第7話 入学したのに
現在編になります。
聖桜女子学園の入学式は、無駄に大きい横文字のつく瀟洒な講堂で行われた。
普通、行事って体育館じゃないの?と、公立育ちの私は思ったが、正門をくぐった時に校舎まで続く芝生と噴水といろいろなオブジェを見た私は、これがこの学校の大金がかかる理由かと納得もした。
ふ~ん、学校もはったりが必要なわけかと思いながら、理事長以下の面倒な話を秘儀「聞いてるふり」を発動させ綺麗にスルーさせてもらった。
周りの新入生は、皆かわいい子猫ちゃんばかりで、自由な校風はどこ?と思ったが、二階席に陣取る先輩のお姉さま方をチラっとみて納得。
それはそれはカラフルな花が咲いたような髪もそれなりにいた。
最後にカメリアメンバーズと呼ばれるこの学園の生徒自治組織が十数名壇上に上がり紹介された。
このカメリアメンバーズと言うのは、他の学校でいう生徒会やら風紀委員会やらの仕事をする組織で、それなりの力を持っているとの説明、そして仰々しい自己紹介にあくびをかみころす。
私には皆同じ顔にしか見えないけど、一人だけ綺麗なミルクブラウンに真紅のメッシュを入れた人が目にとまった。
ふ~ん、いい感じ、そう思ったのがこの退屈な入学式での唯一の印象だった。
そのままクラスに入り担任の紹介と、クラス全員の簡単な自己紹介があった。
クラス委員になった子は、元気いっぱいな子で中等部からの持ち上がりで、井上素子と言った。
陸上部でそこそこの成績を残しているらしく、各クラス十名ほどの外部生にも早く慣れてもらおうと、それはそれは面倒なことに私にも接触してくる。
新入生歓迎会から始まって、あげくに校外研修まで同じグループでその度に話しかけてくるは、友人を紹介してくるは、しまいに部活の世話までしようとするわけ、はぁ?だよね。
五月の中旬、私はついに彼女にきれた、大人しくいようとする私に何の恨みがあって、まとわりつくんだ、この女。
誰が見ても迷惑ですオーラを、そこはかとなく漂わせてるのに、馬鹿か、馬鹿なのか?
ついに彼女の家でのパジャマパーティーの面倒なお誘いに、断っても誘うそれに、私はキッとにらんで言ってやった。
猫かぶりはどうした?今さら、それなに?よね、もういいや。
「いい加減にして下さらない?私は私のスタンスで生きているの、誰であれ、どんな理由があろうと、私の邪魔はしないで、目障りという言葉ご存知かしら?あなたはそれよ、それ以外ないわ。いい加減にして下さる」
「それでも私の前をちょろちょろするなら・・・そうね、覚悟なさることね。いろいろと」
教室は一気に静かになったけど知ったこっちゃない、今まで良くがまんした私!えらいぞ!私。
井上さんをガンちゃん譲りの俺様視線できつく睨み据える。
この学費が馬鹿高くて有名な学校に通うくらいだから、それなりのお嬢さま育ちだろう彼女を、そしてクラスの皆を不機嫌さを隠そうともせず、最早猫かぶりを止めてゆっくりと、自分でもさぞ冷たい表情になっているんだろうと思いつつ睨みつけながら鼻で笑って見渡す。
すると、彼女はワナワナ震えて悲鳴を?いや、なんで嬌声??何で歓声???甲高い声を一声あげてノンストップで目を輝かせながらしゃべりはじめた。
「す、素敵です!透子様。私は、いえ、私達3組は透子様についていきます!これから透子様と3年間同じクラスなんて、何という幸運でしょう。ずっとずっと思ってましたのよ。信じていたかいがございました。ええ、私達小さいころからの付属組はいつか、いつか素敵なお姉さまにめぐり合うに違いないって!ええ、信じていましたとも!やはり、夢はかなうのですわね、何て!何て素敵!!」
そう言ってあまりの反応にあれ?あれれ??な私の手を取ると、芝居がかった動作で私の前に額づき恭しく頭を下げた。
それに同じように黄色い声をあげて他のクラスメート達が同じように続く。
何か言ってやろうと口を開こうとしたが、そのあまりなキラキラした眼差しに一気に力が抜けた。
なんだ?この子たち・・・わけがわからないんだけど、えっ、私今怒ったんだよね?うん、怒ったはず、間違いない。
唖然としてこちらを見つめる高校からの入学組に助けを求め視線をむけると、何か見てはならぬもののように視線を、つっとそらされた。
私だけ?この馬鹿みたいなのにさらされるのは・・・。
ふふ、甘い!そんなのこの私が許すわけないじゃない、細い蜘蛛の糸は最初から、きちっと補修して補強して離さないタイプなのよ、私は。
マヌケにも細い糸を切らす真似はしないわ、万が一落ちるなら誰ひとりとて逃すもんですか!
