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君のままに美しく  作者: そら
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第19話

礼司視点です。

透子の学外初デビューの今日は一切の予定は入れず、透子のドレスも髪型も化粧でさえも、自分たちで整えた。


陽二のエステを今日は特に念入りに受けて出てきた透子の軽くはおっていたローブを、禎夫が近づき、するっと脱がせた。


その一糸まとわぬ透子の姿を皆で髪の毛ひとすじ見逃さず堪能する。


風呂上りの透子にパジャマを着せるのも、朝、制服をきせるのも、いつも手の空いている誰かがやっている。


はじめはありえない!恥ずかしすぎる!これはない!と騒いでいた透子も、これが男に、それも一流の男にみられる事がどれほど女を美しくさせるか、それが透子の自信にもつながる一つだと教えてからは、抵抗もせず受け入れている。


もちろん、俺達限定だと、しっかり念を押しているが。


誰がついたため息だか、それを合図にするように、禎夫がそのままシルクの下着から透子に着せていく。


ドレスは私の意見を大幅にとりいれた薄黄がかったカクテルドレスにした。


とても上品にカットされたそれは、透子の瑞々しい若さや、その美しいラインをあますことなく伝えるもので、透子に関してうるさい皆も納得のいく仕上がりだった。


ストッキングは、片方ずつ高津と恭弥が跪きそっとそっと優しくはかせていく。


髪は幸弘がその神と呼ばれるその手で器用に結い上げていく。


今回ドレスと共に用意した本真珠のピンをところどころに刺し、そこから少しずつ髪を綺麗に垂らしていく。


外科医でなくてもやっていけそうな腕前だと皆に褒められてまんざらでもなさそうだ。


透子のドレスを邪魔するものでなく、しかしその一度も染めたことのない黒髪の美しさを、きっちり主張した素晴らしいものだった。


最後には私が化粧を担当した。


口紅は皆がつけたがったので、紅筆で皆で交代でつけていったが、すぐ紅をつけてはそのままキスをしてしまうので、なかなか進まず、機嫌がよくない透子を余計機嫌悪くさせてしまった。


透子が待ち合わせもあり先に出かけていってしまったので、俺達は着替えをしながら、ゆっくりと透子の本日の隠し撮りのビデオを見つつ、軽く酒を楽しんでいた。


夏休みに入って透子がいるので、今まで透子がいない時に設けられていた鑑賞会は中止になっていた。


その分、おのおの各自の仕事場の自室に、その映像が転送されており、こうして揃ってみるのが久しぶりの為、つい、いつもの自室での癖が出てしまったらしい陽二が、さきほど直接見れなかった全裸の透子の背中から太ももにかけての曲線の美しさに、さすが中国古武術は凄い体を作るだろうと言いながら、大型テレビに映る透子の背中を指で撫でまわし、その為陽二で隠されてしまった透子の姿に皆で大ブーイングだった。


もちろん透子は自分の姿が24時間とられていることなど知らない。


学園の黒ユリ館の私室から、もちろん教室も、家のも、全てこの隠し部屋にマスター映像が送られてきている。


我々が知らぬ透子はあってはならぬと確か巌がはじめ言いだして、それはそうだと、学園は入学と共に、黒ユリ館はリフォームと共にカメラが密かに据え付けられていた。


巌は俺のベンガル虎のはく製や熊の毛皮の何が嫌なのか、と箱詰めされたままのそれが時たま映像に流れてくるのをみて哀しそうな顔をする。


禎夫の金ムクの大時計やふくろうは、1階のスペースに飾られて落ち着いたのに、何で俺の虎や熊はダメなんだ?と毎回みるたび大騒ぎする。


それを聞く私達は金ムクの置物ならまだカワイイものだが、本物の虎や熊は子供の、まして女の子じゃあ無理だろうよ、と冷たくみやる。


夕陽沈む中や暗い中、ましてや古い洋館で、本物の虎や熊がおかれたならば、さぞや不気味に違いない。


まして恭弥のチーム入りのあれこれなど、考えるだけ無駄な品々で、さすがの巌もあれはない、馬鹿だといっていた。


恭弥自身はしまわれたままのそれらに、透子が関心ないのなら自分もないとばかりに我関せずでいる、というか最早忘れているに違いない。


皆それぞれが透子をつまみにし、うまい酒を楽しみつつ迎えの車を待つ間、透子にこれから万が一近づく害虫が出たら、との話が出てきた。


可能性を考えるだけで、我々の感情は奥底まで冷え切り、結局それぞれが、それぞれのしたいように対処すればいいだろうと落ち着いた。


「透子に近づこうとする奴は地獄をみせてやる。」


とは、巌が歯を食いしめて低く腹の底から宣言した言葉だが、それなら私は巌以上の地獄を用意してやろうと思う。



ホテルに入ると入口に支配人が待ち構えていて、その案内で会場の近くまできたが、主催者である井上テクニクス社長である井上治也氏たちが入口に出迎えていたので軽く挨拶をする。


