第5話『ダンジョンボス』
──薄暗い洞窟。
──日差しがないから、少し冷んやりする。
──辺一面、岩だらけ。
──少しの物音で絶叫するロゼ。
テスト試験でダンジョンに潜入した。
ロゼ、ウルト、クリア。
ロゼが騒ぐものだから、ウルトが必死になだめていた。
クリアは、不安そうにしているが、冷静であることには変わらない。
出現する魔物は、弱いと聞いている。
俺だって、ダンジョンとやらに入るのは初めてだ。
不気味さも相まって、ちょっとばかり緊張する。
ロゼはというと……。
緊張でガッチガチだった。
物音一つでビビっている。
クリアも少しばかりは、不安なんだろう。
おどおどしていて、警戒心が増していた。
ウルトは、淡々とダンジョンの奥までそそくさと足を進めていた。
なんか……頼もしいじゃないか。
その調子で魔物が出たらロゼを助けてくれ。
こんなところでは、ロゼの魔法が使えんのでな。
「足を引っ張られたくないから、先に言っておくことが三つある。一に、常に俺様の背後にいろ。ニに、指示をしたら魔法を使え。そして三に……二節魔法を使うな」
「……そうよね。ウルトの言う通りにするわ。でもなんであなたまでルート先生みたいなことを言うの?」
「クリア……アイツの授業を真面目に聞いてないんだな。話すだけ無駄だ。俺様の言う通りにしていろ」
「あのぅ……ウルトくん……」
「なんだ下民二号!」
「私……魔法が使えないんですけど……」
「面白い冗談だ。お前は、俺様だけに戦闘を強いるのか?」
「頑張る……囮とか!」
「……ユニークなやつらがパーティで俺様も楽しいよ」
ウルトは、頭を抱えていた。
二節魔法ゴリ押しのクリア。
戦えないロゼ。
この先、どうすれば良いのか試行錯誤している。
ロゼは、戦えない訳じゃないもん。
こんな場所で爆裂魔法なんか使ったら、ダンジョンごと崩壊するだけだもん。
そこんとこ、分かって頂きたい。
歩き進めて行くと、やはり魔獣が現れるようになってきた。
ガイコツの化け物。
スケルトンってやつらしい。
この姿を見てロゼは絶叫する。
「ギィャ〜!お化け!怖い!」
「貴様……お化けが苦手なのか!?この先はもっと出てくるんだぞ!?」
ウルトも仰天した。
ごくありふれた魔物だけあって、不思議でならんらしい。
良いじゃないかよお化けが怖いぐらい。
可愛い女の子なんだぞ。
しっかり援護してくれ。
群れになってスケルトンが集結しだした。
咄嗟にウルトが魔法の杖を構えるが、クリアが独断専行する。
「二節魔法──ライト・スピア!」
槍状の光の束が集結する。
光の槍がスケルトンを十数匹を纏めて討伐をした。
あんなに、群れていたのにものの一瞬で殲滅してしまったんだ。
クリアも二節魔法が使えたのにも驚くが、ウルトは呆れて物も言えぬ様子だった。
「やはり……二節魔法の方が効率が良いわね」
「絶対後悔するぞ。これ以上の忠告はしないからな」
「じゃあ、ウルトはあの数を一瞬で殲滅出来たっていうの!?」
「け……喧嘩はダメだよ!仲良くしよう!」
「……役に立ってから言ってくれ。先を急ごう」
ウルトの指示を無視するクリア。
それをオロオロと見てるだけのロゼ。
──最悪だ。
もう仲間割れしてしまった。
こんなんでダンジョンのクリアなんか出来るのかね。
何とか関係の修復を図りたいところ。
小声でロゼと打ち合わせするしかないか。
「ロゼ……このままだとマズイぞ。どうする?」
「ツエさん助けてよぉ……。二人とも怖いよぉ……」
「どうしたものかなぁ……」
ギクシャクとした関係は治らないまま。
