第2章 第19話 楽しいかも
この間の次代の顔見世披露会のあと、ほくほく顔の私と違って、あのガンちゃんにさえ、「はぁ~」という溜め息をつかれてしまった私。
何か納得できないよね、あの日のバイト代はきちんとカードで頂きましたけど、何か?。
なかなかないよ、こんなおいしいバイトは。
それも純粋にバイトしたし、うちの保護者ズの誰の所でバイトしたって、こんなに純粋に働くなんて、きっとないと思うもの。
絶対あま~いバイトになっちゃうに違いない。
珍しくユキちゃんにヨウちゃんは、「あなたがついていながら・・・」と言われてました、あの後すぐに帰って来てから。
うちの保護者ズは年齢とか別にして、皆私と一緒でヨウちゃんに拾われた口だから、あまりヨウちゃんに対して批判的な事は言わない。
趣味のアニメとかに関しては別にして、だけど。
あれは言わずにいられないよね。
ガンちゃん達の夜組は、必要な事だと割り切っているらしく、今回の中国訪問も昼組がぶつぶつ言うのを苦笑して見ている感じだった。
けれど、私のこのおいしかったバイトに関しては、皆口をそろえてブツブツ言ってくる。
「お菓子をくれると言ってもついていってはいけません!」
誰だ?私は幼稚園児じゃないよ、皆が小言を言う中で、そんなセリフまで言われてしまった。
そりゃあね、うちの保護者ズの誰かに言えば、このくらいポイってくれるだろうと思う。
だけどね、ホラちょっとは自立精神養わなくちゃ、そう思うのよ、私だって。
これって充分頑張った自分の権利でいいんだよね。
初めてのバイトだもの、凄く褒めて、でいいはずよね。
私が笑顔の大サービス、それも休憩をはさんで4時間もした立派なバイトなのに、反応が冷たい。
全く、心が私限定で狭くなるんだから。
で、心の狭い我が保護者ズは、結局その後は私のそばを離れなくなった。
お仕事はどうすんのさ、そう聞いても笑って相手にしてくれず、日本以上にべったり。
子供のとこいけ、って言っても知らんふり。
そんな感じで数日軟禁されてたけど、バカロンが数日ぶりにやってきて、「お楽しみ」に出かけるぞと言ったのが昨日。
で、飛行機と車を乗りついで、「お楽しみ」の場所に1日かけて到着しました。
どんなに見ても何もないような広い農場、そこはどう見ても見渡す限りの広い農場でしかない場所だった。
大きな建物が幾つか立っているけれど、この場所もまた何気に厳重に警戒されているみたいではあるけれど、どう見ても牧歌的風景にしか見えない。
牛がモーって鳴いてる。
私の冷たい視線をものともせず、バカロンはニヤニヤしたままだ。
「まぁ、まぁ、透子お前そんなカリカリするなよ。ついてからのお楽しみだって言ったろ。」
「それとも何か?俺とお楽しみするか?」
そう言って私の頬を撫でながら、その色気過剰な視線でもって、その身をかがめてこようとする。
それをそこらの虫をはらうように、ヨウちゃんがその手をスパンと払う。
さすがだ、ヨウちゃん!護衛の人の目線が泳いでいるけど、どうしていいかわからなくて。
ヨウちゃんは、バカロンなどいないように私に話しかけてきた。
「透子、もしここが気に入らなければ、このままマカオに移動するか?なに、未成年なんて関係なく遊ばせてもらえるだろうさ。なぁ。」
そう言ってバカロンを見る。
それにキョーちゃんが続いて、
「あぁ、黒幡経営のカジノが大分あるという話しだからな、おもしろそうだ。」と言う。
ガンちゃんとテイちゃんなんか気が早く、もうひきかえしはじめた。
それを笑いながらバカロンは「まず見てからな!」そう言って、あきれる私達をまた案内する。
一番大きなぐるりと大きな壁に囲まれたような建物に案内されて見たのは、とらえられているソウ達だった。
これが「楽しい」ね。
私はバカロンをしっかりとわかるように見つめた。
ガンちゃんが前に出ようとするのをヨウちゃんに止められる。
ソウはともかく、かわいい私のコロとシロに何すんのよ!
あの騒ぎで逃げたんじゃなくて、バカロンにつかまってたなんて、ソウ、あんたって本当におバカ!
本当に「太平洋の水」なみのおバカ。
あんたが天才って呼ばれてるのは知ってるし、確かにそういう話しも聞いてる。
だけどあんたって私限定に最低のおバカになるみたいね。
入ってきた私達を見てニヘラと笑うの止めて!このまま見なかったふりで出ていきそうになるから!
けれどけれど、私の可愛いコロとシロの、本当にうれしい!という、見えない尻尾のパタパタ動くさまを見てしまったらダメだった。
私は「コロ~!シロ~!」と語尾にハートマークをつけてその中に飛び込んでしまった。