第2章 第18話 魚心あれば水心
翌日、今回のお誘いのメインである黒幡での次代のお披露目が行われた。
難しいことなど何もなく、赤ん坊を抱いてタイムスケジュールに乗っ取って、幹部という名のお客を迎えるだけの事。
私は赤ちゃんを抱くなんて、あのちんまいのに関わるなんて、絶対いや。
だからバカロンが抱っこして、その隣に私が座って、その脇にヨウちゃんが立ってという形で幹部たちを出迎える。
それでその間、あとの保護者ズはどうしているかというと、それぞれどこかにお出かけ中。
昨夜のうちに出かけていったのは、ガンちゃんとかの夜組。
朝早くに出かけて言ったのは昼組、キョーちゃんはガンちゃんのお供でついていった。
なんか、どこにいくのか話していたけど、全然覚えていない。
ほら、テンション下がってるから、私って感情に素直なの、一部例外を除いてはだけど。
で、最初の一組、体の小さな好々爺って感じの人が代表である5人とご面会してます。
重鎮らしいその人達は、何とおおげさに、ちんまいのを抱くバカロンにかしずいた。
ドン引きしていいよね。
何やら興奮気味にまくしたてるその老人には、珍しくバカロンも表情が柔らかい。
何やら最後には、私にも何か話しかけてくる。
ヨウちゃんが通訳じゃなければ、そっぽ向いてた自信がある。
バカロンとヨウちゃんの後見をしていた、いわゆる勝ち組の人達みたい。
ありえないよね、兄妹姉妹で、それぞれ後見の元、ちゃんとまともに話せるようになる前から殺し合うなんて。
私には関係ないけどさ、ただヨウちゃんは生きていてくれて良かった、心からそう思う。
顔はお客様の方を向け、にこやかに、ほら、私得意だもの。
頭の中では、あの日初めて会ったヨウちゃんを思いだしていた。
強い潮の香りが鼻先に思い出と共に蘇り、自分の足元に暗闇を作り全てに絶望していたあの日の私を思い出す。
いつのまにか寄り添ってくれた、いつの間にか手を握って導いてくれたヨウちゃん。
他の保護者ズの顔も一人一人思い浮かべた。
ああ、確かに私は愛されてるじゃない、昨日からの態度、彼らに対する無関心ぶりを、ちょっとは反省した。
あの時の絶望や怒りもゆるぎない私自身のものだもの、あんなに泣くのはきっともうないけど、忘れるなんてしない。
いい仕事をしたな私、と自分をほめてみる。
無駄にここに座ってるだけだと思ってたけど、ちゃんとテンション持ち直してるじゃない、この時間を使って。
うん、もういい、これ以上はいいよね。
大事な後見さんには、ちゃんと会った、ちゃんとあいさつもした。
最初の一組めだけ、というとらえかたもあるけど。
よし、終わりだ、終わり。
彼ら一組めを見送った後、私もそのまま綺麗に立ち上がった。
ふふん、だてに、あの「ごきげんよう」やってないのよ私。
そのまま「ごきげんよう。」仕様で、何もバカロンに言わさず部屋を出ようとした。
そこにバカロンが私を見ずに、腕の中の赤ん坊を見ながら、声をぼそっとかけてきた。
一組毎に50万、にこやかにできたら更に上乗せ50万、と。
ええ、私は、早速にこやかに席に戻りました。
この日私は、大変稼ぎまくった、それだけは言っておこう。