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16話 ~反撃開始!~

 


『所持スキル:無能』


 その文字は、暗闇の中で妖しく光り輝いていました。


「知りたい……」


 そこに触れれば、さらに詳細な情報が表示されるはずです。


「無能……お前は一体何なんだ?」


 今日一日、頭の中で繰り返し鳴り響いていた言葉。


 自分を苦しめ、絶望の底に叩き落としたものの正体を、ようやく知ることができるのです。


「頼む……」


 圭太は祈りに震える指先で、その文字にそっと触れました。


 その途端に表示される文字の羅列。


『特殊スキル:無能 Lv3』


『特徴:自分から30m以内の指定した生き物一体を無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、著しく不運になる。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない』


 無意識に呼吸を止めていたことに気が付いて、大きく息を吸い込みました。


「俺が無能なんじゃない! 他の奴を無能にする能力なんだ!」


 大きく息を吸い込んでから、声と共に一気に吐き出しました。


(無能だから魔法が使えない、無能だから身体能力が普通、無能だから死ぬ――そう思い込んでいた。)


「やった……」


 あまりにも嬉しすぎました。


「生きられる! 生きられるんだ!」


 当たり前すぎて、感謝したことなどありませんでした。しかし、実際に死に直面してみて、自分がどれほど生きたいと願っているのかが、はっきりと分かりました。


「バカにしやがって豚野郎! この腐れ豚野郎が!!」


 空中にイメージした顔を、シャドーボクシングの要領で殴りつけます。


「俺は無能じゃない! 相手を無能にするタイプの『無能』なんだ! 分かったか! 分かったかこの野郎!」


 吼えながら何発も何発も殴り続けます。


「あいつらもだ! あいつらも俺を馬鹿にしやがった!」


 自分を取り囲んで蔑みの目を向けてきた村人たちのことも、同様に殴りつけます。


「おらおらおらーーー!!」


 汗が顔から滴り落ちても、暗闇のシャドーボクシングは続きました。今までの鬱憤を晴らすように、とても良い顔をしていました。


「ふぅ……」


 そしてしばらくののち、息を切らしながら満足げに河原に座りました。


「……で、これって結局なんだ?」


 ようやく冷静さを取り戻した圭太が、考え始めました。


「無能……」


 相手を無能にするということは分かりましたが、詳しい内容については、まだはっきりとは分かっていません。


「『ステータスが90%ダウンする』……つまり、攻撃力が100の敵が攻撃力10になるってことだよな」


 見事に小学校を卒業した実績のある圭太の優秀な頭脳が、見事に答えを導き出しました。


「確かにかなり強力な魔法に思える」


 それでも、完全に満足はしていなさそうな表情でした。


「魔物、見たことはないけど、相当強いんだよな? 地球の生物に例えたら、どんな感じなんだろう……まさか熊とかライオンと同じくらいとか言わないよな?」


 その二匹が自分の目の前に立ちはだかることを想像してみます。


「勝てる……のか?」


 圭太はしばらく頭を悩ませましたが、答えは出てきません。


「ちょっと待てよ。確かゴリラの握力って500kgじゃなかったか?」


 圭太の優秀な頭脳が再び計算を始めます。


「ステータスが90%ダウンすることで、ゴリラの握力は50kgになるってことだな……うん、そうだ。そして俺が学校のスポーツテストで叩き出した記録が……30kgとかだったはず……つまり……俺の負け」


 何度計算してみても、答えは同じです。


「『ターゲットは1体』って書いてあったよな。つまり……複数で来られたら……?」


 先ほどまでの歓喜から一転、不安げな表情を浮かべ始めました。


「……無能。もしかして、なんか微妙か? いや、まさか、そんなはずは……」


 しばらく固まっていた圭太の脳裏に、ある言葉が浮かび上がりました。


『著しく不運になる』


「そうだ、それもあったな。不運って、いったい何が起きるんだろう……あまりにも抽象的すぎるな。うーん……スキルがあるのは嬉しいけど、もっと分かりやすい方が良かったな。かめはめ波とか……」


 しばらく考えましたが、無能というスキルが強いのかどうか、結論は出せません。


「試してみるか……それが結局一番早いか」


 圭太はぶつぶつと独り言を言いながら考えます。


「そうなると、誰かに犠牲になってもらわないといけないな」


 どのくらいの時間、無能になるのか。ステータスが90%ダウンすることで、どのような影響があるのか。不運になると、具体的にどんなことが起きるのかを確かめる必要があります。


「誰を……」


 無能にするべきか。


 無能になっても良い奴。


 無能になってしまった事で今後苦しんでも良い奴。


「……あいつに決まってるだろ」


 圭太の顔に、今日一番の邪悪で最高の笑顔が浮かびました。


 ゴミを見るような目を向け、暴言を吐き、村から追放した声のデカい屑。綺麗な白い服を着た、下顎の弛んだ豚野郎。


「待ってろよ大司教バレル! 『無能』の力……とくと見せてやる!」


 闇夜を切り裂き、獲物へと向かって駆ける圭太。その口元には、冷徹ともいえる笑みが浮かんでいました。





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