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君のままに美しく  作者: そら
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第29話

男は私をその体の上に乗せたまま体をおこすと、私を片手で抱き、そのままひょいと起き上がった。


そしてそのまま歩き出すと、自分に続く残りの男たちの一人に時間を聞いた。


「12分です。」


どうやらこの逃亡劇にかかった時間らしい。


それが長いか短いか、私にとってはじめての事で判断がつかない。


それを聞くと男は腕に抱く私をしっかりと抱え直しまた歩き出す。


いいけどね、私裸足だし、でも男の腕や胸が半端ない筋肉で覆われているのがわかり、まるで猛獣の腕の中にいるようで落ち着かない。


私はあの無線から12分がたっている事、先ほどの通りに戻るにはそれ以上の時間がかかるだろう事を考えて、ガンちゃんの助けがもうすぐくるだろうと確信した。


ただし、この私の状況が足を引っ張る事も同時に確信した。


誰だってわかるよね。


どうやってこの腕から逃げ出し、ガンちゃん達に不利にならないようできるか、さあ考えろ!


一度目をつぶり、瞼の裏できっと心配しているだろう愛しい彼らをを思う。


大丈夫、彼らの助けは必ずくる。


私が戻るのは彼らの所しかないから、私は必ず戻るんだと改めて思う。


私は男の腕の中から男を見上げて、からかうように聞いた。


「ねえ、あなたは九州統括のなんとかさんとかいう人関係?」


男は綺麗に無視してくれた。


「ねえ、あなたは高津さんの東仁会と敵対してる人?」


これも無視、でも話すなとは言われない、今のところは、ね。


「ねえ、あなたは宍倉さんと敵対してる人?」


はい、無視。


「ねえ、じゃ橋爪さんかな?」


うん、ないね、ないと思うよ、私も。


この人半端ない化け物だもん、サーベルタイガーみたいな人だもん。


いくら無謀なキョーちゃんとこでも、対立するにはレベルが違いすぎる。


相変わらず無言でいる男に、一番聞きたくない名前を私は嫌々出した。


「・・・青井さん関係の黒幡?」


男の腕に抱かれてその気配を一つも見逃さないようにしていた私は、そう言った私を面白そうに見下ろす男の顔を見た。


「ビンゴね!」


で、敵対してる方?そう聞きたいけど、わざわざ火に油は注ぐような馬鹿じゃない。


「ところで、私のミュールそこらへんに落ちてると思うの、探して下さらない?」


私は裸足の足を、ストッキングが破れているその足をわざと大きくプラプラさせて、男の短い髪をキュっと引っ張って私の方に向けて頼んだ。


それを見た、すぐ隣を歩く、これも一分の隙のない見るからに鍛えられている大きな男の人が、今まで無表情だったその人の顔が驚愕したのが見えた。


ふ~ん、この人、やっぱり身内にもヤバいと認識されてるわけね。


男はそんな私にふっと笑みをもらすと、私の頬を撫で、また何も言わず歩き出す。


そりゃあ、私ってば毎日、愛情こもったヨウちゃんのエステ受けてるし、ユキちゃんの理想的な食事毎日食べてるし、肌はもう白桃のような色合いで、つるっつるだけどさ、ついでにピチピチの花の女子高校生だし。


だけどね、何であなたにこうも触られるのか理解できないわ、許した覚えないわよね。


けれど現在の私の状況をみれば、頬を撫でられるくらい目をつぶるべきなのかしら?


私の考えた時間稼ぎの質問タイムも、途中どこかの店の裏口に立っていた男の案内で裏口から中に入る事で簡単に潰えてしまった。


さすがに、これはないよねぇ、反則だよ。


だってその店に入ると営業はしていないようで、店内は非常用灯だけで暗くて、けれど慣れた仕草で裏口に立っていた男が壁にしかみえない所をついっと開けて地下に続く階段を先導して下りていくんだもん。


さすがに、これはやばいかもって思って、考えるなんて悠長なことしてる場合じゃないと、やぶれかぶれに腕から何とか抜け出そうと暴れたんだけど、どうやっても男の腕はビクともしなかった。


これでも拘束を逃れる方法もバッチリ教わってたんだけど、全然私じゃたちうちできなかった。


それどころか、暴れすぎて肩で息をつく私をめんどくさそうに見て、


「お嬢ちゃん、ちゃんとあとで遊んでやるから、オイタはなしだ。」


そう言って、また頬を撫でると、その手で私のレースで覆われた首元をそっと壊れ物のように撫でて、そしてその指先で首元を軽く押さえてきた。


私は意識がもうろうと遠くなってきたのを驚いて、どうしてそうしたのか男にすがるように手を伸ばした。


その私の手を握り、自分の頬にあてる男をかすむ目でみながら、私は非常用通路ってやっぱりこんな風に使うのがベストよね、とか、この人自分の顔に一本の赤黒い引きつれがあるせいで顔肌フェチなのかしら、とか考えながら綺麗に意識をなくしていった。

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