第47話 回収
今年は空梅雨だと天気予報で言ってたけど、外は確かに綺麗な青空で納得だ。
私は窓に目を向け、真っ黒モードに突入した委員長相手に、そろそろ降参するべきかを考えていた。
何せ私の机の上には、半端ない書類が山積みになっている。
そう、いつもなら判を押すだけになってくるはずのそれらが、手つかずのまま私の元にきている。
何故か?理由は簡単、いわゆるコミニュケーション不足と言う奴だ。
7月の頭に伝統的に行われている他校交流会が今年度当番校である白鷺高校で行われる事になっている。
いわゆる生徒会役員が主に参加するそれに、私は行く気など全然なくて、誰かがいくだろう、そう思っていた。
前期の残りは定期考査があるだけだ、なんて呑気にしていたわけ。
だけど委員長達は私もいくものだと思っていたらしく、行ってきてねぇとお願いしたら、私もいかなきゃダメだとストライキされた。
ほら私ってば去年の学園祭で姉妹校の役員と一悶着あったから、私が行かない事でまだその姉妹校に思う所あるんじゃないかと勘ぐられたり、いちいちそのフォローしなきゃいけないなんて面倒だから参加しろって事らしい。
そもそも対外的には代表として動け!それぐらいしなさい、めんどくさい!だって怒られた。
で、2日目にして、この書類の山にギブよ、ギブ。
こうして、姉妹校の香蘭学園と、課外活動などで交流がある公立の上森高校、白鷺高校、私立の弘和学園、古桐学園が毎年合同で行う交流会に私は出席することになった。
家に帰ってヨウちゃんのエステを受けながら、ここんとこ父の事からはじまって、ちょっとめんどうが続くなあ、と思い、こんな時こそ遊びは大切だ、と私はしみじみ感じた。
それに何気に委員長たち私に似てきたし・・・。
次の朝、学校へ行く準備を早めに終わらせ、今日はユキちゃんじゃなく、一足早く家を出るレイちゃんの車で行くと話した。
そんな私を見送る面々の何を企んでるんだって感じの、からかうような視線は止めて欲しいと思う、君たち保護者ズじゃないんだから、私のする事なんてカワイイもんよ、花も恥じらう女子高生が何をするっていうのよねぇ、ちょっとだけ遊びたい、ホントにそれだけよ。
おし!それじゃあ出発だ。
「ねぇ、レイちゃん、私ってば今度余所の高校にわざわざいかなきゃならないのよ、そんでもって、お葬式も待ってるし、・・・。どう、私ってば可哀そうだと思わない?思うよね。」
レイちゃんが面白そうに私を見て、声をかけてきそうなのを遮って、
「あ、いいよ返事は!いらない。だからレイちゃんの会社に私も今日はこのまま行くからね。」
今日は委員長にメールで午後から学校行くって言ってあるから、フォローはバッチリしてくれるはずだ。
レイちゃんに寄りかかって、その腕に腕をからませて、耳にイヤフォンをつけて、お気に入りの音楽を聞く。
レイちゃんは仕方がないな、って優しく笑っている。
チラッとみた助手席に座る新しく秘書室勤務になった小出秘書の顔色が一気に悪くなったのは笑うとこかしら?
そんな顔されると、ほら私ってば、期待に答えたいと思う子じゃない?
ちょっと黒くなった私にレイちゃんは、くっくと含み笑いをした。
何さ!私がレイちゃんのふくらはぎを蹴ってやったのはいうまでもない。
私がレイちゃんにもう片方のイヤフォンを貸してあげて、私のお気に入りのピローズのアルバムを一緒に聞きながら仲良く本社ビルに入っていくと、今度は前と違ってじっと見られる事はなかった。
いや、何ていうかすぐさま目をそらされるんですけど・・・私ってばガンちゃん達と同じ扱いされてる?
私、堅気のカワイイ女子高生ですけどぉ、この扱い納得いかないんですけどぉ!
