6話
圭太は覚悟を決めました。
自分の事を助けてくれた村長が、自分のせいで責められて青い顔をしているのに、黙って見ていることは出来ませんでした。
「村長! 俺なら大丈夫だ」
その場にいた全員の視線が圭太に向かいます。
「俺の事は気にせずに、事実をそのまま言ってくれ」
「本当に良いのか?」
申し訳なさそうに、村長のカフェミルクが聞き返します。
「ああ」
「なんだ貴様、無能のくせに勝手に口を聞くな! おん? なんだその目は、ワシが誰だか分かっているのか!?」
「大司教様!」
怒りに満ちた圭太の顔を隠すようにして、すかさず村長が大司教の前に立ちました。
「この者は村の住人ではありません。昨日ふらりと現れた旅の者なのです。彼も自分のスキルが分からないというので、この機に鑑定の儀を受けさせていただいたのです」
「ほう!」
その言葉を聞いた途端、大司教の顔には卑屈な喜悦が満ち溢れました。それは見ていて吐き気がするほど気色の悪い表情でした。
「ならばとっとと村から追い出すことだ。この村の住人でないのなら私の責任ではない。それで解決だ。おお神よ、感謝いたします」
大司教は芝居がかった態度で天を仰ぎました。
「ですが! この者は記憶を失っているらしく、何も知らないのです。このまま放り出しては野垂れ死ぬか、魔物に襲われて死んでしまいます。どうかご慈悲を。せめてひと月ほどは猶予を」
必死な村長の顔を見て、圭太は涙が出そうになりました。
昨日初めて出会ったばかりでした。事情を説明したら同情してくれて、自宅に招待してくれました。裕福とは思えないのに、ご飯も食べさせてくれました。
自分だったら、見ず知らずの相手にそこまでできない。そう思うほどのもてなしでした。
そして今、誰もが恐れている大司教に立ち向かい、自分を守ろうとしてくれています。
「そんなものは私の知ったことではない! 貴様までこの私に指図する気か!! 何様のつもりだ、身分を弁えろ!」
「指図ではありません! そのような言い方をしてしまったのなら謝ります。人一人の命が掛かっているのです。どうか考え直して頂けませんでしょうか?」
「黙れ!それ以上何か言ったらお前もそこに寝ている奴と同じ目にあわせるぞ」
圭太は無言のまま奥歯が軋むほどに噛みしめました。今まで生きてきて、これほどまでに人を憎らしく思ったことはありません。
「出ていく」
圭太は真直ぐにその男を見つめました。記憶に刻み込んで忘れないようにするためです。
「名前を教えてもらいたい」
どうしても聞いておかなければならないことでした。
「おい貴様! なんだその生意気な目は! 私はプーチャル教の大司教だ。貴様みたいな最下層の者が口をきいていいわけがないだろう。名前を教えろだと? 身分をわきまえろ馬鹿者が! 痴れ者が!」
過剰に運ばれる血液が頭に鈍い痛みを与えます。この男が自分勝手で自分の意見を曲げない事は分かっていました。それでも、どうしても聞いておかなければなりません。
「名前を……」
歯を食いしばり声を絞り出しました。
「フン! まあいい」
脂ぎった顔が愉悦に歪みました。
「私の名は大司教バレルだ。よく覚えておけ。あと何日生きていられるのかは分からんがな! ハハッ!」
唾を飛ばしながら嗤います。
「おい貴様!いつまで睨んでいるつもりだ!貴様のような無能は私の管轄には不必要だ、どこへなりと消えろ。そして二度と戻ってくるな!」
(大司教バレル……お前の事は絶対に忘れない。死んでも忘れない)
「そうだ!俺らの村から早くいなくなれ!」
「お前のせいでせっかくの祭りが台無しだ!早くどっか行けよ!」
「いなくなれ、いなくなれ!」
歩き出す背中に村人たちは嘲りと怒りの矢を放ち続けました。
圭太は追放されてしまいました。
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