第2章 1 闘う者達
某オンラインゲームにのめりこむ昨今。
更新はゆっくりになりそうです。
「ただ今より第81期生新入生歓迎式典を行います。」
進行役のカメリア会の副を務める委員長の凛とした声が響く。
しわぶき一つ聞こえない張りつめた空気。
揃いの薄いグレーの制服、丸襟のブラウスの白、各学年を示す赤、紺、緑のリボンタイ。
壇上の脇の控えからそれらをそっと見下ろして、透子は満足の吐息をついた。
この学園の入学の競争率は、今や専門の対策書が書店に並び、塾の冠の一つに、この学園の名前が上がるほどの人気になっている。
中等部までは3クラスまでだが、高等部からは外部入学生をとる為、一気に7クラスに増える。
勿論、中等部の成績次第では、昔と違って高等部に入学できるとは限らなくなった。
たった2年でこの学園はこれほどに変貌を遂げ、その中心である黒ユリ会、今やカメリアメンバーズでもあるそれに、学園側は実質牛耳られており、ソウの代わりにきた学園長もまた傀儡であった。
そのトップである透子は自信と希望にあふれた新入生の顔をさっと見渡し、その顔にある野心を隠そうともしない強い眼差しを持つ新入生の数が昨年より更に多い事に満足して、吐息をついたのだった。
淡々とカメリア会主催の新入生歓迎会は進んでいく。
学園長の挨拶や、改めての担任団の発表など。
やがてその淡々とした空気が、徐々に熱いものにかわっていく。
カメリア会の紹介が近くなるにつけ、それが気のせいではない事が、この構内にいる学園側の経営陣や教師たちにも、その当事者である生徒達にも感じられた。
委員長が、「それではカメリアメンバーズの紹介に移らせて頂きます。」
そう言った時、熱い空気がざわりと壇上に動いた。
2年生のカメリア会のリーダーから2年のカメリアメンバー5名が一人一人紹介されていく。
最後に2年リーダーが挨拶をする、誰あろう、あの山田さんだ。
あの、おどおど娘がねえ、と私は感慨深くみつめた。
例の腹黒のメガネ補佐、名前は、え~と・・・高宮か、あの人頑張ってるみたいだね。
山田さんは自信に満ちた声音で2年を代表して挨拶を堂々としている。
人にはみえない指をぎゅっと一瞬無意識に握りしめたのはご愛嬌だ。
そして再び委員長が3年のカメリアメンバーの紹介に入る。
すると今までとは比べ物にならないくらいの熱い圧力が一斉に壇上に注がれた。
より一層の沈黙に支配される講堂は、くらくらするほどの熱視線で、それは一種の威圧さともいえる迫力だ。
さすが3年のカメリアはそれを歯牙にもかけず・・・、うん、成長したと、神経が太くなったと褒めるとこ?
何にしても綺麗にそれらの視線をバッサバッサと切り捨てて、優雅に頭を下げる君らを見て、お母さんは嬉しいよとしみじみした。
最後に代表である私が呼ばれる。
実は入学式に私は出席しなかった。
保護者も許されるそれに、余分な人間が何の伝手でか潜り込んでくるか知らぬし、何故か事前の参加確認で兄弟の参加数がべらぼうに高いやらで、うちの保護者ズが声を揃えて反対した。
「出るな!」と。
私もギラギラとした父兄の皆さんに会いたいわけもなく、見事入学式はさぼらせていただきました。
うん、委員長の顔怖かったけどね、「一回貸しですね。」とほんわか笑ったあの顔、ほんわかなのに怖いって、見事進化した女狐ぶりに改めて脱帽しつつ、めんどくさがらず入学式出た方が良かったかな、と一瞬後悔しましたけどね。
あれから、何も言ってこない委員長、不気味です。
私が登場すると、グワッと圧力が最大限に押し寄せてきた。
私はゆっくり、腰を優雅におり、頭を下げる2年、3年のカメリアメンバーズの前をしっかりと歩くと、壇上に立った。
私がかすかに頭を振ると同時に、またまた綺麗にメンバーズが姿勢をもとに戻す。
軍隊真っ青の統制ぶり、うん、綺麗だから許すけど。
綺麗は正義。
「みなさんごきげんよう。そして我が聖桜学園高等部にご入学の皆さんおめでとう。私がカメリア会の代表をさせて頂いている斉木透子です。」
「もう一つの黒ユリ会の代表でもある私からの言葉は、只一つ。」
「自分の手の中にあるものは、自分の意志以外取りこぼすなかれ!です。」
「我が会の人間である以上、何であれ上をめざしてください。どんな小さな事であれ、その上を。」
「幸い皆さんには、しっかりした土台があります。その土台の先に見えるものを手にしてくれる事を祈ります。」
「原始女性は太陽であった。私も心からそう思います。自分の意志以外で、ゆがめられる時、奪われる時、その時こそ、この会が本来の力を発揮します。」
「新たな仲間を祝福します。ようこそ我が聖桜学園高等部へ。共に歩んでいきましょう。」
壇上に立つ透子をみて、新入生たちは、ただ一人のその存在に講堂にいる人間全てが呑みこまれるのをリアルに感じ、生まれてはじめて、その存在への興奮の鳥肌をたてていた。
自分の中にあったのさえも知らないこの感情、「自分のもの」、「正当な自分のもの」、それぞれがそれぞれに熱い何かに浸食されたように、めまぐるしいその思いに溺れていく。
初めから野心をその目に宿していた人間の、その焔のような感情は更に熱く強固になっていく。
在校生は、それこそ望みとばかりに、コムスメとは思えない笑みをその口に描く。
透子はそれをまた満足気に眺めて、カメリア会全員で頭を下げ、退場した。
委員長が私をあきれたようにみて、
「弱肉強食って、面倒なのよ。知ってる?」
そう言って首をふりふり、こちらをじとっと見てきたので、私は知らんふりをした。
今日はお寿司が食べたい、とユキちゃんにメールしながら、私のせい?違うよねえ、と思って、興奮冷めやらぬ講堂を振り返った。