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高校デビューした俺。学校一の美少女を狙うはずが、クラスでは犬猿なのに家では甘々な義妹が邪魔してきて気持ちが揺れてます  作者: 久遠遼


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01平凡な俺と学年一の美少女と義妹

挿絵(By みてみん)


 俺――若松智也わかまつともやは平凡だ。学力も運動神経も容姿も、中の下。


 だけど、それに不満はなかった。

 オタク仲間に囲まれて、漫画やアニメの話で笑い合い、それなりに楽しい毎日を過ごしていたからだ。


 きっとこのまま、なんとなく高校に入り、なんとなく卒業していくんだろう。

 そう思い毎日を過ごし、迎えた高校入試の合格表の日。

 

 合格者が貼りだされた掲示板の前で、自分の受験番号を確認しようと、ポケットに手を入れて俺は焦る。

 ポケットに入れておいた、自分の受験番号が書かれた紙がなくなっていた。


 番号をひかえていなかったから、あの紙がなければ自分の受験番号を確認する方法がない。

 普段から、大切なプリントとかも雑に管理していたクセがここでも出てしまった。

 しかも、よりにもよって自分の進路が決まる大切なタイミングでしでかすとは、呆れてしまう。 


「これ、あなたの?」


 どこかに落ちていないかと周りを探していると、ふいに声をかけられて顔をあげる。

 そこには一人の女の子がいて、一枚の紙切れを差し出して俺を見ていた。


 陽射しを透かすような明るい茶色の長い髪。春の光と同化したような顔に、思わず息を呑む。金色を溶かしたような瞳がこちらを見て、ふっと笑った。


 その瞬間、俺の時間は止まった。


 花のように耳元を飾る赤い髪飾りでさえ、彼女の美しさを引き立てるために存在するように思える。


 他にも彼女と似たような、セーラー服を着ている子はいるのに、まるで別世界の住人のような眩しさ。


 彼女から差し出された紙を見てみると、それは俺の受験番号が書かれたものだった。


「う、うん。俺のだよありがとう」


「よかった、大事な物でしょ? 落としちゃダメだよ?」


 微笑みながら答えたあと、彼女はその場から離れる。

 だけど、少し離れてから思い出したかのように俺の方を振り返って、小さく手を振って言葉を発した。


「おめでとう、高校では同級生だね。これから三年間よろしくね」


 彼女の言葉を聞いて、はっとして掲示板を見る。

 そこには、俺の受験番号がしっかりと記載されていた。

 

 再び彼女がいた方へ振り替えると、そこに彼女はもういなかった。

 俺はただ呆然と立ち尽くし、心臓の鼓動だけが全身に響いていた。


 胸が苦しい……なんだこれ?

 今まで経験したことはなかったけど、なんとなくわかった。

 さっきの女の子のことが好きになってしまったということを。





 俺の人生における初恋から数か月後、高校に入学してすぐその彼女――柳瀬玲奈やなせれなは“学校一の美少女”と呼ばれるようになり、皆の憧れの的となった。


 彼女に惚れた男たちが、次々と彼女にアピールひいては告白しては振られる。そんな日々が過ぎていった。


 かくいう俺も、彼女に振り向いてほしくてアニメやラノベ一辺倒だった趣味から一歩踏み出し、SNSやバラエティで世間の話題を仕入れるようになった。

 苦手だった女子とも積極的に話して、会話スキルも磨いた。

 だらしなかった見た目も、最近の流行りを取り入れて、““表面上は“見事に高校デビューを果たし、男女問わず友人も多く、“三枚目のお調子者”キャラとしてクラスに馴染むことができた。


 表面上だけ? それはそうだ、ずっと陰キャオタクをしてきた本質は変わらない。

 陽キャどもと話すと、未だに内心冷や汗もんだ。

 だけど、それがどうした。隠し通してしまえば、表面上だけだとしても、それは本物にしか見えない。


 そんな自嘲と割りきった思いで、いざ彼女に挑もうとしたけれど、中々そんなチャンスは掴めず気づけば一年が過ぎ、高校二年生となった。


「よろしくね、若松くん」


「うん、よろしく柳瀬さん」


 そんなもどかしい日々を過ごしていた俺だったが、ついにその柳瀬さんと同じクラスになり、しかも隣の席になったのだ!


