第67話 暇を持て余す人々 ④
その夜はキラキラと輝いていた。
何のかけひきもなく、ただの女の子の集団と化して、ひたすら楽しんだ。
地元の小学生のワルガキどもと、その後金魚すくいに戻ってアドバイスと言う名の罵詈雑言を笑いながら浴びながら。
「しょーがねえな、姉ちゃんたち、何やってんだよ!」
「まったくよお、どんくさっ!」
「浴衣濡れてんぞ、ばっかじゃねえの。」
などと子供達に言われながら、その言葉の裏のない暖かさに、お嬢たちも私も余計この時間が楽しくなっていた。
委員長が、
「うるさいわねえ、待ってなさいって!今から華麗にすくう所を見せてあげます。」
といい、決意もあらたにすくおうとするのに、他のメンバーも、
「頑張って下さいませね。」
「井上様なら今度こそ見事に・・・。」
など口々に声をかけて応援する。
それに悪がきどもが、
「え~、それ言うの何度目だよ、姉ちゃん。」
「無理っぽいよなあ。」
とか茶々をいれてくる。
それにまたメンバーズが丁々発止と返す、という感じで、その時間が笑い声と共に過ぎていく。
何と言うのだろう?その光景を見ながら、私は初めてこの黒ユリの子たちを愛しいと感じた。
私は保護者ズ以外信じようとも思わず、必要ないものと心から思っていた。
私の中には未だ怯えた子供があの時のままうずくまっていたらしい。
傷つくのは2度と嫌だと目と耳をふさぎながら。
それを今改めて突然その幸せの中、認識した。
黒ユリが出来た時、これは私の手足となるもの、として自分のテリトリーの一角に据え置いた。
黒ユリメンバーが何人いるのかも関心はなかったし、自分の庭先で遊ぶもの、それでしかなかった。
委員長でさえも。
自分が壊れている自覚はある。
けれど、けれど今のこの時、瞬時に思ったのは、私も彼女達もまだまだ子供でいる時間があっていいはずだという突然の思い。
私達は自由だという幸福感。
なんて簡単な事を忘れていたんだろう。
権謀術策の世界で生きていくし、邪魔なものや立ちはだかる者は絶対潰す。
それは変わらない。
それと同時にこうしてまだ子供という世界に遊ぶことも許されていいはず。
だって「ともだち」がここにいた。
怯えて縮こまっていた小さな子供の私が胸の奥の奥で、やっと顔を上げ外を見た瞬間は、委員長が金魚をもう一歩の所ですくい網からのがし、メンバーズの落胆の声と子供たちのはやし立てる声、夜店のお兄さん達の大爆笑の中だった。
私はあの時ヨウちゃんに拾われ、そしてガンちゃん達に優しく守られ起き上がった。
私の前にはだかるものは、私を傷つけるかもしれないものは2度と嫌だと、私はそれらを潰してきた。
それらはしょせん怯える子供の目をつぶったままのものだった。
うちの保護者ズは私のそれを知っていて、だからこそより過剰に私を守ってくれていたんだとわかった。
けれど、今やっと怯えたままの私は目をあけた。
そして私の今守るべきものをしっかりと見る。
黒ユリの子ら、コロにシロ。
生物学上、私の血をひきもうじき生まれてくるだろう子供達。
充分だ。
私は笑った。
私はより強くしたたかに、そして残酷に笑った。