第39話
ユキちゃんと一緒
はい、はい~、今日はユキちゃんと一日過ごす日なんだけど、基本ユキちゃん、バカロンの作った病院に長期休暇とって一日中いるから、私はそこにはいかないんで、普通に学校終わってから会うことにした。
放課後、黒ユリ館で新入生歓迎会について皆が話を詰めているのを聞きながら、、新1年生からのアンケートに目をやり、ついニヤリと笑ってしまった。
仮装パーティー、遊戯施設を借り切ってのレクなど無難なものが多い中、「仮想力試しゲーム」なるものがあった。
その趣旨は、わざわざこの学園にきたからは、どこまで今のままで何ができるか、どれほどの事ができそうか、仮想でいいので試したい、なんていうものもあった。
委員長が密かに笑う私に気が付いて、他に宝塚系の萌え劇で主人公を私と委員長でというのもあったと笑う。
どれだけ楽しむ気なんだろうと思ったが、こういう楽しむときには楽しんどけ、っていうスタンスは好きだったりする。
おっ、携帯だ、見るとユキちゃん、もう迎えの時間らしい。
私は皆と挨拶をして、出迎えたユキちゃんの車に乗った。
ユキちゃんとのデートはグループトップのご両親の元への顔合わせだった。
これってあり?
それはそれは明治の世に建てられたという洋館は黒光りして、幾代もの手に大切にされた、そこらの金持ちが真似できない威風を感じ、その慎ましやかな内装も一つ一つが由緒ありげで、私はその古い大切にされてきた空気は嫌いじゃないけど、何で私が会わなきゃいけないのかってとこで、当然不機嫌マックスだよね。
代々仕えてるという年配の執事さん夫婦は、私とユキちゃんの顔を見て声をあげて涙を流した、おいおいと思っちゃう私って普通だよね、玄関先でこれだもの。
当主のお父さんと後妻のお母さんもそれはそれは諸手をあげて歓迎してくれた。
喜ぶご両親を見て何か怒ってるのもバカらしくて、もういいや、ってなっちゃった、あきれてだけどね。
お母さん、すんごい影が薄いっていうか、薄幸の美人というか、一人でなんかしょっちゃってるような人。
これじゃあ、子供時代のユキちゃん先妻の兄、姉から、その一族からやられて、病んじゃうわけねぇ、ってお母さんを見て納得した。
バカみたい、自分で産んだ子一人守れずに、いいえ、守ろうとはせずにいた親二人。
それが、息子がつきあっている女性を家に初めて連れてきたと、父親は破顔し、母親も嬉しそうにこちらを見る。
うん、これが普通の反応かもしれないけど、すんごく気持ち悪いのよ、基本に忠実?みたいな芝居みてる感じ。
父親は一度家の決めた女性と結婚して、二人も子供を作った癖に、看護師だったユキちゃんの母親である元カノと再会して、やはりその儚さに自分が傍にいなければって思い込み、不倫の末にユキちゃんを作り、すったもんだの騒ぎの後に無事再婚。
実の母親は不倫した段階でわかってただろうに、めでたく後妻に入った後、一段落したら周囲の視線が気になり、あげくの果てに自分の不幸にばかり目を向け、辛いのよ~というオーラばかり身をまとう、結局自分が、不幸な自分が大好き女。
ほら、今もそう、嬉しそうに笑った後で新しい不幸の種に目を向け始めた。
ほら、言った。
「私は体もそんなに丈夫じゃなくて、この子の面倒もちゃんと見れなかったの。こんな私が母親だなんて、許せるものじゃあないわ。あのころに戻って、ちゃんとちゃんと・・・・。」
そう静かに泣き出した。
本当にそう思っているの?夫の胸にすがって泣くのに、肝心のユキちゃんには目もやらない。
そして、「しょうがなかったんだよ。」そう言って妻を抱きしめ慰めるる父親もまた、同じこと。
しょうがなかった、そう言える資格があるのは当事者だったユキちゃんのみだろうに、この夫婦愚かすぎるにもほどがあるわ。
大体こういう男は、先妻と別れる時「君とは違って、悪いけど彼女には自分がいなければダメなんだ。」とか言って離婚してそう。
親が決めたにしても二人の子供を産み育てた先妻との間に、少なくてもお互い何かがあったはず、その先妻の心に思いをはせる事もできない男が、まして先妻との子を責任持って育てられたのかしら?
親の責任とかでそのまま育てられた子供たちにしたら、ましてこの自分だけ不幸の後妻のオーラみてたら、たまったもんじゃなかったと思う、うん、嫌だ。
そりゃあ、ちゃんとわかる人間なら、腹立たしいよね、ユキちゃんに当たるのも違うから、だからって許せない話しだけど。
ユキちゃんも、もし先妻の子供たちが、父親に向かっていったなら、彼らを叩きのめす事は後々しなかったと思う。
大人しく争いもせずにいたはずだわ。
実の母親は甘い臭いの放つ自分の不幸をいつも嘆きつつ、その実、で、どこら当たり不幸なわけさ、って女で、命にかかわるような虐待を受け続けていた実の子の本当の不幸は目にも入らない人間で。
実際もしそれがわかったとしても、「自分の方が!」と言いかねないバカ親。
父親は、自分がいなきゃダメな女を愛してると言いながら、その実、その女が自分自身以外、誰も見ていない事実に気が付かないバカ。
バカだから一番寄り添うべきそれぞれの子供たちのSOSにも気づかないし見ようともしない。
初めて両親に会わせられた私は、ユキちゃんを見た。
ユキちゃんは幼い自分を何とか守ろうとしてくれた執事夫婦に向けた時の優しい顔のままだけど、自分の両親に向ける眼差しは、そこに何の感情も乗せられていなかった。
私はユキちゃんが何故私を連れてきたかがわかった。
私は、普通の親の顔をして、普通に私に接するユキちゃんの両親に言った。
「もう二度とお会いする事はありませんが、報告まで。ユキちゃんには私がいます。」
そう言ってそのまま席を立った。
ユキちゃんも同じく席を立って私をみて嬉しそうに微笑む。
急に立ち上がって出て行こうとする私たちに驚いて、戸惑う二人はユキちゃんの顔を見て、私の顔を見て都合よくまた解釈した。
「若い二人の邪魔するのもなぁ。そういうことだな。」
お父さんはそう言って好々爺の如く笑って、私達を見送る。
愛妻の不安げな眼差しに、優しく肩を抱きながら話す声が聞こえた。
「子供はいつの間にか大きくなって親から離れていくんだよ、寂しいかい?」と。
私は一瞬だけ怒りのあまり足を止めそうになったが、そのままユキちゃんちを出た。
帰りの車の中で、ユキちゃんに言った。
「アホだね。」
ユキちゃんは笑ってそんな私をみた。
ユキちゃんは、あの両親を切るつもりだ、その為私に会わせた。
私がどこかで自分の家族を引きずっているかもしれないと考えて、自分が切る身内である両親を私にちゃんと見せた。
私が万が一、ユキちゃんの「家族」の事が耳に入っても気にする事がないように。
私が家を逃げた理由を、みんなには話していないその理由を、さては保護者ズは知っているなと確信した夜でもあった。
まったく、彼らは私が傷つく欠片でも見逃したくないようだ。
これは一度最早もう何でもないよ、と証明する必要があるかもしれないな、と私は思った。
今までは予約投稿でしたので、震災後、初めての投稿になります。
いつも通りに粛々と生きていく、ですね。