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3話

 


「無能?……今そう言ったか?」


 ざわついていた広場に、湿り気を帯びた、うっとうしそうな声が響き渡りました。


 圭太を嘲笑い、あるいは蔑んでいた村人たちの人だかりが、波が引くように左右へと割れていきます。


「邪魔だ、どけ!」


 そこからのしのしと現れたのは、不機嫌を絵に描いたような白い法衣の男。同じプーチャル教の法衣でありながら、ポーター司教のものとは比較にならないほど上質な素材でした。


 年齢は三十代半ばほど。薄い頭髪から覗く地肌が、脂でぎらぎらと光っています。


「まったく、面倒なことになった……。なぜ私ばかりに、こうも次から次へと苦難が降り注ぐんだ」


 苛つきながら歩くその背後には、鉄の光沢を放つ武装を身に着けた三人の屈強な男たちが従っていました。


 男は圭太の目の前で足を止め、その顔を一目見てから鼻を鳴らし、続いてポーター司教を睨みつけました。


「おい! 今の話、間違いないんだな? こいつが無能だと、そう言ったのだな?」


「はい、その通りです」


「ふんっ………」


 その遠慮のない侮蔑は、圭太の尊厳を土足で踏みにじる、露骨な響きを伴っていました。目があった瞬間に分かりました。この男とは一生分かり合えることは無いと。


「黒髪とは随分と珍しい髪の色だなぁ貴様。まるで物語に出てくる勇者様のようじゃないか。無能のくせにもったいない!今すぐ頭を丸めた方が良いんじゃないか?」


 大司教は侮蔑の笑い声をあげ、それに合わせて取り巻きの男達も笑いました。


 圭太にとっては何を笑われているのかピンときませんでしたが、それでも馬鹿にされていることは伝わりました。


「何だその目は、言いたいことがあるなら言ったらどうだ?え?」


 圭太は口を開きませんでした。しかし、目は口程に物を言う。その感情は相手に伝わっていました。


「おい貴様! 名を名乗れ」


 大司教は顎で命令を下しました。


(ふざけんじゃねえ!)


 圭太は奥歯をぐっと噛みしめました。


 この男を見る周囲の反応から察するに、素直に従っておくべき相手なのは分かりました。


 しかし、圭太という人間は人から命令されたり、高圧的な態度をされると異常なほど反発心が湧いてくるのです。


「いや、名乗らんでいい。明日にはもうお前のことなど忘れているだろうからな!」


 顎の肉を揺らしながら高らかに笑います。まるで圭太を苛つかせるためにわざと笑っているかのようです。


 彼の言ったことは間違っています。


 忘れることは出来ません。


 このふたり、お互いに二度と忘れることのできない相手となるのです。





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