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君のままに美しく  作者: そら
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第九話 こんな感じで黒ユリ様

 学園側も1学年の大組織である黒ユリ会を無視するわけにはいかず、専用の活動室の認可を次の月を待たずに認可され別館の旧ホールが黒ユリ会に与えられた。


 古い洋館風の建物をそのまま生かし、委員長やそれぞれの親の会社の援助を受けその内装はシンプルとはいえ置かれた幾つものソファーセットや、誰が引くのやらピアノまで運ばれ、品の良い巨大なサロンのような雰囲気に6月半ばには出来上がっていった。


 2階には幹部室と、私専用の代表室がありそれも各個人負担で好きなようにリフォームされていた。


 私の部屋は大きな窓がある十畳と六畳の続き部屋で、シャワー室とダイニングもある部屋だった。


 私はその内装をユキちゃんとレイちゃんにお願いし、続きの部屋はワンフロアーへとリフォームされた。


 さすが二人が整えてくれた部屋は、レイちゃんのとこにあったという年代もののヨーロッパのマホガニーの机などが中心におかれて、ひどくシックでそのくせ「高いです」臭はそこはかとなく漂っている部屋になった。


 カウチやウォーターベッドなどは最新の人間工学に基づいたものがおかれ、私はもっぱらそれらで学校であいた時間はこの自室でゴロゴロしているのがお気に入りになっていた。


 私はダイニングの片隅に梱包されたままの大きな荷物をできるだけ視線にも入れず考えないようにしながら「いつまでも現実逃避はいけないな、けど逃げる事も大事」と自分を慰めてみる。


 それらはガンちゃんから送られてきたトラのはく製や、そのままの形の北極熊の毛皮の飾りが入ったまま置いてある。


 テイちゃんから送られてきた金ぴかゴールドの置物、確かフクロウとか大時計とかだったもその隣に置きっぱなしで勿論これも梱包されたまま放置。


 それに絶対忘れちゃいけない、キョーちゃんからの飾り刀、それにチームの印入りとかの品の数々にため息をつく。


 内装のお願いを彼らに頼まなくて正解だったよね、やりたがってたけどレイちゃんの貴公子微笑み悪魔バージョンに敗れてくれて本当に良かった。


 けれどお祝いだと本気で送られてきた品を返すのもしのびないし・・・。


 結局こうして部屋の雰囲気を壊す荷物の数々をどうすべきかため息がでる。仕方がない、委員長にでも相談するかと再びのため息をつく。




 委員長とは私のちゃぶ台返し攻撃の合い間、きちっと一度さしで話しをした、これ、大事だよね。


 あまり面倒なただの黒い子なら、私はとっとと新しい高校へいくつもりでいた。


 彼女は私がこの学園に何の思い入れもないことを信じられないように見た。


 本当に驚いていたよ、私に「目的を話せないなら、ご破算だ」と言われた時には。


 それに彼女はなぜだと怒りと言う素の顔を見せ、やがてそれに気づいた委員長は顔を両手で覆いながら笑うなら笑えと、自嘲気味にぽつりぽつりと話し出した。


 小さな頃から「大企業の一族当主の娘である事を誇りにせよ」とそう言い聞かされて育ってきたこと。


 けれど2つ年上の従姉妹には、容姿や能力、何をやってもかなわなかったこと。


 父方のその従姉妹の親より自分の親の方が立場は上で、まして母は従姉妹より数歩遅れる自分をプライドゆえに気が付かないふり、いや本当にそう思い込んでいたのかもしれないが、自分の娘の方が優れていると信じ込んでいる。


 その上、自分の傍にくる大人は必ず従姉妹ではなく自分を褒める。


 五才のピアノの発表会で、自分は月並みの演奏しかできなかったのにやはり褒められた。


 心が苦しくて苦しくて、下を向いていた時、何気に従姉妹に目をやれば、彼女は自分を見て口元を少しゆがめて笑っていた。


 それは完璧に自分を見下していた笑いだった。


 従姉妹はこうして自分を嘲笑していたのか、今までも自分が彼女に悪いと苦しんできた時も。


 それ以来その従姉妹は自分を縛り付ける枷になった。


 激しい自家中毒症におちいって入院するまでになった自分が知ったのは、自分の親たちが勝手に決めた婚約者であったが、その婚約が今回の入院騒ぎで命の危機も、との噂にあっさり破棄されあの従姉妹の婚約者になったというのを憤慨する乳母から聞き、何とも思っていなかった婚約者だったが、あの嘲笑する従姉妹の顔を何度も今度は逃げずに思い返し、退院した足でもう一度その従姉妹とちゃんと戦うためにこの学園に従姉妹を追って入学した、と昏く笑った。


