第53話 他校交流会③
白鷺高校の2年1組の授業は英語だった。
執行部の1人の子が教室のドアを開けて、そのまま恭しく控える中、委員長たちが教室に入っていく。
委員長達が軽く頭を下げる中、最後に私が入っていった。
うん、委員長に言わせれば、これは「お約束」なんだそうだ。
このバカげた動作・・・委員長自分自身でも白々しく開き直って認めましたよ、バカげた動作だって。
これは、いつか真に自分たちの組織ができた時、トップへの証しとして、こういう動作をしようと小学生の時に決めた事らしい。
小学生でそれかい!私はこのお嬢たちの抱えるものに、少し意識をはせた。
それと同時に私が小学生の頃をふと思い出した。
太陽の匂い、体育館の埃の匂い、ボールの音、何も考えずに笑っていたあの笑顔、次から次にと一瞬で浮かび上がるそれらに、私は他人事のように冷たい感情の蓋をおろした。
馬鹿らしい、考えるのも馬鹿らしい。
委員長達も私も、それぞれに生きてきた、ただそれだけの事だ。
私が委員長達の子供時代に思いをはせるなど、傲慢もいいとこだ。
どうやら私は、皆に甘やかされているうちに、傲慢さもパワーアップしたみたいだ。
見栄っ張りで、いじめたがりやで、そこに傲慢さが加わるって、どうよ?少しばかりのケナゲさが私には必要だな。
どこかで売ってないだろうか?ケナゲってやつ。
私は委員長に先導されたまま教室に入り、教室の後ろから退屈な授業風景を見ていた。
このクラスの生徒は思い切り背中で意識してますってアピールしてくるし、30代の男性の教師もバリバリに隠そうともせずに、その癖チラチラと視線をこちらに向けてくる。
ほら、そういう態度されると、私、困ったちゃんスキル発動しちゃうよぉ、ついさっきケナゲめざそうとしてたんだけどなぁ、こうやって簡単に挫折するのね、人生って。
世の無常を嘆きつつ、委員長に目をやる。
委員長はしょうがないな、って目をしたあと、ひときわその長い髪に手をやりつつ、何気に教師の視線を自分に向け、気が付いたって感じに教師を不思議そうに見つめる。
他のメンバーたちもかわいく小首を傾げ、ほんのり口元には笑み、笑み、笑み。
私はそれを確認しつつ、授業を見る。
その教師はそんな皆の様子に誤解し、勝手にてんぱっていく。
自分の発音に問題があるのか、解釈に何か間違いでもあったのかと、どんどん、どんどん、思考が悪い方にループし、だんだん教科書を読むのも、しどろもどろになっていった。
生徒たちも教師がそれから逃げるためひんぱんに指名してくるので、かといってそれに答えることもできず、だって質問自体もはや意味不明だもん、私が聞いていてもわかんない。
このクラスの英語の授業ははじまって30分で壊滅的になり、混乱のまま終わった。
これって誰のせいでもないよね、だって私達はほんのり上品にお嬢様らしく笑みを浮かべて立っていただけだもの。
だけど涙目の大人の男ってカワイイものだったのね、ほら、私の周りって、あれだもの、あの保護者ズだもの、とても新鮮で癖になったらどうしよう、そう思って私は授業参観を終えた。