ダンジョンの一層、二層と進んでいく。
相変わらず、ウルトは、一節魔法だけを適材適所で使用し、負けじとクリアが、ニ節魔法で魔獣を殲滅していた。
チームワークは崩壊を辿っているが、なぜだか進行自体は悪くない成果。
何事も問題が無ければそれでいい。
しかし、そう簡単な話しでもなく……。
「……ケルベロス!?」
クリアが呟いた。
ボスが違いというのに、中型の魔獣が出現した。
ウルトは、ゴクリと生唾を呑む。
クリアは、毅然とした態度で2節魔法の詠唱をしようとしていた。
そして、我が麗しい少女ロゼはというと……。
「ムリムリムリムリムリムリィー!!」
過剰なまでにビビっていた。
魔獣の数は2体。
挟まれたら終わりだ。
今こそ、チームとして連携する場面だが、そんな期待をしても無駄だったみたいだ。
「グシャァァァァ!」
──魔獣が咆哮した。
クリアが威嚇などもろともせず、一気に魔法を放つ。
「2節魔法──ライト・ドライブ!」
光属性、螺旋を巻く光線が2本出現した。
こうしてみると、やはり2節魔法は強力らしい。
一つの魔法でも本来であれば、手一杯になるだろう。
それを二つも魔法を出している。
魔力消費だってえげつないはずだ。
他の生徒じゃ、まず、出来やしない。
クリアも天才型の魔法使いであることが分かった。
強力な魔法でケルベロス2体の胴体を粉砕。
クリアの活躍により急場を凌ぐ形になった。
「私は……まだやれるのよ……」
疲労の蓄積からか、息切れしながら、クリアがウルトを当てつけのように睨みつける。
だけど、ロゼがクリアの異変にすぐさま気づいた。
「クリアちゃん……鼻血が出てる……よ?」
「──えっ──」
血が垂れているのをクリア自身が確認して、意識が飛ぶように倒れてしまった。
「クリアちゃん!」
ロゼ自身も状況が飲み込めていないんだ。
死んだ訳じゃないにしても、この状況は非常にまずい。
ウルトも相当なまでに深刻そうな顔をしていた。
これは……まさかな。
「──魔力切れだな……」
「これが……魔力切れ……!?」
「こりゃ、しばらく動けないぞ」
「ウルトくん……クリアちゃんは死なないよね。大丈夫なんだよね!?」
「大丈夫だ。休息を取れば時期に動けるようになる」
「良かったぁ……。頑張り過ぎだよクリアちゃん」
こんな急にぶっ倒れるのか。
魔力切れは恐ろしいな。
クソ変態教師の教えも理にかなってたんだな。
ちゃんと教師なんだと実感した。
今更だけどな。
現実はそう甘くない。
気づいた時にはもう手遅れだ。
その証拠にウルトはロゼに事の重大性について話していた。
「これから取れる選択肢は二つある」
「……やっぱり、キツイかな」
「そうだな。普通なら一人じゃきっと無理だろう」
「選択肢って何かな」
「まず一つ。試験の棄権だな。恐ろしい減点は覚悟しなきゃならない」
「棄権は、嫌だ!」
「お前……今の状況を理解してるのか!?」
「してるよ!クリアちゃんの頑張りが無駄になっちゃう!」
「感情論の話しをしてるんじゃない。このまま進むことがどれだけ愚かなことなのか……まるで分かってない!」
「大丈夫だよ。クリアちゃんは私が守る。おぶって走る……」
「実に愉快だな。無能で魔法が使えない女二人抱えて、一人でボスと戦えって言いたいのか?」
「それは……」
「あのクソ教師の試験だぞ。万一にも一人じゃ勝ち目がないことぐらい理解しろ!」
「……ウルトくんでも……ダメ……なの?」
──馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ァァァァ!!