隣のレイちゃんは爆笑したいのを無理に堪えてて、表情には出てないけど、私には笑いを我慢してるのがよ~くわかった。
私はおもむろに立ち止まって、レイちゃんのほっぺをむにゅって両手で抓ってやった。
ところが、レイちゃんたらそのまま私の方に背をかがめ、あっという間に顔をよせられキスされた。
・・・私は恥を知る日本人代表として、こんな場合すたこらさと役員専用エレベーターに足早に向かうしかないよね、何もなかったふりで。
レイちゃんの総裁室は相変わらず豪華で広く、私達が入っていったら、今回の新秘書室の皆さまは爽やかに朝の挨拶をしてくれた。
私はその方たちに黒ユリモードの挨拶を返しながら、ざっと一人ひとりを見渡して、私の遊び相手になる人間はいないと判断した。
皆揃いも揃って賢そうだけど、すぐに潰れそうで遊べそうにない。
何て事だ!ちょびっと期待してたのに。
だから小出さんの所に綺麗なお姉さんがファイルを渡して、それに沿って今日の予定をレイちゃんに説明してるのを脱力して大人しくみていた。
今日の予定を聞き終えたレイちゃんに、じゃ、次だと思い直し、私はお仕事頑張ってね、とハグをしながら、会社の探検がしたいとおねだりをした。
ついでに案内役は小出さんがいいと忘れずに。
レイちゃんが小出さんをそれはそれは冷たい目でにらみながら、しょうがないと許可をしてくれた。
言い出したら聞かない子だからね、私は。
そして、この世の終わりみたいに青ざめる小出さんに、期待に応える子なの私、覚えとくといいよ、と思った。
茫然とする小出さんが何とか午前中の自分の仕事の引き継ぎを終えるのを待って、いざ探検に出発した。
レイちゃんのすぐ下の階から順番に各フロアーを回る。
制服姿の私みたいな部外者が入っていくと、皆一様にぎょっとするけど、続けて顔色の悪い小出さんが入ってきて、そこの仕事場について丁寧に説明する様子に、何事かと目をむくのが面白いの。
続いて、私を何気に見て、胸にぶらさがる身分証明が、レイちゃんのなんで、またびっくり。
みんな胸にぶら下げてたり、つけてるから、私も欲しくなって、レイちゃんの強奪してきたんだ。
そして、そのあとそれを認識すると空気がぴ~んと張って急に知らんぷりになる。
そうなるとつまらないので、次の部屋にいく、それを繰り返す。
どうよ、これ、いい迷惑だよね、けれど誰も何も言わない、知らんふり。
そして1時間も過ぎたころ、とうとう営業3科という部屋で本日の目的を達した。
3科室長という席に「やっほ」の榊元秘書がいた。
自分でも目がきら~んとしたのがわかる。
部屋の入口に案内を頼んだ小出さんに待つようにいい、そのまま堂々と表面の席にいる「やっほ」の元に向かう。
制服姿のこれでもかっていう部外者の私を見て、声を荒げて何か言ってくる人が何人かいたけど無視する。
そのまま「やっほ」の榊元秘書の元につかつかと向かい、気配に顔をあげ、驚愕する「やっほ」の顔を見る。
「やっほ」の大きな机にぴょんと乗って座り、すわった場所の周りにある品を手で払いのけて下に落とす。
物が落ちる音と、何をする!と、どこかから上がる怒声が部屋に響く。
「今、私に声を上げたのはどなたかしら?」
私はもう一度私の周りにあるものを綺麗に叩き落としながら、後ろを振り向いて言った。
そこに慌てて小出さんが入ってきて私に必死に謝る。
「申し訳ございません。」と。
顔色が最早真っ白な小出さんを見て、私は鷹揚にうなずく、そんな様子に部屋にいる面々は戸惑いを隠せない。
「やっほ」が最初の驚愕から立ち上がって、私をにらみつける。
「透子様、ここは見ての通り現在仕事中です、何の気まぐれかは存じませんが迷惑です、出て行ってください。」
そう私を本気で怒ってくる、これが当たり前の反応だ。
私の不興をかって、秘書室を出されたのに、あいかわらずなのに嬉しくなる。
「やっほ」は自分を曲げてない、遊びのない余裕の部分を持てない自分をちゃんと理解してるのだろうか?
まっすぐな不器用さで、なおかつ料簡の狭いこの男を愚かだと思うけど、けれども決して折れようとはしないその生き方は好きだ。
うん、好きだ、誰でもない自分の人生だもん、蹴散らしていけばいい。
まっすぐなあんたがそのまっすぐなありようの中で切り捨てた事の、その歪みを私がいつか教えてあげよう。
ねぇ、だから「やっほ」私と遊ぼうよ。
私は「い・や!」と言って私と「やっほ」を隔ててるパソコンにも手をかけた。
「やっほ」は私のその手をつかむと、いい加減にわがままは止めろ!と敬語を止めて、低い声を出し私をにらみつけ怒る。
私はそれこそが望みとばかりに「やっほ」の顔をまっすぐに見つめた。
ああ、すんごい楽しい、自分が今心からの笑みを零してるのがわかる。
こんな私の顔を知ったら、あんたうちの保護者ズに無事ではすまされないね。
だから私はそれを一瞬で心の奥底に綺麗に沈めて隠す。
私がそのままじっと「やっほ」を見たままでいると、
「何が望みですか?」と諦めたようにため息をつかれた。
「お願いですから、パソコンから手を離してください。大事な仕事のデーターが入っているんです。そのくらいの事はあなたでも理解できますよね。」
と嫌味までいってきた。
私が一緒に出かけようと言うと時計を見て30分くらいなら、と本当に疲れたように答えてきた。
だからそんな態度をとる「やっほ」に、私は机から降りるため、わざとらしくたいぎょうに「やっほ」に手を差出して、その手を促してお姫様よろしく降ろしてもらう。
部屋にいる人間の仕事の手が止まり、こちらを注視する中、幾人かが「室長!」と心配そうに声をかけてきた。
ふ~ん、好かれてるじゃない。
「やっほ」は心配ないというような動作をして、私を促して部屋の外に向かおうとする。
私はそれを無視して、綺麗に制服のすそを払うと、私を待つ「やっほ」の顔を見ながら彼のパソコンを机の上からわざとらしく落としてやった。
・・・ねぇ、「やっほ」、私に命令はしちゃダメでしょ、懲りないわね、あなた。
にらみつける「やっほ」に冷たく微笑んだ。
部屋をでる時、小出さんや部屋にいる人間は、私と一瞬たりとも目を合わせようとしない。
だから言ってるじゃない、私はガンちゃん達と違うって、まっとうな女子高校生なんだって、そんな反応は間違ってると思うわ、傷つくかも、よね。
何はともあれ、こうして私は無事「やっほ」を回収した。