初めての参加を何やら言って喜んでいるようだが、透子がいなければ、この程度の会社のパーティーなど誰がくるか、意味がない。


筆頭秘書の前島がさりげなく井上社長を遮り、そのまま会場入りした私はすぐさま愛しい透子を探した。


巌と恭弥の二人はすでに来ていたらしく、その傍には、危うい男の色気にやられたバカ女がすでに群がっていたが、ことごとく一睨みで蹴散らされていた。


それでも遠巻きにしてるとは、厭きれたものだ。


私がきたのをめざとく見つけた者達が私にたかりだすのを前島達秘書が素早くブロックをかける。


幾人かそれでも秘書を通して厳選された人間の挨拶を適当に受けているうち、前島が私にメモを渡してきた。


透子様は庭園の方で他のお嬢様方と一緒におられます。


井上社長達が庭園をブロックして、誰も通していない状況だ、と。


ほお、私は私についたままの井上社長に目をやり、微笑んだ。


私が微笑んだのをみた会場の人間達が息を呑んだ。


失礼な、私とて人間だ、冷酷だの悪魔だのと好き勝手に私を呼ぶが、大事な女に気を使ってもらえれば感謝ぐらいはする。


禎夫が幸弘と共に、やはり群がる女を避けて、こちらにやってきたので、メモを他の人間にわからぬように渡した。


幸弘は比較的知られているが禎夫は一部にしか知られぬ夜に属する人間だ。


その禎夫が私と気軽に話したので、何を勘違いしたのか、与党の政治家が図々しく寄ってきた。


井上社長に挨拶しながら、秘書がさりげなく止めるのを無視して私に声をかけてくる。


「いやいや、このような所でお会いできるとは、光栄ですな。しかしさすがこの名だたる不況下でも神林コンツェルンの業績はとどまるところを知りませんな。」


「世界でも5本の指に入る企業の若き次期総裁にこんな所でお会いできるのも何かの縁として、それでですな、これはうちの長男でして、いずれ私の跡をと思っております。」


そう言いながら勝手に息子を紹介してくる。


ふん、面倒な!前島に視界の邪魔だ、早くどかせと目で促す。


前島がその親子をそれとなく引きはがそうとした時、そのバカな政治家が井上社長に声をまたかけた。


「そういえば一人娘のお嬢さんが、おもしろいコミニュティーを作られたとか?噂で聞きましたよ。」


「普通の娘をトップにしたてて、ご自分は後ろに控えるなど、さすが井上さんの所のお嬢さんですなあ。」


いろいろ黒ユリ会について知ったかぶりで井上社長に取り入るべくほめたたえる。


どこで耳にはさんだかしらないが、私の透子を私の前で侮辱するとは・・・。


私がどうしてやろうと考えていると、驚いたことに、私の前にいち早く井上社長が不快感をあらわにした。


「いえいえ、とんでもない、素晴らしい御嬢さんでしてね。うちの娘など足元にも及びません。」


ねえ、皆さん、そう言って他の親にも声をかける。


黒ユリ会メンバーの親たちは、うちもまだまだ、リーダーの子が素晴らしくて、ただついて行っているだけですよ、などとと口々に言う。


バカな政治家は旗色が微妙に違うのは感じたくせに、何故普通の娘をかばうのかという顔をして、後ろについている自分のイエスマンである腰ぎんちゃくの人間達に話をふる。


「いやいや、話題の娘さん方の親御さんたちは、さすが腰が低いですな。」


と言って、たいぎょうに笑う。


「そういえば今日はお嬢様方が参加していると聞きましたが?」


と空気も読まず聞いてきた。


井上社長が、


「子供は子供同士、一緒に庭園で涼んでおりますよ。我々も邪魔はするなと、大人は立ち入り禁止だそうです。」


そう言って暗に邪魔はするなと言ってきた。


それもわからぬ愚かな政治家は、


「それはそれは、けれど折角の良い機会じゃありませんか。頼もしい娘さんの将来の為にもぜひご紹介いただきたいものですな。不肖ながら私も何かあれば力になりますよ。」


「いやいや、うちの息子もこの通り、まだ独り身でしてねえ、是非とも自慢のお嬢さま方をご紹介いただけたら、俄然仕事のやる気もおきるというものですよ。」


そう言ってガハハと笑う。


後ろの腰ぎんちゃくどもや、好奇心で見たいと思っていた招待客の間からも、是非に、との声がたくさんあがる。


その騒ぎに、異質な何やらひんやりした空気が会場に溢れてきた。


見るとこの騒ぎを聞いた巌と恭弥がこちらにゆったりと歩み寄ってくるのがみえた。


そしてどこに隠れていたのか姿が見当たらなかった陽二まで、仕立ての良いスーツのポケットに手を突っ込んでこちらに来る。


ほお、久しぶりに怒ってるな、あれは。


自分たちは自慢ではないが透子に関しては沸点が低い、というかない。


我々の透子を舐めた発言をしたこの男にはきっちりちょうどいい、透子の初デビューに合わせて無様に踊ってもらおう。


透子の後ろにいる自分たちの怖さをしっかりと周知のものとして、この際覚えてもらうのも一興、幕開けは華やかにかつ残酷に!だ。