上目遣いでこの小僧を挑発するなロゼたん。
絶対とんでもないキメ顔でロゼに格好つけるに決まってるじゃないか。
挑発に乗るな小僧。
棄権しろ、それでみんな安全安心だ。
「二つ目の選択肢か……」
「──えっ──」
「まぁ……俺様なら無能が二人いたところで?どうにでもなるけどな。俺様は上級貴族の天才だぞ?」
あーあ。
なんでこうなるんだよ。
ロゼさんの目ェがキラキラしてるじゃないの。
希望を見出してるじゃないの。
厳しいって。
全滅しちゃうって。
まぁ、いいさ。
ロゼが少しでも怪我したらぶち殺すからな。
後戻りは出来ないし、小僧にも腹は括ってもらうからな。
「いいんだな。厳しい戦いになるぞ?」
「大丈夫……ちゃんとクリアちゃんは守るよ」
「そんな心配は無能共に要らないんだよ。俺様の後ろで隠れておけ」
「ありがとうウルトくん。大好きだ!」
ロゼよ……。
誤解を招くことを言うでない。
見てみなさいよ。
クソガキの顔が真っ赤だぞ。
死ぬほど照れてやがるじゃないか。
「い、い、行くぞ。ぼ、ぼ、ボス部屋はすぐそこだ!」
気が動転してるじゃないか。
こんなんで戦えるんかよ。
不安でボクはどうにかなってしまいそうだよ。
これより、全滅寸前の我らがパーティは、最後の試練であるダンジョンボスに挑む為、重たい門を開いた。
ボス部屋は、闇より暗く、背筋が凍りつくほど冷たい。
ここが最後だけあって、空気感も温度差も、ダンジョン序盤とでは桁違いだった。
ただ、この場で異質なものがあるとすれば、それはポツンッと突っ立っている石像が一つ。
多分、ボスはこれなんだろう。
「ロゼ……あれ動くぜ。気をつけろよ」
「……ツエさん!?分かったよ!」
少しだけ、ロゼに合図を送ったがウルトに怪しまれてしまった。
そんなことより、あの石像に集中して貰いたいんだがな。
どうやら、ウルトは少しピリついていた。
「ひとりごとは済んだのか?」
「う……うん大丈夫!」
「ちゃんとクリアを隠しとけよ」
「頑張る!」
警戒を始めてすぐ、石像は蒼白く輝きだした。
たかが、小さい石像だ。
出てくる魔獣もきっとそんなに強くない。
そう決めつけていた。
なんでもそうだ。
例外なんて腐るほどある。
ごくありふれていて、当たり前のように、人を絶望の淵に突き落とすのだ。
その例外が今、やって来た。
それだけのことだった。
石像は発光の後、すぐに砕け散った。
それに伴い、地ならしまで発生。
トンデモない化け物が来る。
前兆のようなものだった。
「なっ……なんだあれ!?」
地中から這い上がって来た魔獣にウルトは戦慄する。
「上位種のキングゴーレム!?」
ボス部屋はそれなりに広い。
それなのに、圧倒的な存在感。
一言で表すと……岩石の巨兵。
身体が全て岩石で構成されている化け物だが、ウルトは上位種だと言ったっけな。
何か知っているんだろうか。
「バカな……試験で出していいような魔獣じゃないぞ」
「ウルトくん何か知ってるの?」
「あの魔獣はな、魔族と戦えるぐらい強い個体なんだ」
「それって……」
「魔族と同等の敵だって言ってるんだよ!」
「私たち……どうなっちゃうの!?」
危うく、ゴーレムはまだ襲いかかってはいない。
だが、時間の問題でもあった。
手を出せば絶対に反撃がくる。
そうなった時、一番厄介なのは、ロゼとクリア。
ゴーレムの攻撃をかわす暇なんてないだろう。
命の危機に瀕していた。
「お前ら下民は、ボス部屋から出ろ」
「そんなのダメだよ。ウルトくんをおいていけない!」
「邪魔だって言ってるんだ」
「それは……」
「悪いが……気を抜くと死ぬぞ」
ロゼの魔法で簡単に消し飛ぶのだろう。
でも、それが出来ない歯痒さもある。
ダンジョンを崩壊させたら、ウルトやクリアも危険に晒してしまうからな。
出来ることが何もない。
けれども、ウルトも見捨てられない。
きっと、ロゼも感情がぐちゃぐちゃになっているんだ。
最善策は、全力で逃げること。
あの教師が用意したボスに殺意が湧いた。
「そういうことか。最初から三人で協力しない限り、倒せない敵を用意したってことだな変態キモ教師めっ!!」
「どうしようウルトくん私……」
「全力でボス部屋の入り口に走れェー!」
逃げるしかなかった。
ロゼだって死人が出るのは、不本意だろう。
