1話
秋の陽光が香ばしいココクロ村。
広場には村人のほとんどが集まり、収穫物の展示場のようになっています。
荷車には山積みのカボチャ。木箱からは土のついたカブや根菜が溢れ出し、脱穀を待つ麦の束は高く積み上げられています。
今日は年に一度の収穫祭です。
「無能だ!」
大きな声に村人たちの視線が集まります。
そこにいたのは生成り色の法衣を纏った老人。ポーター司教。この世界で最大の宗教団体プーチャル教の司教です。
「無能! 無能だ!」
驚愕の表情で叫ぶポーター司教の前に立ち、青ざめた顔をしている男がいます。
黒部圭太です。
あの日、彼はローソンにいました。からあげクンを買うためです。自動ドアが開いて、いざ店内に入ろうとしたところで、目の前に黒い渦が出現しました。
突然、目の前が真っ暗になりました。そして洗濯機の中に放り込まれたような感覚に襲われました。上も下も分からなくなり、体が伸びたり縮んだりしている気がしました。
そして気がつけば、頬に温かい液体を感じていました。地面に横たわる圭太が見たのは、ヒョウ柄の巨大な蛙でした。
驚きのあまり、声を発することも動くこともできずに、目の前の光景を見続けました。蛙は圭太の顔におしっこをしていたのです。
異世界だ。
そう考えるしか説明がつきませんでした。
満足そうな顔をした蛙が去ってから、圭太がまず一番最初にしたことは、周囲に人の有無を確認することです。さっきの自分を誰かに見られたかどうか、それが重要でした。
幸いにも周囲に人影は無く、安堵して空を見上げると、そこにはふたつの太陽がありました。
間違いなく異世界だ。
確信した圭太は歩き始めました。訳も分からず歩いているうちに、この村に辿り着きました。
なんやかんやあって、親切な村長に、昨日は一泊させてもらいました。そして今日、村長の勧めでこの『鑑定の儀』に参加することになったのです。
(どうしてこんなことに………こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったのに………)
鑑定の儀とは、自分が所持しているスキルを司教から教えてもらう儀式のこと。この村では昔から、収穫祭の日に合わせて行われています。
この世界において最も重要と言ってよいのがスキルです。
農村に生まれた子供が農夫として一生を終えるのか。あるいは職人や騎士としての道を歩み始めるのか。まさに運命の分かれ道です。
昨日の夜は、ほとんど眠れませんでした。
異世界転生小説が大好きだった圭太は、「チート」が宿ることを期待していました。「ハーレム」を築くことを夢見ていました。
それがまさかこんなことになるとは夢にも思っていませんでした。
「本当に、本当に無能なのか………?」
老司教は杖を掲げ、再び圭太に鑑定を発動しました。
(頼む、何かの間違いであってくれ!)
祈る圭太の元に、結果はすぐに訪れます。
「無能! やっぱり無能だ!」
速射砲のように投げつけられる「無能」という言葉が、圭太の足を一歩後ろへと下げさせます。
「一体どうしたことだ……。鑑定の儀に携わって数十年、こんなことは今まで一度もなかった……」
司教は驚愕に顔を歪めていますが、それは圭太も同じです。しかし彼は司教とは違い、感情のままに声を荒らげることはしません。
そういう性格なのです。
自意識が無いわけではありません。むしろ人一倍あると言っていいでしょう。
今までの人生で、偉そうな同級生や理不尽な教師を見ると奥歯をぐっと噛みしめて、殺意に似た感情を貯め込んでいました。そうして腹の中に溜め込んだ鬱屈とした感情を、仲の良い友人に遠慮なく漏らす――彼はそんな人間です。
(何が『一体どうしたことだ……』だ!それはこっちのセリフだっつーの!遠慮なしに人を無能扱いしやがって、ふざけんじゃねえよ!)
圭太にはまだ不満を漏らす余裕があります。しかしこれは地獄の序章にすぎませんでした。
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