第66話 暇を持て余す人々③
車で約束の駅まで向かう。
緊急用の携帯やら何やら持たせられ、保護者ズに見送られながら1時間ほどでその駅についた。
駅前の道路には、ずら~っと高級車の列ができていた。
ロータリーなどないからね、この駅。
私の車が駅の表面につく間に、それらの車から色とりどりの浴衣を着た黒ユリの子たちが降りてきて、私が車から降りる時には、皆がそろって出迎えてくれた。
レースがこれでもかとついた浴衣やビーズがついてキラキラしいもの、ドレスのようなものまで勢ぞろい。
うん、かわいい年頃の子たちの着る浴衣ってそれでなくても可愛いのに、より一層かわいいよね。
私は大満足で40人ほどの大集団で徒歩で7分ほどの出店をめざして、小鳥のようにさんざめいて歩いていく彼女らを目を細めて見つめる。
委員長も心なし浮かれているようで、自然みな足取りも軽やかだ。
うん、善きかな、善きかな。
出店が出ている境内についても、私達は注目を浴びていた。
皆初めてだという子が多いので、心から子供のように楽しんでいた。
人数が多いせいで地元の子からのナンパの心配もない。
出店のお兄さんやお姉さん、おじさんからおばさんにいたるまで、私達が行くところ、行くところほくほく顔だ。
そりゃそう、華やかな上に、これでもかってくらいお金を使っていくからね。
かくいう私もそれなりに使うが、委員長、君は、君たちは金魚すくいに幾ら使うつもりだい?
一人一人万札幾つか消えてるよね、下手すぎる・・・。
その癖「お嬢ちゃん好きなの一匹持っていきな。」
というおじさんのありがたい言葉に、きっ!と金魚を見すえて、
「ありがとうございます。でもこれは自分で成し遂げとうございますので心遣いなく。」
とお嬢のプライドをいかんなく発揮するのも間違っていると思う。
入れ替わり立ち代わり金魚すくいの出店から動かない彼女達を、小さな子供が馬鹿じゃないか、って目をして颯爽と金魚を掬ってその場を去るのを何度みた事か。
一度休憩を取って何か食べようという私の言葉に、はっと我に返った面々は、私に頭を下げながら、
「本当ですよ、透子様。」
「約束してください、透子様。」
などと口々に上品に私に話しかけるものだから、私がいらぬ注目をヤジウマや出店の皆さんから浴びてしまった。
金魚すくいの反対側にあるやきそばやお好み焼きを大量に注文しておいた私はエライと思う。
皆口々にテーブルは?御手拭は?などと大騒ぎする中、私がこういう所では、立ったまま食べるものです、と言うと、それはそれで目をキラキラさせておずおずと口にする。
私はできる子だから、勿論量は半分で注文している。
料金は変わんないよ、というおばさんに、にっこりと皆は初めて食べるので、これで問題がないと話しをすると、へえ、っと変な所で感心された。
私達が境内の片隅でラムネを飲みながら、屋台の味を堪能している間に、その話しが伝わったようで、余計出店の人達の目線が暖かいものになった。
それからの射的の出店での会話には、その出店のお兄さんに呆れられたりしたけどね。
「クレー射撃はお父様とアメリカで・・・」とか、そんな会話のオンパレードを聞いてお兄さんが、
「そんな御大層なもんじゃねえよ。ほら的に向かってポンだ!それだけだ。」
と丁寧に教えてくれたりした。
戦利品の小さなわけのわからないぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめる彼女らを見て、私も嬉しくなった。
本来の目的をわすれるくらいには。