 五十音順に並ぶ席順が生んだ奇跡。ありがとう母さん、俺を若松の姓にしてくれて。

 いつも振り回してくる母に、人生で初めて心から感謝を捧げた。


「俺、授業中寝ちゃうかもしれないからさ。当てられたら助けてよ」


 隣の席になった彼女に、さっそく冗談交じりに話しかけると、彼女は口元に手を添えてクスッと笑う。


「そういいながらちゃんと授業受けてるよね? 成績いつもいいの知ってるよ」


 よし、掴みはいい。彼女と一対一で面と向かって話すのはこれがはじめてで、内心ドキドキして手汗も凄いけど、このままの流れを維持しつつ会話を続けていく。


「いやーこの窓際だとさすがに寝てしまうかも、昼ご飯後なんて特に」


「確かにお昼ご飯後の授業は眠たいかも」


 彼女は楽しそうに笑った。二人で笑い合う。その時間が、ただ幸せだった。


 もし彼女と付き合えたなら、俺の高校生活はまさに薔薇色だ。


……だけど、神様は平凡な俺に試練を与えてくるらしい。


「怜奈~来たよー」


「わぁ、も~美羽。びっくりしたじゃない」


 来たよ、俺の天敵が。

 俺が去年、柳瀬さんとまともに話すことができなかった唯一にして最大の原因。


 その原因となっている少女――小野寺美羽おのでらみうは柳瀬さんと同じ中学で一番の親友。

 肩までの艶やかな黒髪は、絹のようにさらりと流れていて、切り揃えられた前髪が大きな瞳を縁取り、その瞳は紫がかった青で、吸い込まれそうなほど澄んでいる。


 柳瀬さんとは違った魅力のある、学年でも指折りの美少女だ。

 そんな彼女とも、今年から同じクラスとなったのだから、クラスの男子はかなり浮かれていた。


「あれ、若松くんいたんだ」


 柳瀬さんに向けた人懐っこい笑顔と、明るい声とは違う。俺にジトーとした目を向けて低い声でつぶやいた。


「いたわ! なんなら俺が先に柳瀬さんと話してたぐらいだ!」


 俺が抗議すると、興味がまるでないかのように「ふーん」といった後、誇らしげに胸を張りながら言葉を発っした。


「いい若松くん? 怜奈にとってあなたはただのクラスメイトであたしは親友。この差わかる?」


「ぐっ……」


 何も言い返せなった。いくら先に話していたとは言え、ただのクラスメイトと関わるのと、親友と関わるのであれば、当然後者の方がいいに決まっている。 


「こらー美羽。そんなこと言ったらダメ! せっかく同じクラスなんだから仲良くしないと!」


「はーい、もう言いませーん。ねぇ、隣のクラスの加奈たちのとこ行こ!」


「あーちょっと! また後でね若松くん」


「あ、うんまた」


 棒読みの返事をした後、柳瀬さんをつれて教室を出て行ってしまった。


 その背中を見送ったあと、がくっとうなだれる。


 今ままでもこうだった。チャンスをみつけては、柳瀬さんに声をかけようとしていたけど、ことごとく邪魔をされていたのだ。

 それも見計らったかのようなタイミングでだ。


 折角のチャンスを邪魔されてしまい、しばらく窓からの景色をぼーと眺める。

 やがてホームルームが始まり、新学期初日は午前中で終わりとなる。

 その日は、柳瀬さんとそれ以上は話せずに学校を後にした。


 家に着いてドアに手を掛けると、鍵は空いていた。

 先に帰っていたのか……それにしても不用心だな。また注意しないとなと思いながら、そのままドアをあける。


「ただいま」


 玄関には、俺の物よりは一回り小さい、かわいらしいローファーがきれいに並べてあった。


 脱いだ自分の靴も、並べるように玄関に揃える。廊下を進みリビングドアを開けると、中から小さな影が勢いよく飛び出してきて、俺に抱き着いてきた。

 

「お帰り! お兄ちゃん!」

 

 満面の笑顔を浮かべ、嬉しそうに俺の胸に顔をうずめてきたのは、柳瀬さんの親友であり、俺の義理の妹である。


 ――小野寺美羽だった。 

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