第35話
信じられない、私は遠く現実逃避中。
私はこの手術台とはいえ、ピカピカ特注のゆったりとした柔らかいその上で手術着、うん、これも特注のね、それを着てユキちゃん自ら長い針で私の卵子を取り出したんだけどね、機械の画面をみながら、それはそれは慎重に、さすが神の手、婦人科もばっちりだ。
ま、それは置いといて、ユキちゃん、この日の為に長期休暇ずっと取ってて、私の管理はパーフェクト、凄かったよ。
信じられる?トイレまでついてくるんだ、ありえないでしょ。
ここは新規オープンするという名目でバカロンが風水ばっちりの診療施設にリフォームした建物なんだけどね。
ふっ、何が信じられないって、私から取り出した卵子にね、一人ずつ目の前で、その・・・精子を出してんの、恥も恥じらう乙女の前で、嬉しそうに、私を見ながら・・・。
私が目をそらそうとすると、俺をみろ!って懇願されるの、切ない声で・・・。
ええ、ええ見ますとも、見りゃあいいんでしょ!私ってばまだ男の人といたしたことないのに、こんなの間違ってるよね。耳年増ならぬ目年増?って奴?普段の生活もこうして思い起こせば、とても半端なく濃い気がする、うん、濃いどこじゃないよねぇ。
子の後、学園も明日から3日は休まなきゃだめだっていうし・・・。
「透子!」
はいはい、余計なこと考えないでって?
今最後に受精するのはユキちゃん、ユキちゃんは満足そうに私にキスすると人工授精させたそれを確認すると、すぐ隣の第二手術室のベッドで眠らせている女の人の子宮に慎重に戻している。
その女の人の首には数字がかかっていて、それぞれの父親の記号もついている、肩にはその記号のタトゥー。
それぞれ個室があてがわられ、その個室につく看護師は大金で雇われた人間で、全て産婦人科出身のベテラン揃い。
そして、その女性たちの世話をするのが、それぞれの一番信頼できる側近達。
この個室で経過観察して、安定期に入ったらバカロンだけその代理母を日本から出国させるらしい。
彼女達代理母の腕には発信機までが埋め込まれれ、そして・・・彼女たちの目は潰されていた。
余計なものを見ないように、皆日本語を知らないから耳は大丈夫。
私はその後、ユキちゃんのOKをもらってベッドを出ると、一人一人の部屋に挨拶に行き、寝てる彼女達の頬とそのお腹にキスをした。
一生遊べる大金と引き換えとはいえ、目をつぶされるのもいとわない、それぞれなりの事情を抱えている彼女たちに敬意をこめて。
初回で出産まで行かない場合、解任され金額は半減されるという、彼女たちの為にもどうぞ無事でうまれるてくるように、と私は心から祈った。
そろそろ寒い冬も終わりに差しかかる頃、全員大丈夫そうだとユキちゃんが嬉しそうに教えてくれた。
何とか9月まで無事に過ごし、元気な赤ちゃんが生まれればいいと素直に私もその父親たちも思った。