第17話
広い会場に委員長に案内されて入っていくと、すかさず委員長のご両親がきて、それはもう丁寧に挨拶を受けた。
私は初対面の同級生の親に会った場合のスキル、それも意図せず無理やりとも言う今回のその首謀者に、これしかないよね、ときちっと慇懃無礼という技でお返しをした。
夏の週末らしく、大勢の人間がざわつく集まりの現在進行形で注目を浴びているのは、顔寄せパンダ役の自分だと認識している私は、委員長の父親と握手しながら、こいつが元凶その1かと、にこやかに微笑みながらも必要以上に馴れ合う気はないかんね、ときちっと態度で答えられたと思う。
さすが元凶その1は、うちの保護者同様食わせないやつで、自分は何も知りません臭を私に返してきた。
だから大人って嫌いよ、できる大人はね。
まあ、会場に入ってまだ数分しかたってない状況だもの、ここは様子見ね。
もし子供と思ってかかってくるようなら返り討ちにしてやるわ、機嫌が悪い時の私は、うちの保護者ズもお手上げなんだから。
けれど、とりあえず大人しく1時間はここにいることを目標としている私は、委員長のお父上と軽くジョブをかわしながらも、一応無難に次々といろいろな方に紹介されていった。
・・・委員長達黒ユリメンバーズを引き連れて・・・、ここ重要!。
なんで?なんでぞろぞろとついてくんの?あんたたち、おかしくない?ここで学園同様ついてくる必要ある?ない、ない、ないから!絶対ない!
私がすぐそばにいる委員長にそれとなく訴えかけても、綺麗にスルーする、それは上品に知らんぷり。
やはり腐っても委員長、さっきのロビーでの姿は幻かってほど生き生きと知らんぷり。
私の訴えをスルーしてオジサマ方とご挨拶。
絶賛ボーイさんたちのすんごい邪魔中だよ、これ。
会場を優雅に泳いでいる彼らはきっと、このバカガキども、邪魔だ!って絶対思ってるよね。
私のせい?私のせい?
外からみたらどういう状態で見えているのか考えたくもないんだけど。
ぞろぞろとアリの行列みたいに、それよりひどいか、軍隊アリだ、そう、通った後何も残さないやつ。
私が紹介され皆で移動した後は、群れがあいた分、人のいないむなしい空間になっているはずよ。
もう、あんたたちは、ここは得意のお嬢様スキル発動させて、いろいろお話とかお話とか、ついでに大人同様うさんくさい怪しいスキルも会場のあちこちで発動させるとこじゃないの?
それなのに、それなのに、なぜついてくる?
私嫌がってるよね。
私相手に舞い上がってるように見せかけてるけど、こういうとこで黒さバレバレだっていうのよ、まったく。
まだまだ甘いよ。
・・・絶対うちの保護者ども、これみて腹抱えて笑ってる、間違いない!
ちんたらと顔合わせしているうちに終わらせてやる、そう思っていた私だが、予想もしていなかった恐るべし伏兵にこうしてがんじがらめになってしまってる。
誰かこのおバカな黒い子猫ども何とかしてよ。
委員長のお父上に目をやると、さすが親猫、完璧なスルーをみせてくれた、チッ!使えない。
真っ黒子猫は、自分の親のそばにきた時にはその子が前に出て嬉しそうに紹介してくれる。
うん、あんたたち邪気がないアピールね、怒りゃしないわよ、今さら。
私は今日だけは早く家に帰りたくないなあと思い、海、海にいこうかなあ、山は、山もいいかもなあ~と現実逃避していた。
そこに、梁間さんがすっと前に出て、私の家族です、と自分の家族を紹介しはじめた。
この梁間さんに馬鹿な女がつっかかったせいで、端を発した学期末の騒動なので、この時は会場が水を打ったかのようにシーンとして、わざとらしかったザワメキのめっきがはがれた。
私は播磨さんの父親、母親、兄たちを紹介されながら、何でもないことのように聞いてきた播磨さんの父親の言葉に心の中で眉をしかめた。
いけない、いけない化けの皮どころか慇懃無礼の笑顔もはがれかけたよ。
梁間さんの父親はこう聞いてきた、それこそここにいる人間がもっとも聞きたい事を直球で。
「子供の他愛ない喧嘩なのに、親の私が言うのも何なんだけれど、うちの娘を助けてくれてありがとう。」
「それから遅くなったけれど黒ユリ会発足にお祝いをいわせてもらうよ。」
「これから先も娘たちは楽しく学園生活をおくれると思ってもいいのかな?少し不安でね。」
「いや、なになに、いくら親とはいえ学園までは目が届かなくてね。いつまでも私達は親バカばかりだと、今も皆さんと笑って話したばかりでね。」
そう言って次々と矢継ぎ早に軽い感じで話しかけてくるが私を見るその目は真剣でちっとも笑っていなかった。
ここで直球なん?え?
