第2部 第25話 初めての交換生
顔合わせなんて相手の方とも、もちろん私フリークだと自他共認める1年生ともせずに・・・まあ逃げていた、ともいうけど、そんな感じでうだうだしているうちに交換生当日を迎えた。
え?当日なのに3日間ほどお邪魔する予定の私立西高にいなくていいの、って思うでしょ。
ちょうどその初日にお偉い政治家さんとお役人の方々が視察にくるのよ。
こちらは元々決まっていたから、午前中はこちらの対応を学校側と一緒にするの。
ほんのわずかな時間だけど、カメリア会の会長職は引退したけど、黒ユリ会の代表として参加したの。
うん、委員長の目が痛かったよ、特に。
他の3年メンバーや2年代表のおどおどちゃんなんか、生温かい目で、しょうがないですねぇって感じだったのに、委員長からは冷たいブリザードがびしばし。
ええ、私は数か月前に確かに言ったわよ。
「やだ、それはカメリアの方がやればいい」って。
面倒なおっさんたちに、お愛想するメリット全然ないもん。
でもね事情が変わったのよ。
ほら、何か、何かの事情が変わった・・・はず、そういうことで。
私は学園内を懇切丁寧にご案内さしあげました。
・・・すぐお帰りになられましたけど。
で、委員長にさっさといけ!と学園を追い出され、ドナドナ気分でユキちゃんがよこしてくれた迎えの車に乗って、東京から2時間ほどの私立西高に結局むかった。
荷物なんかは、全然やる気をみせない私にかわって保護者ズがもう送ってくれている。
通学組みと寮生が半々だという私立西高、正式名は私立西垣学園高等部だけど、飲食関係で財をなした西垣隆正氏が幼稚園、小学校、高校と一流たれ!の目標を掲げて作り上げた学園で創立はわずか20年を超えたくらいだけど、それなりに文武両道で名を売っている学園だ。
なんで今回、うちの学園と姉妹校になったのかわからないけど、ほら、うちの学園今や人気も日本屈指だもん。
週刊誌に特集組まれるんだよ毎年。
「聖桜学園外部合格生の出身校」やら「幼稚部や小等部の合格方法」とかね。
で、ついでにうちの黒ユリ会の噂が一人歩きしてる。
日本を動かす名家のお嬢様達の一大組織だの、黒ユリ会メンバーがそれはそれは大げさなくらい誇張されてんの。
実名は出ないけど、私なんて某ヒトラー並みの女王様扱い。
バカみたいよ、本当。
まあ、でもその噂のおかげで余計なのがちょっかいをかけてこないのもあるから、ほっといてんだけど。
まあなにはともあれ現実逃避していいですか?
もうじきお昼になろうとする時間、校門にうちの制服をきたおバカさんが後ろに8人くらいのこの西校と思われる男女を引き連れて、綺麗に頭を下げて待っているのが見えるの。
お互い視認できる距離でこのままばっくれるのはダメだよね、さすがに。
なんで?
やっぱり降りなきゃだめ?
きっとこの高校の皆さんには、何じゃこりゃとあきれられているよね。
この私を向かい入れる時の礼は、ガツンとやらなきゃいけない時だけ、阿吽の呼吸でうちのメンバーがするの。
何度もいうけど、阿吽の呼吸よ、それも必要な時。
何でこの高校の入口で、こうしてここの生徒も巻き込んで、なおかつ校舎の窓にここの生徒を鈴なりにさせている状態を作ってるのかしら?
それにどのくらい待ってたのかしら。
もうじき到着しますと西校側に連絡をいれたのが40分くらい前だ、確か。
あまり考えたくはないよね。
私はマリー・アントワネット、断頭台じゃないけれど、この恥ずかしい視線の数々で死ねる、確実に死ねる。
いいわよいいわよ、この高校での立ち位置はほぼ決定ね。
今さら人良さげに、にっこり笑ってフレンドリーに降りたって絶対無理。
「お菓子を食べればいいのに」のマリー・アントワネットバージョンでいかせてもらいます。
言っていい?お前ら噂に躍らせすぎじゃー。
私は一度目をつぶり委員長いわくの鉄壁の道化になった。
車は校門の前に横付けされ、運転手さんと助手席にいたユキちゃんちの執事の大山さんが先におりて、大山さんが優雅にドアをあけてくれた。
大山さんは私の住む寮の部屋の片づけをユキちゃんがじきじき頼んでいた。
私だけなら荷解きすらしないの知ってるから。
私は指の先までそれこそ髪の毛の一本一本まで神経をいきわたらせ、優雅に車から降りた。
すかさず「透子様お待ち申し上げておりました」と1年生の子、確か古くからの財閥系の三橋さんが声をかけてきた。
それと同時に更に腰をかがめ、これぞ見本というような綺麗な礼をしてくる。
ま、負けないもんね!
私は鷹揚に微笑み軽くうなずく。
そうして目線で顔をあげさせ後ろに控える西校の執行部の皆さんに微笑みかけた。
一人一人に軽く紹介を受ける。
それに私は「篠宮透子と申します。わたくしはすでに執行部を引退した身ですが、この度の交換生としてまいりました。1年生のこの子たちのフォローができればと思っております。よろしくお願いいたします。」
と真面目に言ったのに、まるで珍獣みたいに私をガン見してくる。
1年生達は1年生達で「透子様!」とうっとり。
あのねあんた達、ここは私の言葉を受けて「よろしくお願いします」とこんなとこで待たせた西校執行部に皆さんに、ご挨拶でしょうが!
仕方なく「このような所でお待たせして申し訳ありません・・・」
と私が続けて言う言葉は歓声にのみこまれた。
見ると校舎の窓からの黄色い声だった。
野太い声も混じって。
ああ、見世物決定の瞬間だった。