第43話 新入生歓迎会
今日の新入生歓迎会が終われば、後は夏休み前の中間考査まで、前期日程は行事的には殆ど何にもないといってよい。
それなのに、まだ5月だというのに何せ委員長達執行部のやる気ったら半端ない。
去年の学園祭は、旧カメリアからの引き継ぎでやったので、今年の学園祭は本当の意味で自分たちが1から立ち上げるものになるので、この新歓が終わり次第、準備委員会を発足させるという。
やる気というか、楽しむ気満々で、彼女達は本当にこういうとこ賢いと思う。
きちんと自らのレールの先を見据え、遊べるときは遊べ!遊べないようなら遊びを作れ!と日夜楽しそうに駆けずりまわっている。
今回の新入生歓迎会は、各学年3名程度で、縦割りで班が組まれ、校内でのアスレチック大会が行われる。
校庭からはじまり、そこで最初は班代表同士の単純なじゃんけん大会が行われ、それで色別に分かれた各コースが選ばれると、その色にそって各教室に設置されてる手の込んだアスレチックの数々を制覇していき、最終コースまでのトータル時間をきそうものだ。
運が悪い班のところは、2クラス程に設置されているターザンロープコースの教室で、耐えきれず落ちれば無残にも大きな組み立て式プールにおかれた泥にまみれる事になる。
私もつい面白そうだから覗きにいってきたんだけど、ターザンロープが教室の天井に張り巡らされていて、落ちたらその下は本当にどろんこ地獄が待っていた。
普通水かなんかじゃないの?と私が委員長に聞いたら、水なんかに落ちたら、ジャージの上からとはいえ、体の線が出てしまう、そんなのたえられない、との答えだった。
他のみんなも、それだけはたえられないと、同じように答えてきた。
あ、そう、髪や顔が泥だらけになるのはいいのね、わけのわからん乙女心だと思う。
しかも落ちるだろうから、と落ちるの前提なの、最初から。
そのどろんこは、どうせなら有名どころの泥パックにしてしまえ、と誰かが言いだし、結局ほんとに有名エステの泥パックが、その2つの教室にはターザンロープの下に敷き詰められている。
業者さんが準備を相も変わらず手伝ってくれたんだけど、絶対おバカなブルジョワめ!って思ってるよね、絶対。
それと、各教室に移動するさいに使う廊下には、いろいろ趣向がこらされているの。
全員片方の足首を手ぬぐいで縛って班が1つになって歩いていかなきゃダメだったり、平均台の上を渡ったり、網の下をくぐったりしなきゃ移動できなかったりと、そりゃあそれで大変なわけ。
そんなかんなで、ようやく最終地点までたどり着いたグループの最終試練は、この理科室。
理科室でで待つこの私になってる。
・・・・・納得いかないよね、この扱い。
私の背後に教室続きの準備室があるんだけど、私に通り抜けの許可を貰って、その準備室に置いてある最終チェック表に自分のグループの印をつけてタイムカードを入れて終わりなんだけど、すでに始まって3時間くらいたってるから、そろそろ誰かきてもよさそうなのに誰も来ないのね。
て、いうかドアの外にはひそひそとした気配が30分くらい前からしてるのよ。
それも徐々に増えていく感じ、なのに誰一人入ってこない。
うふふ、これってケンカ売ってるよね、グループには2年生も入ってるんだもの、当初からの黒ユリメンバーの子がいるはず、なのに入ってこない。
まあ、ちょっとだけ、お優しいモード中のこの透子さん的には、1年や3年が二の足踏むのは、とりあえず許そうと思う。
けど2年生はね・・・・。
私は、読んでいた文庫本を置くと椅子から立ち上がり教室のドアまでいき、思い切りそのドアを開いた。
その瞬間聞こえた「ひっ」という悲鳴を飲み込む音は聞かなかった事にしてもいい、そしてバタバタと逃げ出すものも・・・、許すと思う?
「お待ちなさい!」
私が、きつく声を出すと、3グループほどの生徒たちは、立ち止まって、すごすごと逃げるのをあきらめてこちらに顔を向けた。
何?そのおどおどしたドナドナぶりは!私があなたがたを売るとでも?
・・・いたな、身近に人間売る奴・・・、でも私がするわけじゃなし、それじゃあ、きっちり教育的指導とやらしてあげようじゃないの。
うちの学園生が、おどおどするなどどんな場面でも許さないわよ。
理科室にて私じきじき教育的指導をしているのを次にきた誰かが見ていたらしく、新入生歓迎会のゴールの理科室には、それ以降、この3組以外到達しなかった。
最終地点に他の班がこなかったのはそのせいだと知るのは後の話で、もちろん透子はそれを知った後、全校集会にて女王様モードを発動して怒涛の如くその場で教育的指導を行ったのはいうまでもない。
次の授業など吹き飛ばして。
この校内アスレチック大会が後に学園名物として定着するなど、この時点では委員長はじめ私でさえ思わなかったけれど。