第34話
私達はあれから自分たちのマンションに移動した。
もうじき夜明けを迎える頃に。
それぞれの部下に撤収をかけて。
はあ、やれやれだ、果てしなく長い1日がやっとあけた。
レイちゃんちの大きいリムジンでみんなで帰ることにしたんだけど、だって、もう一瞬でも離れたくないから。
私がそう言えば、少しだけピリピリと目に見えるんじゃないかっていうくらい凄まじい怒りのオーラが一瞬和らいだ気がした。
後ろをついてくる黒い車がバックミラー越しに見えて、みんなはまた、おどろおどろしいオーラを身にまとう。
ほんと、男ってテリトリーの生き物なんだって、こういう時よくわかる。
女はここまですごくないよね、もっと柔軟だ。
そう、後ろからは、あのバカ男のロン、あの男がついてきてる。
あれから手打ちの話にになったんだけど、私がもうお風呂に入らなきゃ耐えられない!と言ったんで、一旦マンションに戻る事になった。
バカロンが、私がバカロンと呼ぶとみんな変な顔するけど、さすが透子、凄いなって、だってバカロンでしょ、あいつ。
そのバカロンが着替えも用意させたと言って、あの部屋の風呂に入れっていうから、私、女王様モード突入したの、自分の家じゃなきゃ入らないし、着替えの下着も刺繍入りじゃなきゃ嫌、まして着る者は家のじゃなきゃ絶対嫌だと。
私にそんな我慢をしろというのかと睨んでやったら、バカロンが折れた。
バカロンの側近も、何故かヨウちゃんも驚いてたけど、なんで?当たり前よね。
それでこうしてマンションに戻って、バカロンをマンションの外に待たせて、この際だと、全員一緒にお風呂に入ってる。
ほら、大丈夫だよ、私の体指一本触れさせていないからね、私は皆が食い入るように私の体を見つめるのに、綺麗に笑ってやった。
後で爆弾をみんなに投下することになる私はせっせと皆に甘え、皆も私に甘える時間をいっぱいとった。
ところがその時間も、乱入者の登場で終わりを迎えた。
「遅い!」
遅い!って何さまよ、バカロンの癖に。
お風呂のドアを開けて、なおかつ私の裸身を目を細めてみやる男の登場で。
すぐみんなが私の体を見えないようにしたけど、みんなに気配を一つも感じさせないし、うちのマンションは超最高水準のセキュリティーのはずなのに、まったく意味ない、ほんと厄介な男だ。
みんな怒りモード爆発になり睨み合っていたけど、私の邪魔!の一言でバカロンはしぶしぶ出て行ったし、いつもめんどくさがり屋の私がみんなの髪を洗ってやったんで、何とか雰囲気は戻った。
着替えて部屋に戻るまで。
なぜって?それはバカロンが勝手に側近たちに酒を用意させくつろいでいたから。
結果ひどいブリザード復活。
ヨウちゃんが誰かに電話をかけ引っ越しの用意をしろ、と言っている。
引っ越し?え~めんどくさい、だからテリトリーなんだよ、男はね。
そして、何故かにやりとバカロンが笑って私を見た。
まさか、嫌な予感がする。
今言う気じゃないだろうね、と睨みつける私をよそに、奴はシレッと爆弾を言い放った。
「俺も賛成だ、俺の子供の大事な母親がこんなセキュリティーが甘い所に住んでるんじゃ心配で、おちおち仕事もしていられない。」と。
・・・空気が凍り、そして一気に燃え上がった。
ヨウちゃんが、ガンちゃんが殴りかかりバカロンがそれに応戦する。
側近にはキョーちゃん達が殴りかかる。
私は冷静にそれをしばらく見て、さすが迫力あるそれを見ながら、物の壊れる音の合い間に、静かに言った。
「私、とっても疲れてるの、わかる?わかるわよね。うるさいのも今は嫌!す・ぐ・に・や・め・て頂戴!」
「それに、ロン、あなただけじゃないはずよ、年なのね、忘れたの?うちの希望者にも、よ。」
そう言った瞬間、パタッと殴り合いは止まった。
「座ってちょうだい。」
私の言葉に、全員が大人しくあいている床に座るのを見て、だって、ソファーなんて吹き飛んでるもの。
私が静かに説明する。
「あのね、みんなが寝てた時に、ロンが私をみんなの元に戻してくれるっていう約束はもらったの、ただし時間制限つきでね。」