俺も逃げるサポートをする。
「物陰に隠れて門に飛び出すんだ」
「ツエさん了解です!」
出口が見えた。
比較的に安全な脱出だったと思う。
後は門を開けるだけ。
「ツエさん……門が開きません!」
ですよねー。
お決まりですよねー。
開く訳ないって思ってたんですよー。
本当に開かないとは思ってなかったけどさ。
フラグってやつは恐ろしいよ。
どうすんのこれ。
逃げられないじゃん。
バッドエンドなのかこりゃ。
「多分無理だ。絶対に開かねぇ〜」
「どうするんですかツエさん!?」
「こっちが聞きてぇよ!ウルトに聞いてこい!」
「……ウルトくぅーん。逃げられないよぉー!」
みんなして、焦っている様が妙に無様だった。
ウルト自身もロゼの叫びを聞いていただろう。
どうにもならないのでシカトしていた。
解決する術がないからな。
会話するだけ、無駄なことなんだろうよ。
ウルトも戦闘態勢だ。
ゴーレムも重い巨体がズシンッと動き出す。
ここで、ウルトとゴーレムのタイマンが始まった。
先制はゴーレムからだった。
拳を掲げて強烈な一撃を加えようとする。
あんなもの、まともに喰らえば即死だ。
このパワーが、魔族にも通用するってんだから、おっかないのは肌感で理解した。
それに抗うよう、ウルトも魔法を放つ。
──1節魔法ボルテック。
ゴーレムの拳に合わせて雷撃を放撃した。
「……何ぃ!?」
当然、威力は殺せずに咄嗟の危機回避で致命症を避けた。
厄介な相手だよ。
一人で立ち向かうのには部が悪い。
初撃ではっきりと分かった。
撤退の許さない状況でどう戦うのか。
俺には全く予想がつかない。
「ウルトくん大丈夫!?」
「心配するな、かすり傷だ」
「だけど……頭から血が出てるよ?」
「俺様の心配より、寝てる無能の心配でもしておけ!」
回避したとはいえ、ウルトのダメージも深刻そうだ。
メテオのような衝撃波を食らって、脳も揺れている。
なんとか立ててはいるようだが……。
体のふらつきが目立っていた。
「無能共は……俺様が……守るんだ……」
「──えっ──」
「約束したからにはやるんだ。俺様は上級貴族だぞ。どれだけ強力な魔物だってな……俺様が立っている限り……誰にも手出しはさせねぇーんだよ!!」
気絶しかけた、ウルトの眼つきが変わった。
──1節魔法ウィンド。
ちょっとした、風属性の魔法だった。
か細く詠唱して、ウルトはゴーレムに突撃する。
無謀だろ……そう思ったんだけどな。
「ウルトくんの移動速度が上がってる!?」
知恵と工夫を上手くやったらしい。
自分の足元に風属性魔法を放って、移動速度を上げたらしいじゃないか。
だけど、工夫はそれだけに留まらない。
「──ウィンド!」
風の抵抗で最速に移動しながら、ゴーレムの足元に何度も何度も風魔法を放つ。
威力は大したものじゃない。
言っちゃなんだが、ウルトも決して馬鹿じゃない。
的確に足元への集中攻撃は、ゴーレムの巨体を大きくグラつかせる。
おまけに、ゴーレムって種族はパワーこそ魔族と張り合えるが、知能がとても低い。
ウルトを殴って止めようとしかなかった。
馬鹿で助かったよ。
これならば……勝算がある!
「──ウィンド!」
後一撃でゴーレムからダウンを取れる。
倒れてしまえば、あの巨体で立ち上がるのは困難だろう。
ウルトも血眼になり、詠唱をする。
追い詰めた時、ゴーレムの様子が変化した。
「──魔法を避けた!?」
初めてのことで、ウルトにも焦りがみえる。
ゴーレムは魔法を避けたのではない。
──跳躍しやがった。
こんな土壇場での奇行に、戸惑いを起こす暇があっただろうか。
あんな巨体が跳躍するなんて思うだろうか。
そんな予想なんか出来るか!?
ただ宙に高く飛び跳ねたゴーレムに確かな殺意を感じた。
足元の攻撃を嫌っての行動だろう。
知能は低いはずなんだが……。
もちろん、飛び跳ねるとどうかなんでのは、分かりきった話しだろうよ。
──このままならみんな死ぬ。
対策も、考える時間も、全てゴーレムが落ちてくる対空時間内で処理しなきゃいけない。
「ウルトくん!!」
「ちょっと……無茶をやるから……」
「無茶ってなに!?」
「……黙って見とけ!」
ウルトの杖から高度な魔力を練り上がっている。
クソガキは……一体を何やろうってんだ?
