第81話 運命の女
藤堂視点
俺は黒竜会を、姐さんと跡継ぎのぼんをひき逃げという手段で殺されて、まるで急速に萎んでしまったかのように、具合を悪くし病院に入院したままの組長にかわり、きっちりと守ってきた。
もともと俺は乳児院から孤児院へと、そういう風に育った男だから、親子や夫婦などの情愛などわからない、想像ですらつかない。
俺がものごごろがついて言葉より先に覚えたのは、人に殴られないようにする為には、殴られる前に人を殴るのが一番だということだし、そのあとも他のガキよりも、どうやって先に食い物を手に入れるか、上にたつか、それだけで生きてきた。
中学に上がるころには、俺にはどちらかの親に外国の血が入ってるらしく、体は人一倍でかくなってケンカでも最早負けることはなくなっていた。
そして、体がでかくなるのと同時にあきれた事だが、15になってその施設を出るまで、そこの施設長の妻だった女に、いいように体を使われた。
その施設長も、施設の子供達に見境なく手を出していたから、似たもの夫婦だったんだろう。
そうして、やがてそこで働く女どもは、皆隠れて俺の体にまたがってきた。
俺にはどうでもいい事だった、勝手に俺の上にまたがって腰を振る。
本当にくだらねえ奴らだった。
十五で施設をおんだされたのも、バカげた理由だ。
施設長の妻とパートの女ども、若い職員、皆勝手に俺に乗っかってきた癖に、どいつもこいつも自分だけは特別だと思っていたらしく、ある日鉢合わせて、「どっか~ん」てな具合で一気にヒステリー女どもの大喧嘩がはじまった。
バカらしい、俺はちょうど黒竜会で小さな仕事を貰いはじめたばかりだったが、ちょうどいいとばかりに施設をおんでた。
あっちの祭り、こっちの祭りといろんな所を飛び回り、ちょこちょことしたトラブルがあれば、俺はそれを力で排除していった。
施設でやっていたことと何も変わりがない。
そのうち組長の目にとまり、少しずつ仕事も重要なものに変わっていった。
その間、相変わらず女が途切れる事はなかったが、どの女も俺にはただのマネキン、そんな感じだった。
名前も顔も全然覚えなかったし、どれがどの女なのかも判断などつかなかった。
いればいたでいいし、いなくても困るものではなかった。
あれらは勝手に湧いて出る、俺の中では「もの」ですらなかった。
だから組の歴史上初の二十代で若頭をまかされてすぐの、あの凶行で、組長が一気に心身ともに崩れていったのを、愚かだとは思うが、気の毒だと周りの人間が口にすることを理解できなかった。
それほど妻とぼんが欲しいなら、また作ればいいだけだ、そうしか感じなかった。
お嬢がやっと歩けるようになって、父親である組長の見舞いにいくのだと言われた時、俺は淡々と自分の仕事として、組長の病院まで連れて行った。
まだ小学低学年のお嬢は、共に車に吹き飛ばされた自分のみが生き残った事に情緒が不安定だった。
皆がおいたわしい、とか言って腫物を扱うかのようにお嬢に対していたが、俺に言わせれば、嫌なら死ね!ただそれだけだった。
病室に見舞いに言ったお嬢の望みは何だったのか、2人きりの家族になった父に涙を浮かべて抱きついたお嬢に、全てに疲れ切っていた組長は、
「何故、お前だけが。」
そう呟いた。
そして今のお嬢ができた。
ひどいものだった。
わめく、泣く、暴れる。
食事をとれば吐くし、お嬢大事な古株である組員でさえ、ひくありさまだった。
俺はただ、その壊れたお嬢をまだ生きてるのか、と見ていた。
しばらくしてから組長から、自分の不用意な一言で愛しい娘の最後の何かをひいてしまったと後悔に泣く組長から、お嬢の事を頼まれた俺は「仕事」として、つきっきりでお嬢の面倒を見た。
誰もが俺を「さすがだ」と、さすが組長の後をこうして守り抜く男だ、と褒めた。
俺は只「やれ」と言われたから「やる」だけなのに。
そして、おもしろい子供だ、といつだったか気が付いた。
なぜなら、このお嬢の様子をただひたすら見てわかったのは「絶妙」だという事実だった。
・・・・・壊れ具合が。
俺は初めてお嬢が気に入った瞬間だった。
半分以上は本当にわけがわからなくなったり、幼児に戻るのは事実だ。
けれど残りは・・・・・。
だから俺は頃合いを見てお嬢に声をかけた。
「俺は稼業に戻る、そのままこうして生きていきたかったら俺の邪魔はするな。」と。
「そうすれば、まあ、俺が生きているうちは、このままを許す。」と。
それに答えはなかったが、その後、周りも医者も「落ち着いた。」というのだから、それが答えだろう。
そうして、落ち着いたかにみえるこの黒竜会を、あのわけのわからぬ三日間が襲いかかってきた。
後手、後手と回るしかなく、さすがの俺もたった三日で黒竜会の屋台骨をこれほど揺るがされることに驚きを隠せなかった。
そして今や飛ぶ鳥を落とす勢いの、親である当仁会でさえ喰う勢いの高津組のターゲットにされている事を知った。
理由など考えるだけ無駄だ。
何でもありが、俺らの世界。
何度か会った事もある高津組組長の顔を思い浮かべ、何とか会う算段をとりつけていた時、その知らせが入った。
うちの事務所の目と鼻の先の氏神さまのお祭りで、うちのもんと子供がもめていると。
俺は、特にいらぬもめごとが嫌いだ、めんどくせーからな、それは若い衆には身に染みてわからせているはずだ。
それが子供とだと!
最近のごたごたで殆ど寝ていない俺は、ふざけんな!と低い声でうなり、祭り会場まで出かけて行った。
そこで俺は初めて透子を見た。
綺麗な赤い色の花の浴衣を着て、後ろに只ものじゃねえ奴らを引き連れて、こちらを馬鹿にしたかのように笑う透子を。
俺の第一印象は、やはりただの綺麗なおべべを着た「マネキン」だった。