第3話 陽二の思い
陽二視点。
夏休みに入ってから、都心にある高級マンションの陽二の部屋に朝から晩までいりびたる透子がいた。
ここは自分を傷つけない安全な場所として透子に認識されたらしい。
私の巣、そう言う透子の言葉に、陽二は本当に狂喜し、自分でも驚くほど、蕩けるほどに透子を甘やかした。
ここに入れ替わり立ち代りやってくる5人の男達は、初めそんな陽二に目を丸くし、絶句し、やがて、それをそのままに受け止め、陽二の監視のもと徐々に透子にそっと手を伸ばし、その体温をお互い警戒しつつもなじむ様子に、お前らは野良猫かと笑ってやった。
陽二はあの透子いわく普通じゃないこの男達を確かに拾い育てた感がある。
けれど透子の場合、まるで欠けたピースが埋まるように、まるでこれは自身の一部のように二人でいると、境目がなくどこまでも溶け合うような感じを味わう。
この奇跡の出会いで救われたのは、拾われたのは自分だという自覚がある。
これは百戦練磨の自分がいうのだから間違いなく、恋愛なんてものよりたちが悪い。
けれど、酸いも甘いもかみ分けた自分だから、こうしてバンザイと手をあげ降参して、透子に全てをゆだねてしまえる。
透子は自分が依存していると思っているみたいだが、それは間違いでそれを言っても理解できぬだろうし、今さらお互い離れる事などできないのだからどうでもいいかと思ったりする。
問題はこいつらで、今もでかい図体を晒し、俺達の昼飯に乱入してきた五人の男だ。
透子は知らないまま、この私を付き従え、その足元に結果、五人の男達を侍らせた。
一人目は私の同胞で、いわゆる暴力団といわれる集団を率いる高津巌。
二人目はクラブやキャバクラをグループとして経営する夜の帝王宍倉禎夫。
三人目は誰でも名前を知っている一流企業の若き次期総帥神林礼司。
四人目は日本屈指の大病院の後継者、林幸弘。
五人目は若いやんちゃどもをまとめあげる夜の街の王、橋爪恭弥。
こいつらも、自分がが拾っただけあって、今や出会った時間などものともせず私の透子の保護者きどりだ。
自分やこの男達のように何か欠けた男には透子は甘い毒だ。
透子はその欠けた所にぴたっと合わさり、かといってそれを自己主張することなくただ淡々と包んで傍にいてくれる。
本当に好いた晴れたの恋愛よりも濃厚でひどい毒だ。
一度でもそのかけらを味わえば、もう二度と離れることなど考えるだけで狂うほど恐ろしい。
まだ15の透子には気の毒だが、もはや俺以外、いやあの野良たちもいれて、俺達以外、他の人間を傍に寄せ付けるわけにはいかない。
万が一それで透子がいなくなるのには耐えられないだろうから。
思えば力だけは俺達にはある。
これを有効に使って何が悪いというのか。
生まれてはじめて自分にそんな強い感情があったのかと驚いたが、そんな自分も悪くないと思う陽二だった。
ここに透子を中心とした、透子は中心は私だと思っている節があるが、桁違いの力を持つ一つの群れがひっそりと音もなく歪を飲み込み全てを内包し、けれど溢れるほどのお互いへの愛情の元、自分たち以外は全て敵として誕生した。