第20話
やはり名前からしてダサかった、うん、そのせいかも知れない,そうしとこう。
納涼、感謝・・・やっぱあれはないよなあ、透子は帰りの車の中でそう思った。
レイちゃん達が、セフィロスのテーマの流れる中、庭園に「もう帰るよ」と迎えにきた時、委員長をはじめ皆固まってしまった、そりゃそう、噂のお方に普通じゃない風ダダ漏れのお人達だもの。
そして、ホールに戻り委員長のお父上に帰るためご挨拶をしたが、その視線は私を通り越して、私の後方に向かったままだった、これもそりゃそう。
しかし、あのホールの雰囲気の微妙な事ったらなかったし、せっかくの修学旅行の夜の宿舎のノリだったのに台無しになっていた。
ある意味本当に寒すぎて、見事に納涼だったよ、そういう意味じゃ納涼は成功だったな、うん。
ホールで何があったか知らないし、知るつもりもないけど、一度自分の立ち位置を確認するためにも、私の保護者ズと話し合わなきゃな、って思った。
私はマンションに帰りゆっくりお風呂につかり、今日のお風呂には甘いバニラとオレンジのバスボムを入れて、癒しタイムを満喫した。
そのままヨウちゃんのエステに直行し、ゆったりとしたパジャマに着替えてリビングに向かった。
テイちゃんがピラピラレースつきの着替えを用意してたけど、無視よ無視、残念でした~。
さてと、真面目にお話といこうかな。
お酒を楽しんでいるみんなの顔をみながら、
「私ね、黒ユリ様で当分、行くつもりなの、今のとこ。」
おお、スルーとね。
「で、結構、自由に動きたいときもあると思うんだ、というか動くつもり。」
お、注目成功!
「だからね、そんな時に自由がないとか困るんだよね、絶対。」
「はい、ガンちゃん、代表でどうぞ」
みんなあきれた風なので、私から指名して話をふってみた。
ガンちゃんは、律儀に手を上げて、それから話し出す。
「バカか、透子。俺らは敵も多い、⦅はい、どうぞ⦆何て言うわけねえだろーが、お前わかってんだろ。」
「お前は俺達の唯一だ。理解していると思っていたが、まだ足りなかったか?」
と、レイちゃんが話にならぬとため息をつく。
いやいや、いっぱいですとも。
私は手を上げて、はい、確認です、と保護者ズを見渡した。
そして、ちゃんと言いたい事を言った。
私にはみんなしかいないし、みんなしかいらない。
みんなもそうだって勿論わかってる。
委員長をはじめ、たくさんの人間とのつながりが出来はじめたけど、それは私の生きる流れの中に生まれたシャボン玉みたいなものなの。
シャボンの膜を通してみている世界は、楽しく綺麗でも、私とは隔てた所に存在するものでしかない。
私がいつかそれを壊したくないって思う時が来るかもしれないけど、今はそれが別に壊れて消えてもかまわないと思っている。
私の存在の認知の埒外のあれこれの一つでしかない。
私の中で大事なものは、既に皆でいっぱいで、増えようがない。
ねえ、何をあせってるの?私達は一つの生き物でしょう、違う?
どう周りが変化しようと、私達は私達以外いらないでしょ。
私は私以外、みんなが大切なものを作ったらなんて考えるだけでも嫌!
そう言って思い切りヨウちゃんに抱きつくと、
「透子が初めて外に開いて出ていったんで、ちょっとあせったし、恐れもした。ざまあないな、俺たちもカワイイもんだろ?」
ヨウちゃんが私を抱き返して笑う。
私はフフフと笑って、
「まさか私がちょろっと動くのもダメなんて情けない力しかないの?縛り付けなきゃならないほど。」
そう聞いた。
するとみんなは、とてもとぉっても怖い笑顔で「それはない!」と断言してくれた。
一人、わからないようにやるか、って言ってたけど・・・、うん、聞かないふり、聞いてない、聞いてない。
とりあえず、これで自由は確保!
私の前に立って全てを見えなくされるのは嫌だもの、ちゃんと知っていたい、何があろうともね。
今日はこのままゲーム大会に突入して、朝までここで皆でゴロゴロ遊ぶことにした。
ユキちゃんは午前中診療があるけど、休診するって連絡してる。
何故か皆ウキウキしたまま何だかいい感じ。
私はもうあの時のように一人で泣くつもりもないし、誰にも決して泣かされるつもりもない。
それでもまだまだ子供で、だからじゃれあいながら、朝までゴロゴロして甘えまくり、波乱気味の一日を締めくくった。