私は委員長であった、最早意味のわからない人間と化した井上さんに、逃げ腰の残りの外部生を指し示しながら、
「あの方たちともお話するべきじゃないかしら?待っていらしてよ」
と彼女らにもふってやった。
「そうですわね、さすが透子様、同じ仲間として優しく皆で迎え入れなくてわ。ね、皆さん、お話を聞いて下さるでしょう?」
そう言って振り返りつつ委員長の井上さんが彼女らの元に向かうのを、「嘘でしょ!」という目をして私をみつめる彼女たちにヒラヒラと手を振ることで答えた。
私だけなんて甘いわよ、逃がすわけないじゃない。
もう、こんなわけわからないの知るか!普通怖がって泣くとか、泣くとか、泣くとかじゃないの?お嬢様ってやつは。
毒を食らわば皿までよ。
こういう状態に私だって「はじめは、あのね、そのね」といろいろ説明をしようとしたのよ、この変な流れをやめてほしくてね。
けれど、だ~れも私の話しを聞かないし、うるうるしては、「ついていきます!」ばっか。
いいわよ、いいわよ!きっちりやってやろうじゃないの、このクラスの女王様を、ふん!。
開き直った私は、残りの外部生とおぼしき輩が委員長たちに取り囲まれるのを、次の授業の用意をしながら「あきらめろ、あきらめな、宇宙人だから」と見ていた。
家に帰ってヨウちゃんに話したら大爆笑した、皆に笑いながらメールしながら、また気付くと涙を流しながらまた大爆笑している。
夜中に帰ってきたガンちゃんは、私の部屋に酒臭い息で入ってきて、ベッドに寝てる私をわざわざ起こして、
「さすが俺の透子だ、ん、ご褒美に何が欲しい?しょっぱなから甘くみられちゃ終わりだかんな、ここぞというときは・・」と何やら言いながら私を抱きしめて上機嫌だ。
「私、明日学校なんだから、もう邪魔!」
そう言っても放してくれず、結局この日は一緒に寝た。
次の日の朝ユキちゃんが私を起こしにきて怒っていた。
寝不足はビタミンなんたらを壊し、ましてや一番成長ホルモンの活発になる時間帯に起こすなど言語道断だと。
ガンちゃん、あなたユキちゃんの報復は一番怖いからね、なんせいろんな薬使い放題だもん。
いい気味だわ、やられちゃえ。
入学して早々、私はクラスの裏ボス?になった。
いや堂々と皆が透子様、透子様ってやってるから「裏」というカテゴリーには入らないか。
うちの委員長の声掛けで一年独自の組織が立ち上がり、何故か私はその代表になった。
各学年がそれぞれ組織作りをするのは将来を見込んでの勉強として認められており、伝統的にいろいろなグループがその派閥ごと沢山作られてきたらしいが、人が関心なくほおっておいたのをいいことに、1年は数十年ぶりに一つの大きな組織「黒ユリ会」というのが出来上がっていた。
・・・私は「黒ユリ様」と2つ名がついた、そう代表だ、黒ユリって何さ・・・。
これをうっかり話したら、テイちゃんとガンちゃんが私の下着から何もかも身に着けるものを一新し、それぞれ小さい黒ユリの刺繍のついたものをプレゼントしてくれた、いらん。
これって・・・ハンドメイドの綺麗な刺繍を見て、私が遠い目になるのは仕方ないと思う。
それと5月の連休に皆で九州に旅行にいったんだけど、帰ってきたら、ヨウちゃんのマンションの両隣りはうちのものになっていて壁をぶちぬきリフォームされていた。
すごい突貫工事にも驚いたけど、両隣りの人は住んでたはずで、どうなったのかは不明なままだ、これって大丈夫だよね?壁に人型のシミなんてやだよ、私。
とりあえずみんなの帰る家は一緒になって、私的には楽しく暮らしている。
そして、レイちゃんが、黒ユリ会発足を聞いて、さっそく手はじめに1学年の子たちの相関図を作ってくれた。
さすが半端な金持ちじゃ入れない学校らしく、皆そうそうたるお嬢様が多かった。
特に委員長のとこは有名な日本を代表する企業、井上テクニクスの一人娘で、それがなぜあんなわけのわからない人間になるのか不思議だった。
お金の超かかることで有名で、とりあえず一流のはしっこに何とかぶらさがろうとしているこの高校にいる理由も、だって選択肢は沢山あっただろうしね。
「彼女らの一部はいずれある程度の力ある人間になる」とレイちゃんが言った。
そして「操ってなんぼだ」ってテイちゃんがいい、ガンちゃんは「きちっと弱いとこを握ろ」といった。
キョーちゃんは「遊ばれんな、遊んでやれ」と言って、ユキちゃんは「面倒な子供がいれば、黙らせるいい薬を用意する」という。
私はそんなみんなに「わかってる」と笑って答えた。
彼女たちが見たままの姿じゃないことも知っているとも言った。