「勘違いしないで、本当にすきとかじゃなく自分の物だと言われてたのが無くなった、そんな感じなの、それがちょうどいい起爆剤になったのよ。うじうじする自分のね」


 そう言って今度は綺麗に笑った彼女は「それにね私がこうやって復帰したらまたぞろこちらにって打診あったらしいけど、母の怒りの前にパ-になって、私もその時ばかりは母を好きかもって思ったの」と話してくれた。


 学園で少しずつ少しずつ着実に組織を陰で作ってきたけど、それを率いるリーダーになる人間が育たなくて、これは、と期待しても時間と共に魅力的な力の闇に飲み込まれていってしまってダメだったと言う。


 そういう人間はさっさと退場してもらってここまできたけど最早残された時間は少ないとあせっていた時に透子が入学してきた。


 今回もまた半分はあきらめていたが、透子のスタンスにブレがなく、最悪、今回は飾りとしてはいいんじゃないかと思っていたのだと開き直って答えた。


「馬鹿みたい?いいわよ、笑えばいいわ。あなたに知ってもらおうとは思わないわ。私って上にたつより脇で立つタイプなの、わかるでしょ」


 そう言ってこちらを開き直って見据える委員長に、透子はにっこり笑って自分から初めて手を差し出した。


「あたし、ドロドロ好きかも。たっぷりのドロドロは引くけど、このくらいなら許容範囲よ。新しい自分発見だわ」


「で、私はお人形にはならない、そこのとこは理解して頂戴。オッケー?わかった?ここ大事よ」


 そう言うと委員長は不思議にこちらをぼーっとして見てたけど、理解するやいなや首を上下に何度も振り、私の手を恐る恐る取った。


 そこからまた例の私の手をとってのあれ。まあ、お互い最初のあれとは気持ちも違うけど。


 それからお互い言いたい事は隠さないようになった。


 ただし委員長いわく、まだ他の人間には何枚かきっちり猫を被るようにとの「お願いという名のどうみても命令」があり、「上に立てないねぇ、そりゃこの黒さは参謀むきだ」と言った私の言葉に何の事?ばりのホンワカお嬢様の笑顔でなおかつ視線で射殺せそうな器用さをを私に見せてくれたので、私もそれに敬意をはらい、部屋以外はちゃんと黒ユリ様の偶像になっていきますよと片手を上げてきちんと降参ポーズを見せてあげた。


 世の中ギブ&テイクだしこの私室は最高だもの、手放せないわ。


 そんなものだから、委員長をよんでこのトラの剥せいやらの相談も何の問題もなし。


 あとでちゃんと相談しようと美術の二時間ぶっ続けの授業をここでさぼっていた私は下に降りた。


 同じようにさぼってるクラスメートはわかるけど、他のクラスの子らも優雅にお茶タイムしていた。


 何の授業?ま、いいか、お互いさま。


 私がおりていくと、どちらへと声がすかさずかかる。


「昼食をとりにと思いまして」


 と私が素直に答えると、少しお待ちくださいと言って携帯で何やらやっている。


 前に一度無視してやったんだけど、これがこれが超しつこい。


 にこやかに笑い続けて何度でも聞いてくる。


 めんどくさがりを自認する私は2度と無視はやらない。


 お待たせして申し訳ありません、と階段の方で声がした。


 幹部室から委員長はじめ主だった人間が降りてくる。


 私は頭の中では相変わらずこいつらめんどくさっ!と思いながらも、彼女たちを待ち我が学園名物の中等部、高等部の全員が入れる巨大カフェテリアに進路を定める。


 進路?不思議に思うかもしれないが、最早これは進路の類なのだ。


 ほとんどユキちゃん特製のお弁当を持参な私だが、ユキちゃんが出張の時などはこうしてカフェテリアを使う。


 別館から、これまた別館のカフェテリアに向かうのに私を先頭として続いて委員長たち、その後ろに他の黒ユリメンバー、ぶっちゃけただ一年生の大団体がカフェテリアに向かうだけなんだけど、私がカフェテリアに向かう時のみこういう物凄い大移動になって進むことになる。


