第68話 暇を持て余す人々⑤
楽しい夜店の時間は過ぎ、駅で皆と別れてから、私はまた夜店のある境内まで戻った。
ギブ&テイク。
楽しい時間を貰ったのだから、そのお返しをするために。
今回は護衛を後ろにはりつけて。
今夜の護衛は黒幡担当。
一応勢力的にはフリー?なはず。
私が金魚すくいのお兄さんの所に戻るまで、誰が見ても普通でない護衛を5人ほどつけて歩く私を、さっきまで閉店間際までいた女の子の一人だと見知った面々はぎょっとして、こちらを見ていた。
射的のお兄さんが、私の護衛と睨み合っているのを見て、このお兄さんは黒竜会の人なんだとわかった。
私はヘラヘラと笑いかけ、手を振る。
私の護衛への態度で綺麗に黒竜会の人間か、バイトでやっている人間かすぐにわかった。
射的のお兄さんはそんな私の態度に戸惑いをみせていた。
そりゃそう、さっきまではしゃいでいた女の子が戻ってきた。
普通じゃない人間を引き連れて。
私は金魚すくいのお兄さんの所まで戻ると、私のあとを警戒してついてきた、射的のお兄さんとくじ引きのおじさん、りんご雨のおじさんやらにチラッと目をやり、それからいぶかしげに私を見る金魚すくいのお兄さんに声をかけた。
「さっきはありがとう。みんなすんごく楽しんだみたい。」
「魔法の時間は終わったけど、新しい呪文をあげたいの。黒竜会の代表の方に、ね。」
そう言って微笑んだ。
それと同時に私に怒声をあげた射的のお兄さんが、黒幡の護衛の一人にあっという間に組み伏せられ、それを見た他の人たちがかかっていこうとして、やはりあっという間にやられてしまった。
わあ、黒幡半端ないな、強い、一人で充分なのね。
特に私の護衛役はバカロン自ら任命したみたいで、私への忠誠凄いからね。
怒鳴る一言めで潰されちゃったねえ。
私は倒れたお兄さんの傍に屈んで、
「私、門限破ってまできたのよ、仲良くしてくれなきゃあ、ね。」
そう言って携帯を差出し、そこにストラップとしてつりさげてある、黒幡のバッジやガンちゃんのとこのバッジを見せた。
バッジって名称じゃないらしいけど、金に張り付けられたガンちゃんとこの当仁会のと、黒に金の紋章の黒幡のを見せたら、さーっと顔色を変えた。
良かった、どちらかは知っているらしい。
これで話しやすいはず、と思いきや、あたりは異様に静かになった。
りんご飴のおじさんが、「なんてこった・・・なんてこった。」と涙を流しはじめたのを筆頭に、あちこちから絶望の声が上がる。
そこに震える女の人の声が聞こえた。
「うちのところもそうだけど、」
そういうおばさんを止めようとする、たぶん旦那さんらしい人の静止の声を振り切って、
「なんだい、なんだい、うちは父親の代から黒竜会には世話になってんだ、怖くて声も出せねえあんたはすっこんでな!」
そう言って、すっと強く私を見る。
そして今度は強いしっかりした声で私に声をかけてきた。
「私らは黒竜会と持ちず持たれずで律儀に長年商売をしてきたんだ!何が何だかうちらには今回の騒動はわからないけど、この人らほど信用できる仲間はいないんだ!」
「どこのお嬢様だかわかんないが、この人たちに何かするってーなら、うちらが相手だよ!」
そう言うとおばさんズから「そうだ!そうだ!」の大合唱。
けれど背後の護衛の本気の怒りの気配に、ほら、私イノチみたいなとこあるからね、本物の殺気にあてられ尻つぼみ状態。
そんな所に強い覇気のある声がかかった。
「何を騒いでる?」と。
「カシラ」との声に、やっと話しが進むと私はため息をついた。
私の時間は貴重なんだと、言ってやりたいよね。