4話
「失礼します。私は大至急、本部に連絡を……」
「ちょっと待て!」
慌てて駆け出そうとした老司教の背に、鼓膜を裂くような怒声が浴びせられました。
「なんでしょうか?」
「なんでしょうか、じゃない! 私の許可なく勝手な行動をするな!」
「いえ、しかし……」
「口答えする気か、貴様!」
「そんなつもりはありません」
「だったらどうして私に指示を仰がない? え? 自分の方が経験があると思って、私のことを馬鹿にしているんだろ!」
司教と大司教の口論に、村人たちも圭太も戸惑っています。
「いえ、そのようなことはありません。バレル大司教は若くして教会から認められた御方です。馬鹿にすることなど、あろうはずがありません」
「ふん! どうだかな……お前たちのようなやつらは、現場に立ち民衆と触れ合う事が最も大事なことだとか、馬鹿げたことを平気で言うからな。ん?何だその顔は」
「いえ、何でもありません」
「言いたいことがあるならはっきりと言ったらどうだ?」
「大司教、私はいまから本部に連絡をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「よろしいわけがあるか!」
荒い鼻息を吐き出しました。
「本部に連絡だと? そんなことをしたらどうなるか考えてみろ、馬鹿者が!」
大司教と呼ばれた男は、手にしていたハンカチを、汚いゴミでも捨てるように地面へ叩きつけました。
確かに男の方が教会での役職は上なのでしょう。しかし、遥かに年上の人間に対する口の利き方ではありませんでした。
「ええと……どういうことでしょうか?」
「ここは私が管轄する、私の領地だぞ!」
「はい、その通りですが……」
その場にいる全員が息を殺し、二人のやり取りを注視していました。祝祭の華やいだ空気は完全に消え失せ、嫌な緊張感が場を支配します。
「私の管轄する地区から『無能』な住人が現れたとなったら、教会がどう思うか考えろと言っているんだ!」
「は?」
ポーター司教の呆けたような声に、大司教はさらに顔を赤くしてまくし立てました。
「私のような特別な人間には、常に周囲の目が向いている! 誰もが私を引きずり降ろそうと隙を狙っているのだ」
「あの、申し訳ありませんが、一体何の話を……」
「特に、あの忌まわしいラカミノールの糞ったれだ。あいつは大喜びで吹聴して回るに決まっている! きっとこう言うだろう。『どこかの領地から無能の人民が現れたらしいが、それはきっと管理している奴が無能だからで、神からの暗示なのだ』とな!」
「いくらなんでもそれは考えすぎです」
「考えすぎ? お前に何が分かるんだ馬鹿者が! 決まっている、そうに決まっているのだ! 私は大司教なんかで収まる器じゃないんだ! こんなくだらないことで足を引っ張られてたまるか!」
自分勝手な理屈を怒鳴り散らす男を前に、ポーター司教は困惑しながらも必死に言葉を紡ぎました。
「お話は何となく分かりました。ご自身が、周りから何を言われるのかと心配しておられるのですね。
しかし、今はそんなことを言っている場合ではないと思います。鑑定の儀の規則では――」
「貴様! 私の話を聞いていたのか!?そんなことをすれば私の進む道の邪魔になる、そう言っているんだ! 年寄りすぎてそんなことも理解できないのか!? 貴様の役職はなんだ!」
「……司教です。ですが、こういった場合は役職ではなく規則が優先されるべきです。鑑定の儀において、今までにない事柄が起きた場合、あるいは未知のスキルが発見された場合には、すぐに本部に連絡を取り対応を協議するとされています。それほどにこの鑑定の儀というのは重要であり、そして未知でもあるのです」
「そんなことは分かっている!」
「でしたら! 私情を挟むべきではありません!」
口論の末、司教も感情的になっていました。
周囲の人間にも伝わっていました。ポーター司教はきっと、この大司教のことを認めていないのだと。そしてそれは当の本人にも伝わっていました。
「大司教である私に対して説教など、無礼にもほどがある。弁えろ! 立場を弁えろ! この痴れ者が!」
刹那、たっぷりと肉のついた右腕が、凄まじい勢いで横に振るわれました。
「ああー!」
無防備に立ち尽くしていたポーター司教の左頬に、大司教の拳が容赦なく叩き込まれました。
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