そんな私の疑問は井上さんのお父さんの言葉で納得いった。
「今この時間は黒ユリ会のメンバーの家族と信頼する部下しかいなくてね。」
「外部の方たちは招待時間を少し遅い時間に設定してあるんだよ。」
私は周りを見渡し、それでも大勢いるとしか思えない内部だと言う人間を、こちらを見つめる人間達を確認した。
ほんとだ、やった!うちの保護者いないじゃん、これで笑われずにすむ!と心の中で歓喜の涙を流し、少しぐらいならいいかと素直に答えてやった。
私はクスクス笑って、後ろにいる子猫ちゃんたちを見て言った。
「私一人では無理ですけど、とても素敵な仲良しグループになりたいって、はじまったばかりですけど、そう思っていますの。誰ひとり欠けることないよう。・・・勿論欠けさせるつもりもありませんけど。」
「この先大学とかはどうしても分かれてしまいますでしょう?その後もいずれ結婚とか・・・。」
そう言って、ちょっとため息をつく。
「そんなのとても楽しいグループがせっかくできたのに寂しすぎますわ。そう思いません?」
「それでね、私思ったんです。この黒ユリ会は学園だけでなく、卒業してもその後も皆の楽しい仲良しグループとして続けていきたいなって。」
「いずれ結婚もするだろうけど、その時は旦那様にもぜひご協力いただければ素敵だと思いませんか?」
そう仔猫ちゃんたちを真似して邪気もなく言って笑う。
そうよ、子猫ちゃんたちの爪は弱いけど、いずれそれも磨かれて強くなるわ。
親の成獣はちゃんと磨かれた爪も牙もあるし現在使えるわ。
親たちの損得合わせたつながりは子供への愛以上に強いはずよ。
黒ユリ会を、一流やそれに連なるいろいろな業種の一つの巨大企業ととらえてもいいでしょ。
これだけまとまってるんだもんね、少なくとも娘たちはね。
幼い時からのお互いを通しての意図せぬ刷り込みは、一種の狂信だわ。
これからすりよってくるだろう人間や男どもも、この黒い子猫ちゃん達のつながりを絶つことなんて、裏切らせる事なんてまず無理だと思う。
まあ、テイちゃんみたいなプロにかかればどうなるかわからないけど、いいとこのボンボンにはそれはできない技よねえ。
「持ってるもんは使ってなんぼ。」
これ、ガンちゃんのわかりやすい教えの一つね。
お互いの会社に必要以上の足は踏み入れないけど、強固につながり、それを通してお互い潤っていけば、いずれ娘たちの時代には裏切りの心配もない一大集団になる。
ふふっ、みなさん今気が付いたみたいね、これから先よ、おもしろいのは。
ほらほら目の色変わってるわよ、大人ってやーね。
女性は太陽だった、って昔書いた人がいるけど、女が世の中少しぐらい動かしたって罰はあたらないと思うの。
ドンパチ戦争する前にちょっとかしこい女たちにまかせたら、お茶を飲みながら解決できることだって少しはあるんじゃないか、と思うわけ。
井上さん、梁間さんのお父さんは、私の話を聞いて改めて私に手を差し出した。
もちろん、私は今度は心からの握手をした。
私達の、いえ、私のいしずえをきっちりやっといてよね、との思いを込めて。
それからは次から次へと本気の握手。
最初の決意は、馴れ合わないよ、という決意は、保護者ズがいないので機嫌いい私はどこか遠くに放り投げてしまったようで、外部招待者がくるまで残りの時間、ホテルの人間も追いだした中、親たちと私達の、いや、私とのざっくばらんな話し合いが、どこの修学旅行の夜のノリかって具合に行われた。
何ができて、何に気を付けるべきか、ここにいる貴方方の他の娘、息子はどう考えてるのかしっかりと確認をとった。
「信じる者は救われる。」
「されば求めよ、与えられん。」
けだし名言だわ、ただし私に対してのみ有効で。