 あんたたち全員がお弁当ないってわけないよね、一度聞いてみたいものだ。


 カメリアメンバーズとその取り巻きさえ30くらいの人数の移動なのに、どよ、これ?数的にはそれを上回り凄いことになってる。


 こりゃあ、学園側が黒ユリ会をカメリア同様優遇はじめるのは納得だよね。


 はじめてこの大行進の話をしたらみんな大爆笑してるのに、ガンちゃんとキョーちゃんだけは、


「良くやった!透子!その基本ははずしちゃならねえ」とひしと私を抱きしめいつまでも二人で感動しあってた。


 はい、はい、女もはったりね・・・。


 次に二人の言う言葉をわかっている私はため息をついた。




 最近テイちゃんが、そろそろ俺らも進化を遂げていいはずだ、って言ってスマッシュブラザーズを卒業して、モンハンをこの3人でしかもオンラインではじめた。


 えらそうに、「ほら、透子、こうやって入るときはお辞儀をしてだな・・・」


 とかいろいろ私をその腕に抱き込んで説明してくれるんだけど、黒にあっという間にやられちゃったりしたら凄い内輪もめがはじまるんだ。


「お前の援護がひでえ。」から始まって「あの魔法はねえだろよ、おい!」って感じで、見事に迫力あるメンチをきりつけあう。


 まあ、仲間内ならまだいいけど絶対今対戦してる人、素性を甘い言葉に騙されて明かしちゃだめだよ!と何度思ったことか。


 リアル暴力団の組長とかチームのトップとか夜の王様たちの、怨念こもったダダ漏れのそれは背筋を凍らせる言葉のオンパレードで、まじモンハンのせいで内臓とられたりカニ漁とかに売り飛ばされたらかわいそうだと思うもん。


 海の魚食べるのやめようかとも思った、いろいろな意味で聞いてて怖くてね。


 大の大人が、とは思うけどヨウちゃんも毎日のようにムーミンのアニメをみてるし。


 本当に毎日でも時間を見つけては食い入るように見てる。


 どうやらあの出会いの海で釣り糸を垂れてたのは、尊敬するスナフキンを見習っての事だと教えてくれた。


 テイちゃんが、いつぞやどこで調べたのかミイとスナフキンは異母兄弟だと話をふり、「父親はどうやってそれぞれの母親とやったんかな、想像つかねーな、おい。」

 と言ってからかった時、文字通りその場の空気が凍った。


 ちょうど、めそめそが画面に登場して本来は癒される場面なはずが、聞こえるフローレンの声も最早地獄と化したその部屋でむなしく響くだけだった。


 ヨウちゃんの恐ろしさを初めて知ったよ、私は、うん・・・。みんなの拾い主件おとーさんなだけある、それだけの迫力があった。


 土下座して謝るテイちゃんが許されたのは、貴重な岸田版のアニメを綺麗に全巻揃えて特典つきで献上した時だった。





 いろいろ現実逃避して余計な事考える私だが、相変わらずこのモーゼの十戒のようなこの現象に恥ずかしくなる。


 何せ私の進む道は昼食に向かう人間で混んでいるにもかかわらず綺麗に人並みがあく。


 列の最後には次々と校舎にいた1年が誇らしげに合流して6人くらいの並びの列を更に増やしていく。


 ・・・何だろ、この恥ずいの、私何してんだろ。


 ムーミンに出てくる冬の生き物モランの孤独に毎回毎回それを見ては必ず涙を流すヨウちゃんくらい、はたから見れば恥ずかしい気がする。


 それでも、教えられた通りの最上の歩き方、姿勢に目線で私は優雅に先頭をきる。


 かかっておいで、子猫ちゃん!的な流し目を時折混ぜて。


 もうじき試験、それさえ終われば自由登校に夏休み突入、それを思い浮かべ全てを切り捨てる勢いで私はカフェテリアに向かった。










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