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君のままに美しく  作者: そら
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第28話

狭い道幅の路地裏に入ると、そこは住宅地の路地裏ではなく、小さな店舗などの裏側にあたる路地裏だった。


ビール瓶が積みあがっていたり、段ボールがまとめられていたり、私は走りながら裏口から店に入れそうなそれを幾つか素通りし、それらは悔しいけど入ってすぐにあったから、店に逃げこんでも無理だろうと思ったから、泣く泣く素通りした。


小さなT字路に出たので狭い方に迷わずに曲がり、路地裏に必ず一つはある大通りと対になっているそれを探していた。


重い足音が、追っ手のそれが絶えず聞こえ、その数がどうやら減ったり増えたりするのを、荒い息をあげながら聞いていた。


追っ手のあげるその音に耳に澄まして、自分でも思ったよりは冷静に逃げていた。


ただ、さすがにヒールはきつくなり、後ろの気配を探りつつ、カワイイそれを脱ぎ捨てる、ごめんねミュールちゃん。


私は汗をかいた体に、疲労を訴える体にまたムチを入れて、気配を探りながら更に走った。


追っ手にも私の姿が常にちゃんと見えているはずで、思ったより単純な路地裏なので、ここらで路地裏におさらばしないとまずいと判断し車の音が大きくする方へとまた頑張って走る。


更に大きな音を求めて右に曲がって走っていくと、一段と喧噪の音が聞こえてきた。


やった、もうじき出口に近いはずだ。


そう期待して、そしてさすがにガクガクする体にムチ打って、思い切り駆け抜けた先で私が見たのは行き止まりの大きな壁だった。


いろいろな生活用品などが、山と積まれて捨てられたそれが、いつのまにか道を塞ぎ、ガラクタ置き場の壁になっていた。


ちょっとぉ、粗大ごみシールくらい買いなさいよ!


あちゃあ、・・・私は後ろを初めて振り返った。


追っ手のいかつい男達は、肩で大きく息をしながらこちらに向かって走ってくる。


1人、2人・・・5人くらいいた。


その中に、あの顔を帽子で半分近く隠した男もいた。


私はあせることなく状況を確認すると頭の中で冷静にタイミングを計る。


さあ、もっとこっちに来てよ!お願いだから来い!私はおびえたふりをしてギリギリ行き止まりのゴミの壁近くまで後ずさった。


あと、一歩、そう、もう少しこっちよ。


けれど、その一歩がなかなか埋まらない。


私を囲むように男達が立ち止まるが両手を伸ばせば突っかかるくらいの路地の狭さの為、体をずらしあって私を取り囲む。


そこを顔を帽子で隠した男が堂々と私の正面にゆったりと歩み出た。


へぇ、やっぱりこの男がリーダーらしい。


男は低いしゃがれたドスのきいた声で私に声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、鬼ごっこが好きか?」


「で、つかまえた鬼には褒美は何だ、何をくれる?」


男がそう話しながら、唯一見える口には例の獰猛な笑みを浮かべて私の方に一歩歩み寄ってきた。


今だ!


男が私に近づくと蹴りをいれながら、すいと体をかがめ、この男を何とかかわし、わからぬように後ろ手に隠していた、捨ててあった折れた物干しざおの小さな一つを手に取り、寥先生直伝の棒術でチェックメイトと油断していた後ろの男達に攻撃をしかける。


くるくるくるくる、自分の小柄さを生かして上に下に、斜めにと、舞うように体を動かす。


打撃力は軽いものだが、一つ一つの攻撃は急所を狙う。


突然の攻撃に、男達の間に一瞬の隙ができるはず・・・案の定だ。


その隙のできるタイミングを、わずかなその時間を逃さず、その短い物干しざおを最後に彼らに向かって投げ捨てると、ちゃんと計算して戻っていた後ろから、再び少し長い物干しざおをとると、それを助走なしで地面につきたてて、棒飛びの要領で彼らの頭上をひらりと飛び越える。


「Ican fly!」


やってみたかったんだよね、これ。


この間体育で習ったばかりのそれは自分で言うのもなんだが、綺麗にできたと思う。


わずかな距離の男達の頭上すれすれを飛び上がる。


下着が見えたかは気になるところだったけど、そこは考えないようにして、男達の先に出られれば又逃げられる、そう思った。


ところが、宙を浮く私の体にすぐさま反応して、路地の壁に足をつきたて、そのでかい体で同じように宙に浮き私の腰を抱き込み地面にたたき落とす化け物がいた。


地面に落とされる瞬間、その化け物の大きな体に包まれ、そのままゴロゴロと路地を転がり、その化け物の体の上に抱き込まれたままの私は一瞬何が起きたか理解できず、その後何が起きたかを確認すると思わず言った。


「嘘でしょ、ありえない、ほんと、ありえない!」って。


その化け物は例の獰猛な笑みを見せ、クククと笑うと、


「つかまえたなあ。」


そう言って、真下から私を抱きしめたまま、私の頬をゆっくりと撫でた。


ずれた帽子から見たその男の顔は額から左の目を通り顎の下まで引き連れた赤い傷跡が一本通っていた。


けれどそれが男の雰囲気と相まって危ない色気を醸し出し、私を見つめるその目はどこまでも昏く底なしの黒で、あの保護者ズに人間に戻れないと言わしめたコロやシロのあの目より、もっと底なしの目をしていた。


私は男の上に抱かれる形に抑え込まれながら、今の状況を冷静に考えた。


やっぱ化け物で間違いない、そして、敵ではあるだろう、襲撃をかけるくらいだから。


そして、私を捕まえるために、私の動向を探り、なおかつ大きな道路で事故をわざとおこし、この迂回路まで誘導し、そこを封鎖する力がある。


けれどその身にまとう力や暴力の気配を、私に向けてはこない、今のところは。


目的は、私で間違いない、では私を捕まえたこの先はどうなる?


私は初めて先がよめない状況に背筋を震わせたけど、けれど目だけは決してそらさなかった。


男はそんな私をじっと見つめて、そして一度ホウッとため息をつき一度目をつぶると、次にこちらを見つめる目は愉悦をたたえたひどく濡れた目をしていた、この私が引き込まれるほどの。


私の頬を繰り返し撫で続け、私を抱きしめいつまでも地面に転がったまま男は動こうとしなかった。


私もまた、自分からは動かなかった、何かあった時はじっとしている、それは身を守るセオリーの一つだと知っているから。







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