第2章 第2話 1年カメリア選
このカメリア館の2階は私の個室がある。
最悪な事に、この2階はさらなるリフォームがされ、入口には、あの倉庫入りしていたガンちゃんからのはく製が鎮座している。
ん?大丈夫、あの旗とかいろんなものだけは死守したから、キョーちゃんには悪いけど。
そうして、このはく製、思わぬ所で活躍している。
たとえば今みたいな時に。
この私にアポイントを取ったとはいえ、初めて踏み入れたこの代表室に入ったとたん、このはく製が真っ先に出迎えてくれたものだから、勢いこんできたものの1年の総意とか抜かすこの子ら新入生の出足をきれいにくじいてくれた。
さすがガンちゃん、意味ないとこで、意味なく活躍する。
「それで?、自己紹介はいらないわ。既に報告は受けているから。」
「1年の総意?とやらを聞かせてもらえるかしら?」
私はゆったりとデスクにひじを乗せ掌を組んでその上に首をのせ、下から彼女達を感情を見せない眼差しで見つめた。
しばしの沈黙ののち、一人の気の強そうな子が緊張しながら話しをはじめる。
「ごきげん・・・」
挨拶をはじめようとしたその子を、はじめて見せる容赦ないきつい目線で口を閉ざさせた。
それに思わず黙るその子に、バカではないようねぇ、と私は思いながら、
「無駄な話しをそのまま続けるというのなら、出口はそちらよ。」
そう言って、ドアに目線をやる。
「ち、違います。申し訳ありませんでした。」
そうして、その子は一度呼吸を整えると、
「私たちは、この度の1年代表のカメリア選の結果について異議があり、僭越ながら意見を申し上げにまいりました。」
私が続けて、と促すと、それはそれは流暢に立て板に水、とばかりに話しを続けた。
今回1年の代表に選ばれた黒岩さんについて、自分たちは納得いかない、と。
黒岩静香という子がこの度の1年代表に昨日の選挙で選ばれた。
ただし、次点の子とはわずかの差ではあったのは確かだ。
そしてその次点の子は、家柄、人柄、どれをとっても、勿論成績も申し分のない子であったらしい。
彼女らの話しを聞く分には、だが。
選挙当日の欠席者が8名ほどいて、どうやらその子たちも次点の子に、というらしく、その票を入れれば逆転のはず、ともいう。
勿論自分たちもそのような事がまかり通るとは思っていない。
けれどどうしても、次点の子、竹林凜子さんの素晴らしさを私に知って欲しかった、そう最後には涙をこぼして力説する彼女ら。
ふん、やってらんないわ。
自分たちが話しているうちに、自分たちのお花畑にいっちゃった彼女達を一瞬冷たく見下しながら、それを毛ほどにも感じさせずに、私はにっこりとほほ笑んで、
「あなた方が、こうしてわざわざここに来るくらい素晴らしい方なのでしょうね。」
そう嫌味を込めて言っているのに、ぱあっと明るい顔になり、彼女らは嬉しそうに帰っていった。
彼女らが部屋を出るのを待って、私は委員長を見る。
委員長はあなたが悪い!みたいな目で私を見ている。
ええ~、何で~、これって弱肉強食バンザイの私の話しに関係ないよねぇ!
私と委員長はじぃ~っと見つめあって、お互い目をそらせば、なんか負ける気がして、しばしやりあっていたが、そこに庶務の子の1人のあきれたような声で、
「はい、はい。早速ですがこれをお読み下さい。」
っていう合いの手が入り、1年の総意だと言った、人望を集める1年のアイドル竹林さんの報告書を幹部たちと回し読みした。
「ふ~ん、旧財閥系の末っ子ねぇ。」
その報告書には、確かにそれだけの人望を集める、家柄も気にしないお嬢様の人となりが報告されていた。
私と委員長、そして庶務達で顔を合わせて、ついで
「「「明日の昼食はカフェテリアに。」」」
と、お互い言う事はかぶってしまったが、さすがに私の子たちだけある。
考える事は同じだったらしい。
うん、お母さんは嬉しいよ、と生暖かい目で皆を見たんだけど、それに対して冷たい視線が幾つも帰ってきた。
いわく、「私は明日やることがあったんですよね~。」とか、「書類がたまっているのに、カフェテリアくんだりまで・・・」とか・・・・。
・・・・どこで私育て方間違えたんだろう?
反抗期?反抗期なのか?あのキラキラしい憧憬の眼差しはどこにいったのさ。
まあいい、私はこのツーカーの雰囲気が大好きだから。
家に帰る迎えの車でも私は機嫌よかった。