「バカなことに理由はね、人間自体好きじゃなくて、後継問題もどこかから子供を集めて一斉に自分の時のように争わせて生き残ったのに継がせるつもりだったんだって。だけど好きな女ができたら、その女と自分の子供を腕に抱きたくなるのは、そんな夢をみたくなるのは当たり前だろ、って、だから私を近いうち連れて行く、そう言うのよ。」
だから時間制限。
私はみんなを見る、みんなは食い入るように私をみつめる。
「でもね、私がそれを許すと思う?ありえないでしょ。私ってば花の女子高生、んでもって処女よ!」
そういって憤然と全員見渡せば、皆こんどは嬉しそうに優しく私をみつめる。
「だから、何嬉しそうなの!本当私ってば、何でこんな事宣言しなきゃいけないのよ!まあ、いいわ、話は戻るけど、そんなの無理だって言ったのよ、私に嫌われる事は絶対したくない、けれどこればかりは譲れないって言うからね、全然お互い平行線で。じゃあ、って話になったのよ。この間テレビでやってたじゃない、ユキちゃんとみてたあれ。」
ユキちゃんが私をいぶかしそうに見て、次に目をみはる。
「そう、人工授精ってやつ。私が卵子を提供することで何とか折り合いをつけたのよ、このロンと。」
「だけど、私の大事なみんなにも、もし子供が、私との子供が欲しい人がいたら、ついでに希望とって、それもついでって何だけど一緒にいいでしょ、と許しをもらったの。じゃなきゃもしその子が産まれても絶対無視してやるって私言ったのよ。」
はい、説明終わり!
私がそう言うと、またバカロンが余計な事をいってきた。
「今はまだな。遊ばせといてやる。」
ほらぁ、またみんなギン!ってなった。
はい、質問ある人。
真っ先にガンちゃんが手を上げた、相変わらずいい反応だ。
「俺はそいつより大事に大事に透子との子を育ててみせる。」
そう言って私を真摯にみる。
そして全員がにっこり手を上げていた。
了解っす。
ユキちゃんが自分の病院で、極秘に人工授精を行なうと嬉しそうに今後の日程を話しだし、私の体調や排卵日を予測していいことは早い方がいい、と来月にでも子づくりをしようという話になった。
子づくり・・・何かリアルで嫌だ。
代理母はバカロンが最高のを用意しよう、と言って、何故か皆は先ほどまでのあのギスギスはどこにいったのか、ワイワイとスーツの破れているヨロヨロの側近が嬉しそうに用意する酒を飲みながら床に座ったまま話しをはじめていた。
バカロンは、「俺はとても大切に傷一つつけず大事に育てる、俺と透子の子だからな。補佐も早くからつけてな。」
とうっとりと話している。
レイちゃんは、「私の子も次代の総帥にふさわしい最高の子になるでしょう。」と言っている。
何故か皆自分の子の方がと、まだ何も始まっていないのに勝手に親バカモードに突入しはじめた。
ガンちゃんが今ロシアで育てている護衛用の子供で優秀なのを俺らの子供につけよう、そう言うと、バカロンも俺にもくれ、変わりにきちっと洗脳はして最高の護衛にしてやる、と話し出す。
そして、それ以降の教育は黒幡で引き継ぎ、最高の忠犬を作ろう、と言っている。
皆は、特にヨウちゃんが、それなら安心だなって笑って、皆にいかに黒幡のそれが凄いか説明する。
だが多くは潰れて死ぬだろうから、黒幡側でも子供を集めてくれ、と何故か和気藹々と父親同士の結束を固めあっている。
それから何故か黒幡日本支部長にヨウちゃんが復帰することになり、全員で乾杯した。
反目はどしたのさ、と私が冷たく聞いてやったら全員が声を揃えて言った。
「透子との子の将来がかかってるんだ、安全ネットは何重にもあった方がいい、ましてそれが最高のものならなおさら、な。」
と全員嬉しそうに答えてきた。
確かに、この男達がスクラム組めば、怖い物などなさそうだけどさあ、ここ少しは私が怒ってもいい気がするのは何で?
私はこの1日の大騒ぎを思いだし、一体この落ちはなんなんだろう、と呆れながら、まあ、私が産むわけじゃないんだし、とまた思い直し、最高級に危険な男達がやりあうよりは、全然これましなんじゃん、と思いながらそのまま安らかな眠りに身を委ねることにした。
手打ちなどきれいさっぱり雲の彼方に飛んで行ったばかりか、最強最悪の父親同盟がここに発足した。
ね、だから思うんだ、女にまかせたら、少しは戦争なんていうのも減るんじゃないか?ってね。