第30話
ガンちゃん登場
緊急連絡が入った時、俺はまだ家を出ていなかった。
透子が帰るのと交代で、そのままその迎えの車で仕事に向かうつもりだった。
事務所から緊急無線が入ったと聞いた時は何事かと眉をしかめたが、それが透子を迎えに行った車からのものだと聞かされた時、俺は最後まで聞かずすぐさまマンションを飛び出て、陽二にその電話を放り投げ、下の駐車場に止めてある陽二の車に飛び乗った。
こういうのは陽二にまかせれば一番だと知っている俺は、続けて助手席にかけこむ陽二を乗せ俺の後を慌ただしくついてくる若頭補佐の上条に、人数を集め無線が発信された場所まで急げと指示し、急発進した。
俺は場所のみ聞いて、他の事は全て陽二にまかせ、陽二も一瞬たりとも時間を無駄にせず、そのまま連絡をよこしてきた事務所の人間に、車の中で詳しい話を聞いている。
俺も陽二もこういう時の時間がどれだけ明暗を分けるか嫌と言うほど知っている。
俺は一刻も早く透子の乗った車からのSOSがあった地点まで信号も無視して猛スピードで向かう。
大丈夫だ、必ず助ける、俺達がいて助けられないわけがない、そう怒りのあまり叫びだしたくなる自分に言い聞かせながら一心に車を走らせた。
陽二は次に自分の携帯で、やはり動かせるだけの人数を動員して近辺の封鎖を指図している。
俺は帰ってきた携帯で同じように礼司に電話をかけて、それをまた陽二に渡す。
礼司もこちらに急いでかけつけるらしい、礼司も礼司で打てる手を全て打ってくるだろう。
礼司との電話が切れたと同時に宍倉から電話が入る、簡単に説明して切る。
宍倉はすぐさま礼司とは別の夜の闇の情報を探るといってきた。
俺達に、俺達の透子に刃を向ける奴は、俺達が地獄に叩き込んでやる!
恭弥の所がバイクの特性を生かし、一番にかけつけるだろう。
陽二が、恭弥にまず透子の車を確保しそのまま俺達がつくまで護衛をしろと、そして敵の排除も同時に指示している。
万が一透子が車にいなければ、近辺を走る車と言う車を止めまくれ!それとは別にその近辺を人海作戦でくまなく探せ!と万が一の場合の指示も出している。
もしいなければだとぉ、俺は怒りのあまり唇を噛み破った。
目の前が真っ赤に燃える、殺してやる、殺してやる!一族郎党全て、もし透子に何かあれば、その血につらなるものは全て殺しつくしてやる。
SOSを受理してから現在まで時間にして5分、現場までは恭弥がすっ飛ばして20分ほどでつくだろう。
この車も30分もあればつくはずだ、透子の車にはサブで警護の車もついていたはずだ。
何があったのか状況はわからないが、あの車は防弾特殊車両であの車内にいるぶんには危険はない。
迎えにやった近藤は切れる男だ、腕っぷしにも間違いはない。
大丈夫だ、大丈夫なはずだ、30分くらいは余裕のはずだ、と俺は祈りを込めてハンドルを握る。
隣の助手席から、こんな場合なのに、一心不乱で運転しているこの俺が気付くほど、俺でもぞっと震えるような気配がする。
それはこの闇の世界を引退したはずの「ゲヘナ」と異名をとる黒幡の№2だった男のまごうことなき気配だった。
煉獄の炎で敵も味方ですら容赦なく焼き尽くした、伝説の男がそこにはいた。