第77話 きしみ
あの海の底の楽園にいかなくなって既に5日たった。
レイちゃんが、あのレイちゃんが気がつかないわけがない。
私の変化を、私の今を。
そして、・・・ヨウちゃんが今日の昼に中国から帰ってくる。
何かおこる、とは限らないかもしれないけれど、慎重に考える。
私の自意識過剰ならまだいい。
けれど、私は思い起こす。
あの生まれて初めて手に入れた大事なものは、私の全てだと思ったあの人は、簡単に姉に壊された。
もし、私のチィちゃんがいなくなったら、海の王様も一緒に、あのおとぎ話のように泡となって消えてしまったら?
ダメだ、絶対無理。
うちの保護者ズが時々言うあの戯れが、もし本気だとしたら、考えるまでもない。
「俺たち以外いらないだろう?邪魔なものは潰す、だろ?簡単なこった。」
ありえない、ありえない。
今さら人魚姫も海の王様もなかったことにはできない。
ホラ、こんなにも彼らの事を考えると、体が震える。
「黒ユリ様?黒ユリ様ったら、本当にもう、・・・聞いていらっしゃるの?」
私はその声に瞬きをして、現状を把握する。
そう、私はこの所、毎日朝から夕方まで黒ユリメンバーズと遊んでいる。
今日は、お洋服を大勢でわいわい買い物中。
私はいらないから買わないけど、今はできるだけ外に出るようにしている。
あーでもない、こーでもないと、服選びに3時間たつ。
乙女のパワー侮りがたし、ついでにおこづかいもバッチリどころか、カードが乱舞するのだから、その買い物の一つ一つが長いのなんの。
予算関係ないのは、なまじ疲れると知ったよ。
それでも彼女たちの声を、楽しそうな声を聞いているのは、ほっとする。
私の世界は、広がりつつある。
買い物が終わり、夕方近く解散の前に、最近はやりのスィーツで一休みした。
夏休みも終盤にさしかかったし、学園の行事の摺合せもしなきゃね、という話しをして、本日は解散になった。
皆をも見送りながら、一瞬あの海の底の匂いが鼻をかすめた気がした。
私は一度しっかりと目をつぶり、その気配を望みを遮断する。
そして、のんびり家に帰った私を待ってたのはヨウちゃんだった。
お帰りなさい、と抱きつくと、ヨウちゃんが同じように抱きしめ返してくれる。
今夜はお出かけしようと、後ろにいるレイちゃん達を見ながら私に笑いかけてきた。
勿論、病院に入院中のキョーちゃんも外泊許可を貰っているから、迎えに行くよ、と優しく笑う。
久々の全員参加だ、と笑うヨウちゃん。
けれど、その目は、私が初めて目にする黒幡の男の目をして、冷たく底なし沼のように昏いものだった。