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君のままに美しく  作者: そら
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第13話 もう大丈夫

 夏休みに入ってすぐ委員長からメールがきて、学校関係者じゃ委員長のみしか教えてないそれに「あれから委員長のお父さんにおもねる人間が極端に増えたという事や自分もあちこちのパーティーに連帯責任だと連れまわされる機会が増えてやってられない」との近況が入っていた。


 それと例の従姉妹の家は業績不振を理由に井上グループからの離脱か経営陣の辞任を正式に突き付けられどうやら総辞任で落ち着く形になるそうだ。


 従姉妹の所は兄である井上委員長のお父さんの所に、新しい役職か次の仕事の紹介をお願いにきたらしいが、委員長いわく時々好きかも、と思う母親に、次期当主になるかもしれない娘に対し敬意どころか立場もわきまえずその娘の頭を踏みつけておいて、よくものこのこと顔を出せたものだと門前払いになったそうで、虎視眈眈と昔から狙っていた当主の座はおろか、実質この先どこも拾ってくれる所はあらわれないだろうと、ニヤリと笑う黒さ満開にしか見えない可愛い絵文字でそれを知らせてきた。


 私にとってどうでもいいそれを送ってきたというのは本人も何かけじめみたいな感じで送ってきたのだろうと思う。


 私を道具として使うこの根性、どこが上に立つ人間じゃないよねえ、笑うしかないわ。


 井上委員長はとても早い頭の回転や臨機応変の柔軟さ、清濁もきっちりと持っている子だ。


 そして濁でさえ使うことにためらわないしなおかつ人望も半端ない。


 それでなきゃ10年以上いくらお嬢様方だからといって、これだけの数を脱落者、まあ裏切り者と言ってもいいけどそれらを出さずまとめてこれる訳がない。


 けれど幼い時からの従姉妹へのトラウマでどこか自分から上に浮き上がるのを恐れているふうがあった。


 その重石が外れた今、きっと彼女は大化けするに違いない。



 私は姉と、あの男を思い浮かべ自分は今どうなんだろうと思った。


 もう無様に逃げださずにいられるだろうか、とじっとあの逃げた場面を思い返し考えていた。


 集中エステを受けながらぼうっと考えていた私にヨウちゃんは、足の裏のツボを痛いほど押してきてついその痛さに涙目になってしまった。


「い、痛いよ、ヨウちゃん」


「透子、不細工になるような考え事は禁止だ。何を考えてた?」と私を見る。


 エスパーモードだ、すごい。


「冗談でしょ」って私は思い切りそれを鼻で笑ってやる。


 ヨウちゃんは、それで正解とばかりにまた丁寧にマッサージを再開してくれた。


「で、透子、お前あいつに何おねだりしたんだ?あいつの事務所すげー事になってるらしいぞ。キョーから聞いたが覚悟しといたほうがよさそうだ」


「うそ?マジで?それより何で事務所?え?」


「馬鹿か、お前、そりゃあここに入りきれないからに決まってんだろ。事務所で図体がでかい強面たちと、あーでもない、こーでもないって選んでるらしいぞ、お前に渡すやつ」


 あちゃあ、そうだった。何とか実地訓練をあきらめてもらおうと、ガンちゃんにおねだり攻撃発動したんだっけ、すっかり忘れてた!止めないと。


「ね、入りきれないって何で?何してんの~」ヨウちゃんにガバっと起きて聞くと、


「だからお前は抜けてるっていうんだ。透子お前何もブランド指定しないで、ただ洋服やらバックやらおねだりしたろ?」


「あいつが、お前に対してだけは宇宙バカになるってことを覚えておけよな」そう言って私をあきれたように見る。


 だってさ、一般庶民の私がブランドに明るいわけないじゃん。


 みんなが用意するもの、そのままなんだよ基本、私。


 突発的におねだり攻撃したんだものブランド指定なんてハードル高すぎだよ。


 私は急いでエステを終了してもらいガンちゃんの部屋にあわてて突入した。


 遮光カーテンのせいで、真っ暗な部屋の寝室に未だ寝ているガンちゃんに、ガンちゃん、ガンちゃんてば、ちょっと起きてよ~、とベッドに屈みこみ一生懸命声をかける。


 う~ん、とまだ眠りの淵にいるガンちゃんの声は低くかすれていてとんでもなくセクシーだった。


 ちょっと、もう。


 ガンちゃんは私をかすかに開いた目でとらえると、そのままヒョイと持ち上げ布団の中に私を抱き込む。


 ガンちゃんは自分の胸にすっぽり入るようにガサゴソ私を抱え直すとまた眠る体勢に入っていく。


 もう、違うって。ダメだこれ、今は無謀だったか、よし!撤退は潔くだ。


 ちゃんと起きてからにしよう、そう思ってガンちゃんの腕から脱出を試みようと何度も抜け出そうとするがこれが全然ビクともしない。


 鍛えてる女子高生をなめるなよ~、そう思って劉先生直伝の寝技から抜け出す体の動きをしてみるが、ガンちゃんは綺麗に私の動きを躱して更に抱き込んでくる。


 ね、ねえ本当に寝てんの、おかしいよ、これ。


 私これ先生から合格もらった数少ない自信がある技なのに。


 私は中国五千年の技をきっぱりすっぱり諦め基本の技にかえった。


 ガンちゃん、ガンちゃん、そう声をかけ頬をペチぺチ叩く。


 ガンちゃんはチラッと目を開けて私を見ると、それはそれは蕩けそうに笑い更に私を深く抱え込む。


 ・・・・・ダメ、諦めた。


 あと2時間もすれば起きる時間だし運がよければ誰かが私が戻らないのに気付き奪還を試みてくれるに違いない。


 先ほどまで一緒だったヨウちゃんはダメだ。


 あの時ガンちゃんから貰ったニョロニョロで目覚め、ムーミンのガーデンライトシリーズにほれ込み午後から届くはずのヨウちゃんの心の師、スナフキンのライトが届くのを今か今かと見えない尻尾をパタパタふって玄関から一歩も動いてないに違いないから。


 そのせいで私の恒例のエステも今日は夜の分を中止したのだ。


 私はあきらめて、ガンちゃんの胸に素直に顔を埋めこの暗闇の中でなら、姉と彼との事をもう一度ちゃんと考える事もできるだろうと今まで触れようともしなかったそれに暗闇の中ではじめて向き合った。


 あの時逃げなければ・・・。


 何がどうしてああなったのかを知るべきだったのか。


 それで理由がわかったからといって何かかわったのだろうか?


 と深く考えそれでも私はどんな理由でも、私とつきあいはじめたからにはやはりそれらを受け入れる事はできなかったろうと思った。


 終わったことだと、本当に本当に今ようやく思え真に彼らと決別した瞬間だった。









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