第73話 変化②
そのまま病院に行くと電話を切って、私は着替えを出すとシャワーを浴びてタクシーに乗った。
ちょっと病院まで出かけてくると一斉にメール送信して。
まあ、この間の事もあるから連絡だけはこまめにね。
そして私が病院についた時には既に父は亡くなっていた。
母は私を見ると泣きながら、さっきよ、まだ温かいの、そう言ってまた泣き崩れた。
姉はと言えば私を見るときつく見すえてきたが、何も言わず、やはり静かに涙を流していた。
純朴王子こと、大輔さんはそこにはいなかった。
結局それから2時間程は手続きや葬儀の手配などで大わらわになって、父の遺体が葬儀社に引き取られて病院を出るまで、感傷なんて浸る暇はなかった。
まあ、私にそんなものはなかったけど、姉と大輔さんが父に付き添って葬祭場に向かい、一度準備の為家に向かう母に同行した私は、初めて会話らしい会話を車の中でした。
その後葬祭場で合流をしたけど、私は誰が見てもしらけていたし、姉はいつでも何かに身構えてるようでとんがっていたし、身内が亡くなったというには、まあ、残念な雰囲気ではあった。
父には、母と大輔さんが何やら思い出を語り合ってしみじみしていたので、それで納得してもらおう。
結局、葬儀と告別式は家族でのみ行い、父は激務の公務員であったけれど、自分のやつれた姿を同僚には見せたくらしく、きちんと家族葬で、と遺言があったらしい。
それなので、私の保護者ズにも遠慮してもらった。
当日、香典はそれぞれ分厚いのを代理が持ってきたけどね。
私は三日ほど実家にいたけれど、かっての自分の部屋は驚くほどの違和感だった。
そして、本当にこの家に何の感慨もない事を改めてわかった私は、二度とこの家にはかかわらないと決めた。
たった一つ、今回父が亡くなって良かった事がある。
私の不安定さを、きまぐれさを保護者ズがいつもより大目にみてくれている事だ。
私は黒竜会の例の事務所に毎日チィちゃんと遊ぶため出かけるようになった。
チィちゃんの調べはついているらしく、護衛を連れて遊びにいく分は何も言われない。
事務所の上のチィちゃんの部屋で初めは数日は護衛も一緒にいたのだけれど、ガンちゃんところの護衛の番の時、その護衛を嫌がりチィちゃんが大泣きしたので、それ以来、保護者ズの許可を取ってドアの外に護衛はいるようになった。
チィちゃんの部屋は窓がない、本当に面白いくらい開放感とは無縁の部屋だ。
それでなくても薄暗いのに、昼間でも間接照明しかつけないそこは、まるで暗い海の底みたいな不思議な空間で、私はそこで心からまどろむ事ができた。
チィちゃんにくっついたり、あやとりしたり、紙飛行機飛ばしたり家に帰るギリギリまでそこでゴロゴロ過ごす。
そして、隠された裏口からお客がひっそりとやってきたりもする。
最初に現れた時はさすがに驚いたけど。
気配がないのは、心臓に悪いよ。
「チィちゃんは人魚姫だから、あなたは海の王様ね、私は悪い魔女。」
そう言えばあなたは口元だけでうっそりと笑い私の髪にキスを何度も落とす。
今日もやってきた海の王様は、やがて遊び疲れて眠りだしたチィちゃんをそっとベッドに移す。
そうして部屋で心地よくまどろむ私に沢山のキスをしてくる。
百のキスを、千のキスを。
あきることなく、いつまでも。
クスクス笑う私に、本当に許される時間の限り。