表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君のままに美しく  作者: そら
86/124

第85話  慟哭

陽二視点②

その唸るような低くその癖、今まで聞いたことのない哀しみ溢れる、どこか人間とは思えない声が聞こえてきた。


思わずゆらりと立ち上がりかけていた俺でさえ、振り向いた声の主は高津だった。


高津はこぶしをにぎりしめたまま、畳に頭をつけて、哀しみ、絶望、全てをあらわす声をあげていた。


その声を聞いて、それは生き物としての原初の何かをゆさぶる声、人が出すとは思えない声を聞いた俺達は、自分が、自分たちもまた、涙を流していることに気が付いた。


俺は立ち上がったまま動けなくなり、赤子の時分は仕方なくしても、涙などあくびで出すくらいで、この自分の人生には無縁だと思っていたものが、高津の慟哭といえるそれを聞いて流れるのを不思議に感じていた。


宍倉も自分の頬にさわり、その手が濡れるのを不思議そうにして、そのあと、すぐ、くしゃくしゃの顔になって子供のように泣き出した。


礼司もまた、俺と同様、茫然として涙を静かに流していたし、恭弥は頭を抱えたまま肩を震わせていた。


ああ、本当に俺達にとって透子は唯一なんだと、現在まわらぬ頭でそう思い、胸の痛みは更にこれでもかと増していく。


痛い、痛い、何もかもが痛い。


そしてこの空気を吸うという単純な作業でさえ、とても苦しい。


思わず胸をかきむしると、下からこぶしを叩きつけているせいで、血だらけの高津と目があった。


いまだその喉からは慟哭のうめき声が聞こえるが、その血走った眼は俺に問うてきた。


「死にたい」と。


他の連中も俺を見ていた。


ああ、よかろう、その前に、この憎い男を俺達の前から叩き出して、その存在の一つたりともこの世に残してなどやるものか。


俺は透子を見た。


愛しい愛しい女を。


お前は俺達以外にはいらない、なあ、そうだろう?


俺達にもお前だけ。


ひどくシンプルな事だ。


それが、そのシンプルな愛が認められないというのなら、俺達でそのシンプルさを守らなければならない。


シンプルだけど、とてもとても深淵な底なしの愛を。


2度と邪魔な不純物がまじりあわないように、俺達の手でこの愛を守ろう。


大丈夫だ、透子。


俺たちがお前を苦しめるわけがないだろう?


優しくやさしく、お前を殺してあげるから、怖い思いはさせるまでもなく、一瞬で。


俺達もすぐに逝く。


悪いが俺達は地獄いき決定だ。


覚悟はいいか、お前の魂を、俺達でがんじがらめにして、共に地獄に連れて行くから。


もし神や仏が邪魔するならば、俺達は神や仏でさえ潰してやる。


離すものか!


死んでもはなしてなどやらない、なあシンプルでわかりやすいだろう、透子。


俺達の空気が変わった事に気づいた不純物が、顔色を変えて透子を逃がそうと動く。


それに体が自然に動いて奴を殺そうとした時、透子の声がした。


「ねえ、何で?何で泣いてるの?」


そう愛しい女の震える声が聞こえた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
http://ncode.syosetu.com/n4660q/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