第6話 中学卒業
初めてその日は家に帰らなかった。
母にメールで「友人の所に泊まります」と一応礼儀として入れた。
私も一言だけど、母も「わかりました」だけだった。
この日の私は、激しく激しくふてくされたように皆に甘えた。
夜遅く仕事をそれでも早く終わらせてきたレイちゃんがきて、
「うちのお姫様、ご機嫌はいかが?」
そう言って有名デパート限定のスイーツを私に差し出す。
私は何も言わず口を開けて、クスクス笑うレイちゃんに食べさせてもらう。
みんなでゴロゴロしながらもう日付も変わるころ、私はそれまでしゃべらなかったけど、やっと声を出して、
「悔しい、こんな私は嫌」
そう言って彼らの前ではじめて泣いた。
彼らは、そんな私をむかつくことに子供のようにドロドロに甘やかし、そして私の初めて見せた弱さを喜んだ。
私のこの「こんな私じゃ嫌」宣言に、彼らは自分たちにはこれほどない最高の女だとかいろいろ言ってきたが、私がじとっと睨みつけると「じゃあ透子のしたいままに、俺達が助ける」そういう話にいつのまにかまとまったらしい。
そしてその日以来、私はそのまま家に帰らずヨウちゃんのマンションで暮らしはじめた。
私の親との話は私が知らないところで硬軟とりまぜて行われたみたいだ。
勿論、硬はガンちゃん担当で、軟はレイちゃん担当だったらしい。
きっとうちの親は驚いたに違いない。
引っ越しの荷物は制服と中学校の教科書だけであとは皆新しく揃えた。
一月になってからは、中学校に通うのも休み休みになった。
最後の卒業式は良子やみんなに心からありがとうを言って別れた、大泣きしたけどみんなも私も。
私は普通に泣けてその事実に感謝してまた泣いた。
高校は自分たち以外の男のいるとこなんて、というバカバカしい理由で私立の超金持ち女子高に決まった。
いわゆる学費も高いが、それに合わせて自由度も高い、という女子高だ。
呆れたことに、私は入学試験さえ受けず書類選考と面接のみ、それも電話だけで決まった・・・。
お金って権力って怖いなあと思った。
春から通うのにちょっと心配だ、基本自分に甘いから私。
それから変わったことは、あれから本当にみんなの教育というのを受けている。
私がもっと私の価値を知るべきだ、だそうで・・・ありがとうって言うべき?
まず、レイちゃんからは「淑女」なるものの教育を受けている。
きちんとした歩き方から目線、手の動き、食事のマナー・・・。
あきれるほど毎日毎日、レイちゃんがいない時は、花池流のとても厳しいけど背筋も一本綺麗に通っている60代と思える女の先生が教えてくれる。
うん、この人に教わるのは大好き、自分に結構活が入るから。
女もはったりだなあ、と、それをみるガンちゃんからの一言は余計だと思うけど。
そして護身術もはじまった、これにはさんざんだ。
まずヨウちゃんがすぐ夏の終わりに中国から寥さんという先生を呼んだ。
とても裏の世界では有名らしいが、とても気のいいオジイサンにしか見えないのだけど、女の私にも最適という合気道に似た古武術を教えてくれている。
運動神経に自信があった私だけど、これはホント別ものだった。
何とかオサワリの部分だけでも身につけるのに2か月かかって、現在もボロボロだ。
寥さんに言わせれば、片言の日本語で、筋はいいって褒めてくれるけど、彼にちょっとかすられるだけで青あざができちゃうの。
それに黙っていないのは、ガンちゃんとキョーちゃんのコンビ。
街中で物を言うのは実戦しかない!と二人でタッグを組み、街中での喧嘩の仕方を私に教えてくれる。
でもね、基本間違ってるよね、私は絶対歩いてるだけで喧嘩売る人になる気ないもの。
そこから間違ってるんじゃあ、と言っても人の話聞かない、聞かない、本当に聞かない。
・・・いろいろ教わったけど、金的蹴りなんて、まじぞっとしたよ。
けれど目つぶしとかは私的にはライライだった、うん。
でもそれも何か微妙だよねぇ・・・。
私の練習台になる人達は本当に気の毒だった、だって髪の毛一つ私にかすめたら、どうやら後できついおしおきが待ってるらしいの。
みんな、それぞれ幹部クラスの人達らしいけど、彼らに言わせると下っ端に私を会わせるなんて考えられないそうだ。
ホントにごめんなさいの世界だわ、バカすぎて。
だから、そんな過保護な二人は寥先生が私に青あざつけるのを歯ぎしりして見てる。
そんなんなら見なきゃいいのに、見ないのも見ないで心配でダメらしい。
そして現在皆の怒りを一身に浴びているのがテイちゃん。
男のあしらいかたを私に教えてくれているから。
これはどの面子をみても誰でも先生になれるだろうに、テイちゃん曰く、人間を食い物にするにかけては誰にも負けない!との自負があるらしい。
テイちゃんいわく、
レイちゃんは「只の芸のない鬼畜」
ガンちゃんは「女の扱いを知らぬ知恵のない獣」
キョーちゃんは「まだまだ女の奥底の怖さを知らぬガキ」
ユキちゃんは「マッドサイエンストで危険なので問題外」
ヨウちゃんは「ジョーカーだから参戦禁止」
という、本人しか納得しない理由で、「ホストクラブやクラブ、キャバクラなどをいくつも経営し、人を誑し込むのを天職としている自分しかいないじゃないか!」と皆に宣言し、現在にいたる。
確かにテイちゃんの授業は、その半端ない色気にちょびっとだけど言うだけあるかもと思う。
心からだそうだけど私をくどいてくるから、それに我慢できない見ている誰かも大体その授業に乱入してくるものだから、私的には一般の男の人が万が一私を好きだと言ってきても、毛ほどに感じないだろうとのいらぬ自信がついた。
もうじき高校の入学式を控えた私は、なんだかんだと彼らの手の上で、溺愛されながら踊らされている。
私はもう決して誰にも屈しない、逃げない。
彼らの唯我独尊の女王様でいようと誓った春だった。