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君のままに美しく  作者: そら
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第16話

初学外です。

透子は機嫌が悪かった。


それはもう、顔にも動作にも出さないが、夕方から都内某一流ホテルのガーデン続きの大ホールを借り受け大々的に行われる「納涼祭・感謝のつどい」なる、どこの町内会だっていうイベントに、例のバカバカしい黒ユリ様として、一番見せたくないし絶対笑う気満々の、まあ2名ほどは若干、いや、あきらかに感性が違うのもいるけど、その保護者達が待ち構えるそれに、何の因果か、いるのを承知で参加しなければならない自分に恥ずかしさのあまりしばらく途方にくれていた。


しかし当日を迎え、徐々にテンションが妙な具合になり、しまいには低く温度さえ感じさせないくらいの怒りの感情が奥底にわきあがってきた。


委員長たち幹部やメンバーが待ちうけていたホテルのロビーに姿をあらわした透子は、保護者達の渾身こめたオーダーメイドの上品な黄紗のカクテルドレスに身を包んで現れた。


その長い黒髪を綺麗に結い上げ所々にピンでさされた本真珠の大粒の輝きが、そこからわざと垂らされた黒髪でさえ、息をつめるほどの美しい少女がそこにいた。


そこだけ違うその存在の稀さを周囲に放って、今か今かと待っていたメンバーの前に堂々と現れた。


美しい女性などいくらでもいろいろな場所で見慣れていた委員長たちでさえ、底に氷点下の怒りを溜めて凛と前をみすえる透子にその瞬間圧倒されていた。


決してゴテゴテと飾り立てているわけでもないのに、そこに現れた透子の凝縮されたかのような苛烈な、しかし鮮やかなオーラに、美しいとしかいえない、他に言葉など思い浮かばないそれに、存在に皆は自然と頭を下げて出迎えていた。


ホテルのロビーに30分以上前から綺麗に華やかなパーティードレスに身を包んだ100人以上の見るからなきらびやかなお嬢さんたちがいるのは、ここが一流ホテルとはいえ、ひどくめだっていた。


上品ないかにも令嬢然とした彼女たちは、それだけの数がいるにもかかわらず、うるさく感じるものではなく華やかさでもってここにいた人間を楽しませていた。


このロビーの喫茶室などで商談の打ち合わせや、同じように待ち合わせしている大勢の人間たちの関心をそれとなく一身に集めていた。


時々いかにもな上流階級の人間たちと会えば上品に挨拶をかわしたりしている所をみると、やはりそれなりの娘たちなのだと、好奇心にまかせてチラチラと見ていたものたちは思っていた。


頭の中で、しかし何事なのだろうと思いつつ。


そこにボーイに案内されて新たにロビーに足を踏み入れた一人の鮮やかな少女が姿を見せると、そのキラキラしい少女達が腰をかがめ、一斉に頭を軽く下げて挨拶した。


その壮麗さに、100人以上いる色とりどりのドレスに包まれた少女たちの一糸乱れぬ優雅な礼は、それとなく注目していたもの達が思い切りまじまじと不躾と承知で見てしまうほど美しいものだった。


すると、挨拶がすむや、その少女の傍に幾人かが近寄り、そのまま並んで歩き出す。


それに続いて整然とロビーにいた少女たちが、次々と続いて去って行った。


白昼夢のようなそれに、思わず商談の相手ともども、手を止めてまじまじとその後ろ姿を見てしまった男は後程、それが最近噂に聞く件の集団だと商談相手から聞くのだった。





委員長から途中ゲストとしての挨拶が欲しい、と恐る恐る言われ、もうここまできたら何でもやってやろうじゃないの!と思うのと、珍しくあの、そう、もう一度言うけど、あの!委員長が控えめなので、どうしたのさ?という目でみてやる。


委員長はそのいつもの私の様子に、ほっとした目を瞬間したので、すぐ表情を隠したけどね、あちゃあ、八つ当たりしてた?ごめん、とちゃんと謝った。


意思の疎通は大事だものね、特に戦うことを前提としてる集団わね。


委員長は違うから、とぶんぶん首をふったので、私は今日は頼りにしてるわ、とにっこり笑って握手した。


うちの保護者たちを見ても、力がある大人なんてろくなもんじゃないって知ってるからね。


「もうここまできたんだから、要望があればどうぞ。」


別名開き直りともいうけどね、そう言って後ろを振り返り皆にも声をかけると、何故か皆赤い顔をして私をウルウルみているだけ。


ふっ、珍獣か、私ってば珍獣扱いか?


それならそれで、私は待ち構えているだろう動物園の中に、優雅にけれど誰より強かに入っていってやろうじゃないの。


動物園じゃ珍獣こそが王様だわ、牙のとれた猛獣なんて目じゃないわ。


人気者=力でもあるもの。


珍獣結構よ!


黒ユリメンバーズが、初めて見る私服、それも正装姿も麗しい黒ユリ様に、ただ魂を奪われていただけなんて、少しもわからない透子は、ここで奥底の冷えた怒りにプラスして女王様化まで発動し、より一層の鮮やかさをまとって会場入りした。


私の前には私以外許さない!そうきつく前を見据えて会場に入っていく透子をさすがの委員長も見惚れていた。

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