第46話 姉・妹
ユキちゃんが父の主治医だという先生と病室に戻ってきたので、私は病室のベッド脇にあるサイドテーブルに花瓶と花をいけて見舞いの形を整えて、そのまま何か話したげな主治医と家族にいとまを告げて早々と帰ってきた。
病院的には、ユキちゃんと是非ともお近づきになりたいらしいが、今日の私は優しくないモードだから、無視よ、無視。
帰りの車の中でユキちゃんから、父は胃癌にかかりステージ的に手術するのも無理で余命2か月と聞いた。
仕事にかまけて随分とほうっておいたらしい父、相変わらずだったらしい。
そうか、父は死んじゃうんだ・・・それだけだった、本当に他には何も感じなかった。
そこで私は自分の歪さに改めて目を向けた、知ってはいたけど。
自分のあの時壊れた心は、本当なら若さ特有のしなやかさで時間と共に柔軟に修復されゆくはずだったろう。
けれど私はその健全さを拒否して、傷は傷のまま忘れたくなかった、いずれ曖昧に薄れいく忘却という救いを自分に許したくなかった。
私の心はブラックホールみたいに、ヨウちゃん達の愛情を飲み込んでもなお、その虚ろはうつろのままここにあり幾らでも愛を呑み込む。
けれどそれが何?誰に迷惑かけるでなし・・・周囲の私に関係ない人達に何がおころうと、私の人生には少しも問題ないわ。
しょうがないよね、私の前にいて、邪魔するのが悪いってことね。
「それも善し!」私的には。
少なくても私と私の大事なもの以外私の世界にいらないし、うちの保護者ズの力があれば、私が自分の歪みをそのままに、気にせずこれからも生きていけるはず。
これで末永くすねかじりと虎の威をかる狐ちゃんの世界決定だけど、基本自分に甘いから私、OK、ばっちこい!よ。
正しいものなんて私は知らない、そんな曖昧なあてにならないものなんてイラナイわよ。
あ~あ、面倒だけどやはり父のお葬式にはちゃんと出るべきかしら?
保護者ズは来るのかな?やめてよねぇ、面倒は嫌よ。
私は家に戻る車の中で、ユキちゃんの話を聞きながらそれだけ思った。
二度と病院にはいかないだろうな、と思いながら。
妹の透子が病室を出た後も、私は茫然としていた、母も同じだろう。
彼女は突然やってきて、父と母には目もくれず、私にその意志の強そうな視線を一度だけ向けてここが病室だというのに、颯爽とという言葉がふさわしくまた慌ただしく去っていった。
妹が家を出ると聞いた時、まだ未成年でそれも中学三年生の癖に何を馬鹿な夢みたいなことを、と思っていた。
本気だとは思わなかった私に、言葉を濁しながら私に話す両親を見て、それが本当なのだと知った。
私は自宅から通える公立の大学受験の為予備校通いで忙しく、別に勝手にいなくなればよいとその時も思ってたのを覚えている。
妹の透子は小さい頃から親戚はじめ両親に可愛がられ、それを当たり前のように受けていた、私にはそう見えていた。
いつからだろう、そんな妹を見る時、チクリと胸に持ち上がる嫌な感情に気が付いたのは。
テストで同じような点を取っても、運動で同じような成績を残しても、何故か妹ばかりにスポットライトが当たるように感じていた。
妹の透子が中二の時、幼馴染の洋介にいを好きだと、どうしたらいい、と相談された時、頑張って告白しちゃえと言ったのは本当に心からだった。
中、高と生徒会長をしている洋介にいの人気は半端なく、透子はまだまだ幼すぎて可愛そうだが撃沈だろう、そう思って疑わなかった私に、つきあうことになった、と嬉しそうに報告する透子に私は耳を疑った。
そして、ここでもまた透子が選ばれた、そう胸に囁く声があった。
洋介にいを呼び出し、話を聞くと、本当に透子を大事にしたい、今まで付き合ってきたきた子とは根本から違うんだ、と、今まで表立ってはいないけど、裏では二股なんて当たり前の遊び人だった癖に、大事そうに透子の名前を口に乗せる表情を見て、ああ本気なんだとわかってしまった。
洋介にいのその表情や声を目にした瞬間、思い切り透子を傷つけたい、そう思った。
それからなんだかんだと洋介にいの相談に乗るふりをして、私は透子を傷つけ、思い知らせるチャンスを待っていた。
洋介にいは、透子の為に遊びの女を全て切っていた、そしてその日メールがきて、凄い嬉しい、透子のファーストキスを昨日貰ったと、踊るように嬉しそうにメールで報告してくる洋介にいに、おめでとう、これは一緒に帰って祝おうと、たまには学校をさぼってもいいだろうと強引に誘って、そのまま学校帰りに待ち合わせて、私の部屋に向かった。
軽くお酒で乾杯し、ほどよくお互い酔った所で、それからは透子が見た通りの事に私がはこんだ。
大切すぎてどうしてよいかわからない、そう言って笑う洋介にいに、大事な透子はまだ幼いから代わりに私を抱けばいいと全裸になり、背中からのラインは透子と同じだとみせつけ洋介にいをあおった。
そして、透子の名を呼び私を抱く洋介にいの背中越しに、待ちに待った透子の絶望の叫び声を聞き、その時私は心から笑った、その私をみて顔を青ざめさせ絶望の表情にいた洋介にいは目を見張っていたけど。
今さらだよね、同じ穴のムジナだと私は言ってやった。
自分でも何がしたかったのかわからない、何に対してあの後も怒っていたのかわからない。
本当にあれは私なのか、まるで他人をみてるような感じだった。
一度だけ洋介にいから呼び出されて会った時、俺が憎かったのか、それとも透子か、と聞かれたけど、私には返事しようがなかった、だって自分でもわからないから。
そこで久しぶりに見た洋介にいは、昏い暗い全てを、自分自身でさえ憎んでいるようなすさんだ目をしていた。
そして、そこまでして私が気が付いたのは、結局透子がいなくなってさえ、両親は元々自分には遠い人だった、という事だけだった。
透子という太陽が反対に私達を照らしていたのだと、家族としてつなげていたのだと気付いたけれど、私はそれに頑丈な蓋をして知らないふりをするしかなかった、忘れるしかなかった。
自分がちゃんと生きていくために。