第87話 雨ふって・・・
え?処分?何の話?そう聞き耳をたてる私に王様が言った。
「透子」と一言。
そうして私を抱き締めると、もう一度あの悲しい顔で笑って、私の頬を撫でた。
そして、私をヨウちゃんに向き合わせるように、今度は反対に前に押し出す。
私がいぶかしげにしていると、
「透子、言わなければわからない事は確かにある。どんな仲の中にも、悲しいことに、言葉が言葉として、そこに込められた心でさえ、お互い理解できなくなることがある。」
「俺は小さい頃、施設の奴と何度か教会って奴にいかされた事がある。」
「そこで教会の牧師が、バベルの塔、という話しをした。神が人間の行為を罰するために、言葉を乱したっていう話しだった。」
「俺は大きくなるにつれて、人というのは厄介だと知った。同じ言葉で話をしても、全然通じないやつがいる。ああ、これか、俺はそう思った。」
「お互いをわかりあうには、波長が合ってうまくいってるうちはいいが、いつかどんな仲にもズレがでてくる、多かれ少なかれ、な。」
「だから、ちゃんと話せ。俺としては言いたくないが、な。」
「透子、怖がるな、大丈夫だ。俺はいる。何があっても俺はいる。その男が処分、といってるのは、よくはわからないが、お前が嫌だといった子供のことだろう。わけのわからん話だが、ちゃんと話さなくていいのか?」
そう王様が言ってくれた。
赤ちゃん・・・処分って。
私はヨウちゃんに飛びついて、悲鳴をあげた。
「ダメ、ダメ、止めてちょうだい。本心じゃないの!本心かもしれないけど、わかってるでしょ。」
「私はわがままなの!そうしたのはみんなでしょ!私が一番じゃなく嫌にしたのは、みんななのに!」
私は支離滅裂にわめきたて、赤ちゃんころしちゃ嫌~、そう言って子供みたいに泣いた。
私が泣いていると、いつの間にか、ガンちゃんに抱きしめられていた。
それからテイちゃん、キョーちゃん。
御団子のように畳に転がってぎゅうぎゅう状態。
そこにヨウちゃんの声が聞こえた。
「透子、俺達にはお前だけだろ?お前にも、だ。」
「白状すると、俺達は、あの俺の豈であるロンの件で、思ったんだ。またどこかから透子に手が伸びるかもしれない、それを守りきる自信はある。」
「けれど、お前の世界はどんどん広がっていく。力でお前を奪う者には、全然負けるつもりもないし、思った片鱗でも俺達にみせるものなら、生き地獄を体現してやる。」
「もし、もし、万が一にも、お前が他の人間のそばを選ぶ、そんな「もし、」を考えるだけで俺達は狂いそうになる。
「いつのまにか、ただ慈しんでいたはずが、おかしなくらい透子、お前に溺れてる。お前がいなきゃ息する事さえ苦しいんだ。だから俺達は考えた。よりお前を俺達に縛り付ける方法を。」
「わかるか?俺達の子供だ。あれはお前をより俺達に縛り付ける良い方法だと思った。後継問題も一気に片ずく。」
「ところが、開けてみたらどうだ。そのせいで、お前は俺達以外を見るなんて!まったく、ユキがあれだけ夢中にあの産院にいるのも、その生まれる一人一人が、お前を離さずにすむ鎖だからだ。ユキは嬉しそうに、この鎖が、と俺達に報告してるんだぞ。」
「なんで俺達が透子以外欲しがる?お前以外、例えお前との子だとしても、あれは俺達にとって鎖である、ただそのためにある存在だ。お前をより強固に俺達とつなげる、な。」
「それが意味ないのなら処分する、ただそれだけの事だ。」
私は団子になったまま大声で叫んだ。
「いる!いる!私、鎖大好き。今思った、鎖、最高!」
この後、さんざん一人一人から、危ない告白を受け、何とか処分はまぬがれた、と知った時、私はこんなに疲れた時はあったかと思うほどに、へとへとになった。
結局、私がすねていただけ?いやいや、そんな恥ずかしい事認めませんとも。
私が団子状態から解放された時、そこに私の王様はいなかった。