5話
「大丈夫ですか、ポーター司教!」
地面にうずくまり、低く苦しげな呻き声を上げている老司教に、唯一駆け寄ったのは村長のカフェミルクでした。
(なんなんだ、これは……)
目をつぶったまま呻き声を上げる司教を見ながら、圭太は困惑と気持ち悪さを感じていました。
年配の司教が殴られるという光景そのものにも驚きました。
しかし、それ以上に圭太の心を凍りつかせたのは、村人たちの態度でした。
(まるで失敗した人間を見るような顔をしている)
脂ぎった顔で文句ばかり言っていた大司教とは対照的に、ポーター司教はこの村の恩人と言ってもいい存在のはずです。
村に到着してからというもの、彼は常に穏やかな笑顔を絶やさず、村人のどんな些細な相談にも親身になって耳を傾けていました。
それなのに今、誰一人として手を差し伸べようとはしません。
それどころか、倒れ伏した老人に向けるその視線は、どこまでも冷ややかで、無関心ですらありました。
(……偉い奴に目を付けられたくないってわけか。あの大司教の機嫌を損ねて、自分たちの生活に火の粉が飛んでくるのが怖いんだな。それにしたって……)
誰だって自分が一番可愛く、自分の平穏を守りたい。その心理は、圭太にも痛いほど理解できました。
けれど、それを差し引いてもなお。
自分たちに寄り添ってくれた老人を見捨て、強者の顔色を窺うだけの村人たちの姿が、今の圭太にはひどく醜く、耐え難いものに感じられました。
「ポーター司教! 起き上がるのは危険です。頭を打ち付けていましたから、このまましばらく様子を見た方がよろしいかと思います」
「貴様、村長だな!?」
倒れているポーター司教を介抱している村長カフェミルクに向かって、大司教が吼えました。
「はい、その通りです」
村長はとっさに返事をしましたが、呻き声を上げている司教の事が気になっているようです。
「貴様たちのせいで、私が被害をこうむっているのが分かっているのか!」
「いえ、それは……」
「私の管轄する領地から、無能が現れたら、私の経歴に傷が付くのだ! 私に傷をつけるということはすなわち、プーチャル教そのものを敵に回すのと同義なのだ!」
「そんなつもりは……」
「貴様がどんなつもりだったかなど関係ないのだ、馬鹿者! 事実だ。私の経歴が傷つきかけているという事実こそが重要なのだ!」
「も、申し訳ありません」
村長は頭を下げました。
決して本位ではないでしょう。しかしそうしなければ目の前にいる男がさらに激高することが分かっているのです。
「貴様のような老いぼれが頭を下げたから、なんだというのだ! この馬鹿者が! 痴れ者が!」
「申し訳ありません……」
罵声を浴びせられ続ける村長の顔を盗み見た圭太は、息を呑みました。恐怖と緊張で土気色になっていたのです。
(……駄目だな)
圭太はこの世界の歴史も常識も、ほとんど何も知りません。宗教にのめり込んだこともありません。しかし、宗教の恐ろしさは知っています。
これだけ横暴に持論を振りかざし、暴力を振るってもなお、この男を止めるものは、この村の中には誰一人としていない。それがすべてを物語っていました。
これ以上、村長に迷惑をかけたくはありませんでした。
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