やがて、騒がしかった声も、ここに近づいてくる剣呑な雰囲気の男達の歩みに合わせて、次第に場は静まり返っていく。


そしてその男達が神林コンツェルンの若き次期総帥、いや父親が入院し復帰も絶望な今、実質総裁である神林礼司の元に並び、自分たちを苛烈ににらみつけてきた。


政治家は、たかぴしゃに


「君たちは何なんだ、私を誰だと思っている。勝手に近づいて何の用だ!無礼な!」


とその剣呑な暴力の匂いのする男達に向かって声をあらげる。


ところがそれに対して意外な所から声がかかった。


神林次期総裁だ。


無視できないそれに、政治家はその勢いをそがれるも、いっそ見事なほど低姿勢になる。


「さきほどあなたがおっしゃった、息子さんへ顔をみせろ、というのは、あなたのおっしゃるところの普通の娘である代表の子も含まれるのかお聞きしてもよろしいか?」と。


ぜひともつなぎをとっておきたい神林次期総裁の言葉に、何でそんな事を聞くのか一瞬、虚をつかれた形になった政治家は、とりあえず目の前の極上なそれにすぐさま食いついた。


「いえ、いえ、やはり、何と言いますか、やはりつり合いというものがねえ、うちだけでなくここにおられる皆さま方どこもそうでしょうが、勿論言うまでもない事でしょうけどねえ。」


そう言って小さく笑うと、それに賛同するかのようにクスクス笑い声が幾つも聞こえる。


それを最後まで聞かず、礼司は前島に声をかける。


「前島、今笑ったもの、顔を見せろと言ったものたちのリストを至急私に上げろ。」


「我がグループとの取引きがあればただいまを持って中止、他に対する処置はお前に一任し明日の夜までには、2度と私の前にその名前がでないようにしろ。」


そう言ってくるりと振り返って庭園へ向かう。


そこに何のことかわからぬ政治家がぽかんとしてるいるのに、声を荒げて先ほど政治家に怒鳴られた巌がはじめて口を開く。


「俺の名前は当仁会の高津組組長、高津巌だ。・・・夜にはせいぜい気をつけた方がいいんじゃないか。」


そう言って政治家とその後ろの人間をきつく見すえて礼司の後に続く。


「うちは怖い者ないんだよなあ、若いって素晴らしいだろ。そう思わねえ?」


巌の後に続きながら、恭弥が言った。


「俺は⦅サザンロード⦆ってチームやってる。覚えとけ。」


俺は忘れねえけどな、そう低く声を出しホールを去っていく。


幸弘がみんな怒ってるなあ、といいながら、政治家たちをみやる。


「何があったとしても、うちのグループにはこないで下さいね。医療ミスは少ないのが自慢なんです。」


そう、林グループの病院にはくるなと、来たら命の保証をしないと暗に釘をさして出ていく。


禎夫は、政治家とその取り巻きの顔を見ながら、女の名前を幾つかぽつりぽつりとこぼしていく。


「どこの週刊誌がいいかなあ、いいネタだらけだ。」


そうニヤリと笑い、その女の名前に心当たりがあるものは、まさかと顔色を悪くする。


最後にポケットに手を突っ込んだままの陽二が庭園に向かう為背を向けながら、彼らに一度だけ振り向いて言った。


陽二に見られた者が息もできないほどの凶悪さを醸し出しながら、


「海外にはいかない方がいい。」とぽつり。


「黒幡は世界中どこにもいるから。」とぽつり。


黒幡とは中国から生まれた世界最大の犯罪組織だ。


その名前がどうしてここに出てくる?と、どこかからささやく声が聞こえた。


しかしここにいる人間の今一番の関心は、今目の前で神林コンツェルンに切り捨てられたものたちへ向けたものだった。


ところが、その当事者である彼らはいまだ事態をきちんと理解していなかった。


一体何がどうしたんだ?それだけだった。


しかし主催者である井上社長がそれを破るような大きな声を出した。


「原田先生も、峰山社長も、それから皆さんも余裕ですね。」


「私など聞いていて恐ろしくなりました。筆頭秘書の前島さんの姿が見えませんね、既に皆さま方の会社への処理がどうやら始まっているみたいですよ。」と。


その言葉に、やっと何が何だかわからぬなりに、急いで会社に戻らねば、と慌ただしく会場を皆挨拶もそこそこに去っていく。


庭園に去った次期総帥にもう一度接触を、と頭の回るものもいたが、秘書たちにはばまれ、それが無理と知ると、ここにいるよりも、と自衛策を探りに足早に顔色をかえて出ていく。


彼らを見つめる主催者である井上の傍に梁間やその他の黒ユリ会の娘たちの保護者が、外部招待客の三分の一ほどいなくなったホールを見渡しながら近づいてきた。


彼らもまた顔色が悪かった。


自分もまた顔色が悪いかもしれないと思い、かたわらで心配そうに見上げる妻の肩を震える腕でそっと抱いて、娘たちのいる庭園をみつめた。





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