第59話 乱入③
その居酒屋は繁華街の駅前ビルの3階にあるおなじみのチェーン店だった。
ソウとは駅前についた時点で別れた。
別に何の話しもしなかったが、かわいいコロとシロの頭を撫でて私は車を降りた。
ソウはソウで勝手に遊びにくるだろうから。
ビルのエレベーターの中で、わずかな時間だが自分に気合いを入れる。
ここにいる私はもうあの時のみにくいアヒルの子じゃない。
白鳥?ふん、そんなもんでもないけどね、確かに私は変わった。
私は私の保護者ズを思い浮かべ、嫌々ながら、ついでにあのバカロンも足のつまさきの方くらいに思い浮かべてやって、どうよ?これ特別大サービスだよね、心を静めた。
そしてエレベータがあいた3階にきっ!と目を向け、教えてもらった居酒屋へと向かった。
もちろん、あの姉の彼氏の純情バカにメールしながら、「今ついた」と。
店の入り口の脇の方で、名前忘れた、あの何とか君を待つ。
やばっ、名前なんていったっけ?
登録もこの予備携帯に純朴王子としか入れてない。
ま、いいか、私には全然関係ない人間だし。
待つこと数分、その間一人でいる私はそこを通る人間に注目を浴びていた。
そりゃあ、今日の仕様はズバリお嬢様!
派手派手しい装いではないが、デザイナーズブランドの清楚なワンピース、一目で高価とわかる貴石のかわいいネックレス、時計も0が7ケタつくものを、さりげなくつけている。
ましてプチエステ後の私はツヤツヤだし、気合いが入った私はそりゃあオーラが違うはず。
現に私の周りをうろちょろはしても、誰も私に声をかける事はできない。
そこになんとか君が店内から出てきて、私の方に笑いかけながら近づいてくる。
「透子ちゃん、悪いね、急に呼び出して。今日は大学の講義も最終だし、みんなバイトもなくてね、じゃあみんなで集まろうってなっちゃって。それで連絡させてもらったんだ。」
そういって眩しそうに私を見る。
私は猫の皮を20枚ほど自分にかぶせて、にっこりと邪気もなく言った。
「呼んでくれてうれしかったです。私こういう所初めてなんで、ちょっと緊張しちゃいます。」
「あはは、全然ファミレスみたいなのに毛が生えた程度だよ、何も怖い事なんてないさ。じゃ、中に入ろうか。」
「だけど未成年は内緒ね、まあ、暗黙の了解ってやつ。」
そう言って笑う姉の彼氏に私はクスクスと笑う。
これは心から笑った、だってこの男と一緒に今からあの姉の元にいくのよ、これって笑えるよね。
私は無邪気を装って、この男の手をさらっと握り、それに驚いた顔をする男に、どうかした?って感じに笑いかける。
どうやらこの純朴王子は、私のその行為をまだ異性を意識しない幼さゆえの所作と理解したようで、困ったように笑いながら、その手をつなぐという行為を、しかたないかと苦笑いして受け入れた。
そして姉たちの待つテーブルの一角まで案内されながら、姉と言う彼女がいるのならば、たとえその妹であれ必要以上の接触は姉を傷つける、という事に思いを浮かべない、この純朴王子の鈍感さに、さらにその姉と私がうまくいってないと知っているくせに、その姉の前で簡単にこういう行為を許す男に私は自分で仕向けたくせに軽い憎しみを覚えた。
これが純朴で優しいというのなら、私にはいらない。
この男が確かに、あの姉をかえたのは確かだ。
私を私のあの男達が変えたように。
もし私に彼氏ができたならば、私以外は決して見せない、思わせない、そう思う。
私でいっぱいにして少しの隙間も許さない。
・・・あれ、うちの保護者ズって、そんな感じだよね?うん、深く考えるのはまずい気がする、やめよう。
そう思った時、私と純朴王子は、その姉のいる10名くらいのテーブルについた。
私は、緊張しているかのように、ぎゅっと純朴王子の手を改めて握った、・・・ほんと嫌だけど。
純朴王子はその手を握り返し、大丈夫だよって感じに私に笑いかける。
私は小首をかしげ純朴王子をすがるようにして見上げた。
純朴王子はくしゃり、という感じに私の髪を撫で・・・ごめん、これ以上の接触は鳥肌が立つ、ギブだギブありえない。
私はシンと静かになったテーブルで、私と手をつなぎ、あまつさえ髪を撫でるという暴挙を行ったこの鈍感馬鹿にはわからぬよう、姉の目を馬鹿にしたように、姉にのみわかるよう見てから、鳥肌が立つ前に、いかにも「ごめんなさい」感を出して、ケナゲさをアピールしつつ純朴王子から離れた。
その態度に、柳眉を逆立てつつあった女性陣は、まだ友人の彼氏とこの女は誰なんだというピリピリした空気を全面にだしつつも、他の男子の手前、偽物の笑顔をかろうじてはりつけ私達をみていた。
1人の女子が、ああ、という感じの表情になり、それと同時に、純朴王子が私を紹介する。
「碧の妹の透子ちゃん、姉妹でゆっくり遊んだことないっていうから、サプライズで呼んだんだ。最後まではいられないらしいけど、みんな一緒に遊んでやって。」
そう言って嬉しそうにニコニコする。
私はおずおずと、
「はじめまして、碧の妹の透子です。突然乱入してごめんなさい。」
驚愕に目を見開く姉の碧が面白くて、私は鳥肌も何とか阻止したことだし、少し嫌がらせに、つい、と純朴彼氏の傍に寄って、彼を見上げた。
案の定このバカは、優しく私に笑いかけて、肩に手をやり私を席に案内してくれた。
それも姉の碧と向かい合う席に。
やっほ~、お姉ちゃん、遊びましょ。
私の脳裏に、あの初夏の日の、世界はまるで自分と一体になったような幸福感と、それが一瞬で自分と全てが壊れたあの時を思い、そしてあの体をからめながら勝ち誇るように私を見た姉の目が思い浮かぶ。
そしてまた、再会した時見た姉の穏やかな目と私を認識した途端怯える目が浮かぶ。
ねえ、何故あのときのままの貴方でいなかったの?
それならば、私は・・・。
私は・・・どうしたいんだろう?
まあ、これが暇だという事ね。