辺り一面には、おびただしい電気が走っていた。
蓄電状態とやらか、または、大技の前触れか。
「いい加減……ウィンドで足腰ボロボロになってるだろ。ブチ抜いてやるから覚悟しろ。俺様のありったけの魔力を……持って行きやがれェェェェ!!」
──2節魔法ボルテック・ストーム。
やっぱり、2節魔法だったか。
魔力を練り上げる時間も長かったし、それに威力も強力だった。
ゴーレムを飲み込むほどの竜巻を起こし、その竜巻へ無数の落雷が何度も直撃し、あの巨体を擦り潰していく。
これが……天才だけあって、才能の魔力から放たれるウルトの2節魔法だった。
「──ブチ壊せェェェェ!!」
竜巻でゴーレムのが落ちてくる対空時間を調節しながら、少しづつ体を破壊して……やがて消滅した。
このクソガキが全部やり切りやかっだ。
気に食わないガキだが、まぁ本当に頑張ったよ。
感謝しなくもない!
内心、ボクの方がチョー焦ってたんですけどね!
最悪の場合……ロゼの魔法頼りだったからな。
小僧は当然ながら、魔力切れでぶっ倒れた。
「すごいよウルトくん。一人であの魔獣を倒すなんて!」
「うる……さい……。話し……かける……な」
「ありがとうウルトくんが居なかったら全滅だった」
「俺様に出来ないことなんかない。出血が止まらないんだからそっとしときやがれ!」
「手当しなきゃ!」
「救急道具なんて無いだろ?」
「そうでした……」
「無能なお前は二人も運べないだろ。ここでしばらく休息を取る」
「ゆっくり休んでね。ウルトくん……本当にかっこよかったよ。命の恩人だ……ありがとう」
「──なっ──」
確かにカッコ良かったですよ。
だけど、こんな奴に言ってやるだけ無駄ですぜ。
ロゼが甘い言葉を言っちゃうもんだから……。
見てみろよ、スゲェ顔が赤くなってるじゃん。
その歳で発情期か?あぁん?
ロゼに発情してんじゃねぇーよブチ殺すぞ!
「ツエさん……これで試験は合格だよね?」
「そのはず何だがなぁ……」
ボス部屋の転移魔法陣に変化が見られなかった。
ゴーレムも倒した訳だし、これ以上に倒す敵だっていない。
さっさとワープして、変態教師を血祭りにあげてやろうと企んでいたからか、多少なりともイラつきを覚えた。
代わりにクソガキでもシバいてやろうと思ったが、可哀想なので辞めることにした。
ボクは優しいからな。
今回だけは見逃してやるが……。
すーぐ、色目を使うからな。
油断ならないぜ……。
「見てツエさん。魔法陣が光ったよ!」
「よーし、やっとゴールか。きつかったなー」
ようやく帰れそうで一安心。
心が緩んだ時に、何か知らん違和感のようなものが、俺の直感を刺激した。
魔法陣は……ただ光っている訳じゃない。
ドス黒く、怨念や、邪悪な瘴気を纏っている。
見た目から察するに……これはゴールじゃない。
「マズいぜロゼ!?とんでもない魔力が魔法陣から溢れてるぞ!?」
「まさか……ツエさん……!?」
「脱出が出来ないうえに、ゴーレムよりも恐ろしい魔獣が来やがるぞ!!」
転移魔法陣から現れたのは、とても子供が戦えるような魔獣ではなかった。
明らかに、誰かが仕向けた罠なんだろうよ。
恐らく……試験とは別件で現れやがった。
転移魔法陣ってのは帰る為の一方通行の魔法だ。
誰かが改ざんして、ロゼたちを殺す為に送り込んだ魔獣。
冗談キツいぞ……。
魔力切れで誰も戦えないってのにこれか。
「ヒュ……ヒュドラ!?」
「知ってるのかロゼ?」
「魔大陸にしか住んでない交戦的な竜ですよ!」
「ここ……魔大陸ちゃいますやん」
「不思議です!」
「……もしかして、チョー強い?」
「ツエさん……」
「……もう何も言わなくていいよ。分かってるよ、どーせ見た目がすんげぇーだもの」
泣きたくなっちゃった。
まぁ、ボク杖ですから、涙なんか出ないんですけどね!
何をどうしたら、六つの首を持つ大型のドラゴンを子供三人で倒せるというのだね。
一難去ったら、大厄災が降ってきた。
ウルトやクリアも戦闘なんて出来る状態じゃない。
魔力切れの気絶状態だ。
──絶望感だけが、俺とロゼの心を蝕んでいた。
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