第2章 第14話 ねぇ・・・。
私はあわただしく中国に向かうための準備に忙しい保護者ズをはた目に、あれ以来初めてここにきた。
駅前に近い黒竜会の事務所。
あの夏のお祭りの日の煌びやかな雰囲気と、出店の匂い、瞬時にそれらがよみがえる。
けれど現在、この黒竜会はガンちゃんの所に組織ごと吸収され、この事務所もビルごと閉鎖されている。
もちろん、手入れの業者は入っているけど、それらは長く続かないらしい。
両隣りにある商業ビルもまた、新しい都市伝説に彩られている。
そこに昔から入っている店の幾つかで、お祓いやら何やら共同でやったらしいけど、そのいずれもが散々な目にあったらしい。
けれど、いわゆる怪現象を楽しむ人間が大勢ひっきりなしに、店にやってくるので、結局結果オーライとか。
きっと人魚姫も海の王様も、ただ静かにいたいだけなんだと思う。
その噂が本当なら。
「やくざの無理心中」
ばからしい、あれはもっと、透き通った綺麗な出来事だった。
流れた血でさえ、とても優しいものだった。
その存在の全てで、私を愛してくれた、その証し。
愛しい私の海の王様と人魚姫、私達に関係ないとこで、噂されるのも腹ただしい。
ここは私の聖域。
たとえ保護者ズでも、ここには足を踏み入れさせたくはない。
ちょっときたくなっただけ。
バカな噂にあまりにも頭にきて。
私は事務所の鍵をあけ、あのチィちゃんの部屋に入った。
何一つ変わらない、あのままの部屋。
そういえば、チィちゃんと私の愛しい男の遺骨はどうしたんだろう?
今頃になってふと思い浮かべた。
でも関係ないか、きっとここにいる。
この海の底の蒼い部屋に。
私は今でも24時間空調が入ったままのこの部屋の、ベッドのシーツをかわいいイチゴ柄のものに取り換えた。
あまりにかわいくて、感触も最高だったので、私のとお揃いでこの間買ったやつ。
そうしてベッドにゴロンと転がり目をつぶる。
ねぇ、そう言ってつらつらと、いろんな事をしゃべった。
ねぇ、そう言って、ちょっとワガママも言った。
しばらく話しながら、いつの間にかウトウトとしていたらしい。
何て事だ、時計をみる。
うちの保護者ズに小言を言われない内に帰ろうと部屋を背にしてドアを開けたとき、私のすぐ背後で懐かしいコロンの匂いが濃く香った。
私はそのまま振り返らずドアを閉めた。
「私だけずっと想っていて。」
そう言って。