と副室長、うん、相変わらずいいわぁ。
機嫌がいい私は、レイちゃんが降りてくるのに、そのまま突進した。
レイちゃんは、それはそれは優しい笑顔で私を大事そうに受け止め、抱きしめると、私にキスの雨をそこかしこに降らせる。
「レイちゃん、お帰り~。」
私はそう言いながら、レイちゃんに甘えて密着した。
手に持ったままだった学生カバンが邪魔なので、やっほの榊に向けて器用に放り投げる。
榊の頭を下げていた肩にちょうど当たったカバンを、榊は一度私をいまいましそうに睨みつけてからその落ちたカバンを見た。
ナイスコントロールだ!私!そう思って榊を得意げに見ると、榊は一度自分のカバンの当たった場所をわざとらしく手で払い、次にゴミを拾うように嫌そうに私のカバンを拾った。
何て失礼な!私のカバンを持ちたいと言う輩がどれだけいるか知っているのか、そう思いつつ私が榊を憤然と見ていると、あらら、レイちゃんてば、超不機嫌になっちゃった。
そりゃあ、海外出張からやっと帰ったばかりの感動のハグの最中、私の意識は榊にいっちゃったからね。
だって、面白くてあきないんだもん、榊さんいじり。
知~らないっと、これも私のせいじゃないよね。
レイちゃんが振り返り、忌々しそうに榊さんを冷たく見すえる。
小出さんは青いの通り越して真っ白だ。
これで仕事はバリバリだというんだから、わからないもんだ。
うん、榊さんは相変わらず、このバカ娘って感じで私をにらんでいる。
いやあ、私ってば王道って大好きかも、変わらぬ王道、ビバ王道だ!
そう思っていると、レイちゃんが私を見つめて、私の顔を手で挟んで自分に向けさせる。
そうしてゆっくりと私の頬に自分の頬を摺り寄せながら、
「ただいま。とても寂しかったよ。透子。」
そう言って後ろで灰になった1名とふてぶてしい1名を無視して、私を腕に抱いて抱え上げる。
私もそれに甘えて思い切り顔をレイちゃんの肩に押しつけて、
「お帰り。」と言った。
レイちゃんが甘やかした目で続きを促すので、チュッとレイちゃんの唇にキスを一つ、そして2つ。
レイちゃんがそれだけで震える吐息を零すので、私は首に回した腕の一つをはずし、レイちゃんの頭を私の方へとたぐりよせる。
私の胸元に顔を寄せてレイちゃんは、またしても私をぎゅっと強く抱きしめ吐息を漏らす。
2人して、久しぶりにその心地よい空気を味わっていたのに、ちょうど仕事に出かけるらしいテイちゃんが玄関先から出てきて、
「あ~、ずっちい!透子に甘やかされてる!俺は?俺も!」
という大きな声に私とレイちゃんはお互いをみつめながら小さく笑った。